53:ダチョウのプール
「王都、落ちちゃいました。」
「…………ごめん、もっかい言って?」
アンデッドたちとの戦闘が終わった後。ヒードやナガン、獣王国を含めたお偉いさんたちで戦後処理の話をすることになった。いくら私が腐肉ゴーレムを消し飛ばしたとはいえ、その素材となった負の力の発生源。アンデッドの死体は未だ多数残っている。元々獣王国の兵士だっていう話だからそのまま消し飛ばすっていうわけにもいかない。この国の文化に従って処理する必要がある。
そして何よりも私が作ってしまったあの巨大野外プール。アレをどうするのかについても話し合わなければいけない。壊していいのならば即座にぶっ壊す準備というか、魔力砲をぶっ放すだけでいいのだけれど。少しずつ解体した場合どうしても水が流れ出ちゃうし、最大火力で消し飛ばそうとすると大地を焼き払うことになる。流石に許可なしでやるわけにはいかない。
冗談で考えてたけど、本当に観光名所にしちゃう可能性もあるしね!
と言うことで、真面目にお話しようかと思って青空会議に参加した訳だけどさ……
「我がナガンの王都が落ちちゃいました。いや~、失敗してしまいましたねぇ。」
そんなとんでもないことを開口一番にぶち込みながら、恥ずかしそうに笑う軍師。な、なんなんこいつ……!?
自分の国の首都が落ちてなんでそんなヘラヘラしてんの!? 狂ってんの? 『失敗してしまいましたねぇ』なんて恥ずかしそうに"えへへ"ってするような内容じゃないだろ! 大失態とかそのレベル通り越して国の危機じゃないの!? というかなんでこの場所で言う? この場に獣王国の人もおるんよ!? いくらこの世界の常識を持たない私だってそういう情報はある程度隠したり、深刻に言うもんでしょうよ!!!
呆気にとられる私たちの中でいち早く復帰したマティルデが、ヒードの人間として彼に尋ねる。
「そ、それは……。色々と大丈夫なのか?」
「えぇ。それは勿論、大丈夫ではないですね。しかしながら被害も最小限、兵の犠牲も十数人ほどの様ですし、陛下も重臣の皆様も無事とのことです。被害も軽い建物の倒壊程度みたいですし……、"軍師"としては最上の形で負けることが出来ました。」
「……王都が落ちたのにそれだけ?」
「えぇ、その通りです。」
「無血開城?」
「いえ、バチバチに戦闘したそうです。」
あ、あのさ。私このあたりの常識とかまるでないからわかんないんだけどさ、こっちの攻城戦とかそういうのって犠牲が滅茶苦茶少なくなるもんなんですか? いや、違うよね。軍師の話聞いて信じられないようなものを見るみんなの顔からして、コイツがおかしいだけだよね? え、何。普通王都とか攻められて負けたら滅茶苦茶被害出るようなもんじゃないの???
「それはもう、頑張りましたので。」
「が、頑張ったのね。うん。」
「とまぁさすがに私も何も関係の無い話を持ち込みはしません。言ってしまえば身内の恥、内々で処理してしまうのが筋です。しかしながら……。」
そう言いながら、彼は私の方を向く。
わざわざこっちを向くってことは、私に関係することなのだろう。ナガン関連で私たちと何かありそうなのは赤騎士ちゃんぐらいだけど、彼女に何かあった場合私の機嫌はすこぶる悪くなる。そんなことこいつが把握していないはずがない。もしその様な事態になった場合、目の前のコイツはもう少し大人しくしているだろう。
となると、違う件。……思い浮かぶのは、一つ。
「ナガン王都を占拠した人物。その者はアンデッドの軍勢を引き連れていたそうです、そして"獣王"の死体もその中に。」
「……へぇ。」
「ほぼ確実と言っていいでしょうが、今回我々が討伐したアンデッドたちを用意した者と同一人物かと。……それで、レイス殿。我らが王都の奪還計画。参加いたしますか?」
そう問いかける彼の眼。
本来であれば自国の問題は自国で解決するのが筋だ、そしてこの軍師であればその手段などいくらでも思いつくだろう。むしろ相手はすでに術中にはまっていてもおかしくない。私がNOと言った瞬間即座に制圧し、全て元通りにしてしまう。そんなことが出来てもまぁおかしくないだろう。自国の首都が落ちたというのにこの落ち着き様をみればそんなことすぐに解る。
