52:ダチョウと腐肉
「さぁ~って、このデカブツ。どう調理しましょうか。」
振り下ろされる拳を跳躍で避けながら、思考を回していく。
魔力の制限が無くなった以上、身体能力の強化にドカドカと魔力を注ぎ込むことができる。今の私じゃかなりロスが多くて、余剰分が外部に出ちゃうからね。アンデッドの生成時に誰かの魔力が入り込んだら、それを糧にしちゃうって話だったから怖くてろくに使えなかったのよ。つまり完全に形を成した今は使い放題ってわけ。
強化倍率とかは全然わからないけど、大幅な戦闘力の向上。やっぱこれがないとやっていけないよねぇ。能力の向上によって、脳内で想像したイメージをそのまま体現することができる。普通なら圧倒的な全能感に浸れるんだろうけど……、上を知っている私からすればこんなのじゃ全然イキれない。生きれないとも言う。
(だからこれぐらいの相手で、ねぇ?)
地面を貫くように振り下ろされた拳は、先ほどまで私がいた地点を容易く砕く。しかしながらすでに私の体は宙へ。
このアンデッド、なんというのが正しいのだろうか。見るからに腐肉の塊だが人の形を保っている。かといって完全に人間の形をしているわけではなくかなりずんぐりむっくりと言うべきか、まるで子供が粘土で作った人形のような形。まさにゴーレムって言ったところだろうか。目とか口とかただ窪んでるだけみたいだし。よぉし、今日から君は"腐肉ゴーレム"ね! 臭いからさっさと処分しちゃいましょう!
「と言うわけで早速、腕一本は頂いて行くよ。……っと!」
地面に向かって振り抜かれたその腕に向かって、空中から蹴りを放つ。
魔力によって身体能力だけでなく、爪も強化しておいた。未だ魔力を大量に込めて頑丈にするだけ、っていう力技しかできないけれど、コイツ相手にはソレで十分だったようだ。全力で振り抜いた足は何の障害もなくその腕へとぶつかり、"断ち切る"。ただの切断ではなく、横方向からの力で無理矢理捩じり取ったような形だ。
「後は何もできないように残りの四肢をもぎって魔力砲で消し飛ば………、おん?」
そう思い、弱めの魔力砲で方向転換をしようとしたが……、切断面が何だか蠢いていることを発見。
少し魔力を目に通し眺めてみれば、そこに魔力が集まっていることを把握。もしや、と思った瞬間にはもう遅く、吹き飛ばしたはずの腕が瞬く間に再生していた。見た感じ、魔力を消費して無から腐肉を生み出したような感じなのだろう。そしてその魔力はさっきこいつを形作っていた負の力を元に変換している。結構な魔力タンクになってそ。
にしても、回復持ちか。こういう手合い、よく高原で相手してたけど総じて面倒なんだよなぁ。
「んで、こういうのって大体……。うんうん、だよね、"腕も動いてる"。」
吹き飛ばした方の腕を確認するが、指を地面に突き刺し速度を殺していた。おそらく完全に止まった後は全速力でこっちに向かってくるだろう。
OK、切断は相手の手数を増やすだけね。把握した。
「じゃあこっちも……、っと! あぶな!」
攻め方を変えようとした瞬間、奴の全身が一斉に隆起し細長い触手のようなものが一斉に私に向かって射出される。数にして100は下らないだろう。即座に空中に向かって退避するが、なんとこいつら一本一本操作可能なようで全部私を追いかけてきやがる。しかもあっちじゃおかわりも用意しているみたいだ、追加の触手も飛んできやがった。
(細いといっても相手の体と比較した場合、少なくとも30㎝ぐらいは太さあるぞこれ。)
さらに面倒なことに途中から枝分かれしてきている。追いつかれそうになった触手を思いっきり蹴飛ばしたのだが、先端が弾け飛んだあと、残った面から新しく複数の触手が生えてきやがった。しかも最初の触手の先端はまん丸だったのに、次のはなんか尖ってる。気持ち悪いし、腐肉だから匂う。その上数も多い? 最悪じゃん。