なのにわざわざ私を指名して声を掛けた、ってことはあの約束のせいなのだろうか。アンデッドの掃討作戦の前に奴と言葉を交わした際、『"盗人"は私に譲れ』という言葉を口にした。"貸し"の権利を行使し、私にやらせろと言ったわけである。奴としてはその約束を守った形なのだろう。
(まぁそれも建前だろうが。……おそらくだけどコイツの頭のことを考えると私たちが察知する前にことを終わらせることもできたはずだ。そして"盗人"も『探したけどいませんでした!』だったり、別の人間を用意して私に処理させるってこともできたはず。)
つまり、今このタイミングで私たちがナガン王都へ行き、奪還作戦に参加することがこいつに取って一番都合がいいのだろう。私としても、獣王の死体を辱めた奴をブチ殺せるわけだ、悪いことではない。それに……
「獣王国の人の前で言うのはやっぱりそう言うこと?」
「えぇ。ですが実質的に彼らはヒード王国の統治下にあるような状態です。参加されたい方はいるでしょうが、そう多くは動員できぬでしょう。ですが、勝手に話を進めるよりはよいかと思いまして。」
そう言いながら、私と彼の視線は獣王国の人たちに向かう。実際に戦った兵士は民兵が主だったようだが、その指揮官や責任者として一部の将軍や官僚のような人間がこの場に来ていた。彼らも戦後処理のため、この青空会議に参加してたわけだけど……。獣王の話を聞いてからちょいとばかし動揺が顔に出ている。
「マティルデ。そこの所どうなの?」
「……正直言って今の自身にそれを決める権利はないな。いくら彼らが私に嘆願しようと兵を動かすことは難しい。そもそも獣王国の周辺国がいつ攻めて来るか解らない状態だ。簡単に兵を動かせる状況ではない。そして自国の属国、である国が安定していない以上、ヒード王国としてもレイス殿たちがナガンへと向かうことはあまり好ましくない、な。無論縛る権利などないが。」
急に話を振られてびっくりしたような表情を浮かべた彼女であったが、直ぐに持ち直し、少し考えた後淡々と自身の意見を口にする。
実際、彼女の言う通りで獣王国の置かれた状況ってのは面倒だ。私自身あんまりよくわかっていないんだけど、ルチヤ幼女王やアメリアさんから教えてもらった情報を元に考えると……。
まず獣王国は実質的にヒード王国に吸収されたわけだが、ヒードに二国分を守る戦力はない。そもそも国力が低い国家だったわけだし、動員できる兵力も多くない。さらに獣王国の兵力を使おうにも獣王とその常備軍が壊滅した現状外敵から身を守る力はない。故に現代の核みたいに持っているだけで威圧できる特記戦力こと私で『攻撃したらやり返すぞ? おん?』と言いながら相手を牽制し、その間に軍備を整える必要があった。
(けれどそんな状況で私たちが外に出て、それが諸外国にバレると好機とみて好き勝手攻められる可能性がある、と。……面倒だな。)
正直な話。ここまで政治に自分たちの自由が制限されると少々腹が立つものがあるが、自分のせいで人が死ぬ。全く関係の無い人間とは言え無辜の民が死ぬと聞けば、正直動きたくても動けない。もう片方の天秤に子供たちの命とかが掛かっているのなら即座に"群れ"を選ぶんだけど、今回の"盗人"の討伐はほぼ私の我儘みたいなものだ。
それで誰か犠牲者が出てしまうのは、ねぇ? あまり良い気分ではないでしょうよ。
「えぇ、それは重々承知しています。ナガンとしても獣王国を失うのは痛い。故にちょっと策を弄しようかと思いまして……。」
私がそんなことを考えていると、軍師からそんな言葉が上がる。……まぁお前なら何か用意してるよね。正直言ってお前のこと苦手だけど、そのあたりは信用してるよ、うん。信頼はしないけど。
「と言いましても少々収穫まで時間が掛かるのは事実。間者は適宜処理していますので、"王都関連"のこともこの場にいる皆様しか知りません。まだ時間があることですし、とりあえず皆さんでヒードの王都まで参りましょう。そちらでルチヤ王を含め対策を練ろうではありませんか。」
そう言いながら、今回の会議の本題である戦後処理を進めようとする彼。早速私の作り出した巨大プールを観光資源にする計画を話し始めた。お前も同じこと考えてたのね……、って! ちょっと待てお前!