「あぁもう! うざったい! 吹き飛ばす!」
数が数だ。こっちも数で応対しよう。
足裏から強めの魔力砲を放出し、一旦こちらに向かって射出されていた触手共を焼き払う。即座に体内の魔力に意識を移し、合計20の塊に切り離していく。魔力を消費した直後に回復する自身の体の異常さを再確認しながら、球体を形成。こいつが魔力砲の待機状態だ。
狙いは触手を焼き払い、本体にダメージを与える事。そしてこちらに向かって動き始めたあの吹き飛ばした方の腕を狙い、解放つ。
「撃てッ!」
視界が、真っ白に染まる。
20の球体から放たれた白い閃光は即座に腐肉の触手たちを消し飛ばしていき、その根元すらも焼き払っていく。ついでに腕も。魔力砲の閃光のせいですぐに見えなくなってしまったが、その初撃は確実に狙ったところを貫いていた。どれだけダメージを与えられたかはわからないけれど、最低限の削りぐらいは出来ているだろう。
それにしても頑張ったでしょ、私。ちょっと前まではこんなに同時斉射だってできなかったんだよ? 精々両手両足からの4つ。無理矢理頑張って8個。それが獣王戦での私の最大だった。
けど今じゃ魔力操作も向上したし! あの時点の3倍である24個なら何とかなるようになったんだよ! まぁ暴発の可能性があるから20ぐらいにしとけ、ってアメリアさんに口を酸っぱくして言われてるけどねぇ。
(一回暴発させそうになって空に投げたらなんか小さな太陽みたいなのが出来上がっちゃったからなぁ。)
ほらアニメとかで爆発が起きて、背景真っ白になって消えていく奴あるでしょ。あんな感じ。幸い怪我人でなかったからよかったけど……。思い返してみれば私魔法系の失敗クソ多いな。前も火球の生成ミスって周囲を人の住めない土地に変えちゃったしなぁ。なんかそこら辺、どうも高原での常識にまだ囚われてるんだよねぇ。あれぐらいの攻撃日常茶飯事だったし、翌日には何故か元通りになってたからついこっちでも『まぁ明日には戻るし……』ってなっちゃう。
「いつかやらかして怪我人死人出しちゃうかもだし、気を付けねば。」
そんなことを考えていると、ようやく光が収まっていく。
さて、どうなったかな?
目を凝らして見てみるが、とりあえず面倒だった腐肉の触手は殲滅が完了している。そして本体に合流しようとしていた腕だけど、そいつがいた地点の地面が赤熱して一部ガラス化している以外特に何も見えない。消し飛ばすことが出来たのだろう。とりあえずそこは上出来。
けれど……。
「敵、未だ健在。ってところかな?」
腐肉ゴーレムの本体に確かにダメージを与えることは出来た。見ても解るように奴の体は私の魔力砲によって綺麗に穴だらけになっている。しかしながら全身に魔力が駆け巡っていて、既に再生が始まっている。これはアレだね、完全に全てを吹き飛ばすかあっちの体力切れを待たないと終わらない奴だろう。
「っと、もう再生。それにこれは……、魔力の集中?」
そんなことを考えていれば、相手の再生がすでに完了している。しかしながらさっきと同じ腐肉の塊ではない、表面に何か突起、いや射出口のようなものが見える。魔力もそこに集中しているし……、おそらくだが周囲の状況や相手の戦闘方法を見ながら学習して成長していくようなアンデッドなのだろう。
私の扱う魔力砲は、獣王の作り出した技術をそのまま参考にさせて貰っている。そしてその技術の根幹となるものは、非常に簡単な原理しか使われていない。少しは向上したとはいえ、私の魔力操作は未だ初心者の域を出ていない。そんな私が使えるレベルの技術だ。ただ魔力を集めて、放出させるだけ、とても簡単なものだ。
つまり。真似をする、コピーするってのは容易い。ま、威力的にはかなり劣化するだろうけどね?
(獣王は類い稀な魔力操作によって。私は圧倒的な魔力量と体内での自然圧縮によってその威力を高めている。見た感じこいつ自体の魔力は少ないわけではないけど、私みたいにバカ多いわけでもない。そう怖いものは飛んでこないだろう。)
けれど、わざわざ攻撃されるのを待っているのは癪だ。少しは戦闘経験を積むことが出来るかと思い、あまり最初から押し切る手は打ってこなかったが……、遠距離攻撃をしようとするなら話は別だ。
離れてはいるといえ近場には子供たちがいるし、マティルデやアメリアさん。そのほか兵士さんたちがいる。……あと軍師も。私が手加減したせいで犠牲が出るのはあまりにも忍びない。
早急に手を打つ必要があるだろう。
「周囲に余計な可燃物はないみたいだし、近くに町があるわけでもない。……やってみようか。」
そう言いながら、魔力を集中させていく。
聞くところによると、アンデッドなるものには二つの弱点があるようだ。火属性と、聖属性。後者の方は私には扱えそうにないけれど、前者はなんとかなりそうだ。何せ詠唱だけでなく、実際に使った経験がある。未だ魔力操作が覚束ない自身は、"師"である彼女から使用の制限を受けている身ではあるが……、使わなければ経験を得ることは出来ない。習熟なんてまた夢の話になってしまう。
それに、汚物は消毒って昔から決まっているでしょう?
「『火球』」
片手を上げながら、ゆっくりと"キー"を唱える。その瞬間全身から大量の魔力が消え去り、私の頭上遥か高くに小さな赤い点が生成される。
そして、私の体内に凝縮し圧縮されていた魔力を糧に、巨大化する。見る見るうちに小さな灯だったソレは大きくなっていき、私の体よりも何倍も大きな赤。燦燦と輝く太陽にへと変貌する。ある程度暑さに耐性のある私でも溶けてしまいそうなほどに熱い。いや実際端から溶けているのだが、全身に魔力を流して順次再生しているおかげで実質無傷だ。
「ちょっと、周囲への影響を緩和させようか。『土壁』、だったっけ。」
自身がそう唱えると、先ほどの火球よりも多くの魔力が体内から消えていく。魔法自体は成功したが、どうやら私には土系の適性はなかったようで……、より多くの魔力を持って行かれたようだ。しかしながら"何故か"魔力は回復し始めるし、魔法自体も正確に起動する。
私が掲げた火球に対し攻撃をしようとしていたのか、真上を睨んでいた腐肉ゴーレムの周りに巨大な土壁が生成される。
厚さの正確な数値は不明、けれどこれまで見てきたどんな城壁よりも部厚そうな壁が奴の周囲を囲む。高さも奴の体格と同じ程度、これだけあれば十分防壁としての役割を果たしてくれるだろう。熱気だけでみんなに迷惑かけそうだからね、その対策。
「じゃ、やってみよっか。」
指を軽く曲げ、火球を投下する。
徐々に高度を下げていくそれは、確実に土壁によって作られたサークルへと吸い込まれていく。アンデッドの方も何かしているように見えるが、そのすべてが火炎に呑まれていく。触手や見様見真似の魔力砲、そのほか彼が思いつくすべての対策をしているように見えるが、圧倒的な火力の前ではすべてが無力。属性相性ってのもあるだろうけどね。
高原で嫌でも理解させられることではあるが、この世界では属性ってのが非常に大きい。普段は勝てないような敵も、属性有利を取ることが出来れば勝利が見えてくる。ま、そんなの簡単に乗り越えて来る奴がいるから"高原"なんだけど。
(考えれば考えるほど地獄だよねぇ、あそこ。)
火球は更に進み、そして直撃する。
何かしらの絶叫が聞こえるが、それも火によって包まれ、焼き尽くされていく。
討伐完了、だね。
◇◆◇◆◇
「っとぉ! 土壁は耐えてくれたけどまだ燃えてるなアレ。消火しないと。」
魔力の反応でアンデッドの存在が欠片も残っていないことを確認する。何の反応も拾えないし全ての焼却処分が確認できたわけだが……、未だ火球の火は収まりそうもない。なんかまだ燃えている。というか溶けている? 火球の温度が高すぎたせいか、生成した土壁の表面がなんか黒くなっているというか、案の定綺麗なガラスになっているし……。なんか灼熱地獄を作り上げちゃったみたいです。わたしこわ。
「とりま水、だよね。『水球』」
消火のために先ほどと同じように頭上に水球を生成するが……、先ほどよりも大幅に魔力を持って行かれる。なんだろ、火球一つで大体魔王の腕一本分ぐらいだったんだけど、この水球。さっきの火球と同じ大きさを注文したのに体内の魔王が4人ぐらい消し飛んだ。ちょっと持って行かれ過ぎて空中での制御失いそうになったじゃんか。
いや、属性に適性なきゃその分魔力の消費量クソデカいとは聞いてたけれどここまで持ってきます? 一人だけになった魔王ちゃん泣いてるぞ? いやまぁすぐに回復して魔王の数も増えるんだけど……、あ。6人に増えるのね。追加戦士ならぬ追加魔王ちゃんか。これからよろしく。なんかあったら即座に吹き飛ばして魔力に変えるから覚悟しといてね。
「土壁作った時もかなり持って行かれたし……、私そっちの適性ないのかもしれんね。」
いまだ属性魔法の修行を始めていない私にはさっき使った魔法以外の適性は解らない。けれど今のところ適性がありそうなのは火魔法のみ。土魔法はまだマシだったけれど、水にはとことん才がないようだ。ここら辺、個々人で色々変わって来るみたいだから、仕方ないのかもしれんけどさすがに魔王四人分は持って行き過ぎでしょう……。
ま、なんか魔力が回復する上に増加するっていうバグがあるわけだし、これでもう十分なんだけどねー!