「なんか私が参加するような感じになってるんだけど? まだ返答してないよ、私。」
「? ですが問題が起きないのならば参加なさるでしょう?」
「…………まぁそうだけどさ。」
うん、やっぱコイツ嫌い。
◇◆◇◆◇
そんなママたちが青空会議を行っている中、ダチョウちゃんたちはとっても暇を持て余していました。
なんといったってダチョウちゃんに難しいお話は皆目見当が付きません。賢くなったのは事実ですが、どんなに頑張っても幼稚園児が精一杯。大人たちがうんうんと頭を捻って考えるような問題に対し、自分たちができることは何もありません。というか難しいことはほぼ全部ママにお任せです。そもそも短時間の記憶の保持すらも難しい彼らが、同じ問題に対して向き合い続けることなど不可能でした。
そのため"群れ"のみんなと一緒に遊ぶわけですが……。
「くちゃい。」
「ごはん! くちゃい!」
「ばっちい!」
残念ながらお外は遊べるような状態ではありませんでした。
それもそのはず、先ほどまでダチョウちゃんたちが吹き飛ばした死体があたり一面に散らばっているのです。会議の前に超特急でママに体を洗ってもらったばっかりのダチョウちゃんたち、折角綺麗になったのに汚くて臭い場所で遊びたいとは思いません。少し考えれば『もっかい汚せばまたママにアワアワしてもらえる……!?』という天才的な考えを思い浮かぶ子もいたかもしれませんが、今回はそうなりませんでした。
アンデッドから湧き上がった負の力は全て腐肉ゴーレムへ、そして腐肉ゴーレムはママによって消し飛ばされた故に暫くこの死体たちが動くことはないでしょう。しかしながら三万近い死体が消えてなくなったわけではありません、死亡からかなりの時間が経っていますし、腐り果ててとんでもない悪臭がお鼻をくすぐります。
戦闘中は『やっつける!』で頭が一杯なので気にもなりませんでしたが……。
「あそぶ?」
「えー!」
「やだー!」
いつものようにかけっこするには地面がとてもくちゃい。穴掘りするのにもくちゃい、おひるねなんてもってのほか。かといってママに構ってもらおうとそちらの方を見ても、ママはなんだか忙しそうです。みんなで視線を送ればそれに気が付き手を振ってくれますが、こっちに来て一緒に遊んでくれたり、くちゃいのを何とかしてくれるわけではなさそうです。
つまり、自分たちでこの退屈な時間を潰す方法を見つけなければいけません。
「どうしよ。」
「こまった!」
「うにゅにゅ。」
ダチョウちゃん、とっても悩みます。
そして悩んでいるうちに、何を悩んでいたか忘れます。そして何を悩んでいたか思い出すために悩み始め、また忘れます。これまでのダチョウちゃんならばこの繰り返しを日が暮れるか、誰かに止められるまで続けていましたが……。今は違います。なんと素晴らしいことにこの群れにはとっても賢い仲間がいるのです。そう、デレちゃんですね。
他のダチョウのみんなが背後に宇宙を表している間、彼女一人だけは謎の数式が流れ始めます。まぁ全部一桁の足し算ですが。
「わかった!」
「わかった?」
「わかった!」
「すごいー!」
「ぱちぱちー!」
デレちゃんが挙げた大声にちょっとびっくりしたダチョウたち。何が解ったのか全然解りませんが、何かしらいいことがあったことは解ります。みんなでデレちゃんを褒め称えながら、ママに教えてもらった拍手をしてみます。
「あそこ! ママが作ったやつ!」
「あそこ?」
「どこ?」
「おっきいの?」
「うん! アレ! あれで遊ぶ!」
デレちゃんが思いついたのは、先ほどママが作り上げた即席のアンデッド処刑場。もとい獣王国に生まれた新しい観光資源です。デレちゃんの記憶、少々頼りないですがその情報によると、あそこにはママがお水を叩き込んでいるはずです。つまり即席のプール、水浴び&水遊びができる場所です。
水遊びが嫌でも、あの高い土の壁を登ったり、壁のてっぺんでお昼寝ができるはず。そして何よりもあのあたりにはくちゃいアンデッドの死体がありません。全部ママの魔力砲で消し飛んでしまっています。
「ぴったり! 遊べる!」
「おぉー!」
「しゅごい!」
「てんさい!」
自分たちが欲しい条件にほとんど一致している、そうデレが説明をします。ダチョウちゃんたちにとってその説明は非常に難しく、ちょっとだけ理解できてもすぐに反対側から情報が抜けて行ってしまいますが、何となくあそこで遊べることを理解しました。そうと決まれば早速出発……、の前にママに連絡を取りましょう。
「ママのとこ行こ―?」
「まま!」
「いく! いく!」
「ままだー!」
「「「わーっ!」」」
そうと決まれば話が早い、300の群れ全員の意識が『ママの所へ行く』になった彼女たちは一斉に走り出します。
勿論未だ青空会議は進行中、真っ先に軍師が異常に気が付き全速力で参加者たちに退避を促します。だって300のダチョウが全速力でこっちに突っ込んでくるんだよ? しかもあっちからすればまったく理由は解んないんだよ? 怖いじゃん。
レイスのみが『わぁ、みんな来たぁ。』のような的外れな感想を抱きますが、それ以外の人はそんな場合ではありません。とにかく逃げなければ轢き殺されます。ダチョウの脚力はフルプレートの甲冑を着用し十分に訓練された成人男性を蹴飛ばせる程度です、そんなものに轢かれれば命はありません。会議に参加していた皆さんは蜂の巣をつついたように撤退を開始。何とか全員が退避出来た瞬間、ダチョウたちがママに突っ込みます。
常人であれば挽き肉一直線ではありますが、さすがそこはママ。座った状態のまま姿勢を整え、子供たちの衝撃を身一つで受け止めます。流石に300ともなると体から不穏な音、それこそ骨が折れるような音が聞こえますがママには関係ありません。表情一つ変えず魔力を全身に流し回復させながら一人一人の頭を撫でてあやしていきます。
「ままー!」
「まま!」
「あそぼ!」
「あー、ごめんね。退屈しちゃってた? 確かに遊ぶにはちょっと汚いというか、匂うよね。ちょうど今ママたちそれをどうやって対処するかお話してたからさ、もうちょっとだけ待ってもらえる?」
「わかった!」
「まつー!」
「なでてー!」
「はいはい……、それでデレ? 何かあったんでしょう?」
「ん~? ……あ! ママ! あそこ! あそこで遊んでいい!?」
一瞬何のためにママに会いに来たのかを忘れかけたデレちゃんでしたが、ママに促されて何とか思い出すことが出来ました。翼の先でママの作った建造物を指さしながら、遊んでいいかと尋ねてみます。
「あ~、あそこか……。デレ、ちょっと待ってね? 軍師ー!」
少しだけ言い淀んだレイスは、ほんの少しだけ考えた後。安全圏に下がりながらこちらの様子を窺う軍師に向かって声を掛けます。
「ちょっとこの子たちの面倒見るから抜けるよー! 大丈夫ー?」
即座に軍師さん、この場に彼女がいなければ、会議の後半に行おうと考えていたレイスママ対策の策が成り立たないことを理解します。そのため上手く言いくるめて彼女に会議の参加を促そうと思ったわけですが、即座に考えを改めます。
ダチョウちゃんたちからすれば、みんな大好きなママと一緒に遊べるかもしれないのに、あのよくわからないのが『NO』と言えば遊べなくなってしまうわけです。詳しいことは全然これっぽちも解りませんが、軍師が変なことを言えばその瞬間からアイツはみんなの敵です。それだけは理解できました。
故に、300の眼は全て軍師に向きます。そしてその目は、怒り狂う一歩手前の捕食者。選択を間違った瞬間、拗ねてイヤイヤモードに入ったダチョウたちが全てを平らげてしまうでしょう。渋々軍師さんは、ゴーサインを出しました。
「あれ、そう? いや悪いね。よーし、じゃあみんなで遊びに行こうか。先にママが危ないとこないか確認するからね、ちょっと待つんだよ。」
「「「はーい!!!」」」
その後、みんなで楽しく遊びましたとさ。
〇ダチョウは泳げる?
それほど得意ではないが、泳げる個体が多い。もちろんちょっと水が苦手でかなづちな子もいる。実際今回のプールでも自分が泳げないことを忘れて水の中に飛び込み、足が付かなくて溺れかけた子が数名いた。(即座にママによって救出)
また、泳ぐことは可能だが潜ることはあまり得意ではない。翼によって浮力を得ることは可能であるため浮かぶ力が強く、潜るのにはあまり適していないからだになっているのが理由。まぁもちろん例外はいるので普通に20m近く潜って奥底に沈んでいたガラス片を拾ってママにプレゼントした子もいた。
因みにちょっと訓練すれば水上を普通に走れる。
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