「というわけで投下。」
先ほどと同様に指をカクンと落とし、水球を未だ燃え盛る炎へと投下する。重力に従って落ちていくソレは綺麗に土壁のサークルへと落下し、とんでもない轟音を立てて火炎を消火する。
「う~ん、でっかいプール出来ちゃった。……ここでウチの子洗うか?」
いやちょっと危ないかな? 地面がガラス化してるし、急激に冷やしたせいでなんか土壁が変形して無茶苦茶尖ってるや。あの程度で傷つくほど私たちは軟じゃないけど、あんまりトゲトゲしたところで水浴びもねぇ? そもそも土壁の高さ自体結構あるし、プールとしても使いにくい面倒なのができちゃった。広さは十二分にあるけど深さ20m近くのプールって誰が使うんだ……? 溺れたら死ぬぞ。
「いやマジでこれどうしよ。……ワンチャン観光資源いけるか?」
そんなことを考えながら、真っ先に子供たちの所へと向かう。遠目から見ても解るが、みんなちゃんとお座りしたままで、私に向かって手を振ってくれている。あらら、座りながら飛び跳ねてる器用な子もいるじゃんか。身体能力の無駄遣いしてるなぁ。
はいはい、手を振らなくてもみんなの顔見えてるよ。全員の顔を確認しまして……、おし、全員ちゃんといるな。お留守番成功!
「みんなただいま、ちゃんと待てて偉いね。」
「まま!」
「えらい?」
「えらい!」
「デレ偉い!」
「ままままま!」
「すごかった!」
おー、そうかそうか。ありがとね~。うんうん、ちゃんと待てて偉い偉い。あと私が戦うの見てたんでしょう? すごかったかー! うんうん、ママも頑張ったかいがあったよ。『もっかい! もっかい!』……、も、もっかい? ちょ、ちょ~っとそれはやめとこうね、うん。さっきは敵がいたからギリギリセーフだと思うんだけど、何もない場所で連発したらお母さんただの狂人になっちゃうから……。
「えー!」
「ざんねんー。」
「けちんぼー!」
「あはは、ごめんね……。いまケチって言ったの誰?」
「「「んー?」」」
お、お前ら。全員で首傾げちゃって……。というかほんとに今の誰? 誰にそんな言葉教わった? ママそんな言葉一つも教えたことないぞ? ちょっとお母ちゃんその人消し炭にしてくるから教えてくれる? というかまず名乗り上げなさいな。ちょっと賢くなったから覚えてるでしょ! さっきケチって言っちゃった子! ほら手を上げる!
「「「はーい!」」」
「……全員手を上げろってわけじゃないんだけどなぁ。まぁ忘れたんならいいや、そのままずっと忘却しときなさいな。っと、討伐も終わったしあっちの兵士さんたちと合流するよ。今度はデレじゃなくてちゃんと私について来なさいな、はいお返事!」
「「「はーい!」」」
〇魔法属性の適正について
エルフのように種族として対象の属性に適性を持つ者たちがいるが、基本的に種族ごとに得意な属性があるわけではない。また種族全体で特定の適性を持つのは魔物に多く、この世界ではそれが理由でエルフが差別の対象となっていた。(現在は違う)
ダチョウたちもそれは同じであり、レイスが持つ火魔法への適性を持たないダチョウたちも数多く存在している。
また、適性外の魔法を使用することは可能ではあるが基本的に莫大な魔力量を必要とするため、元々ありえないレベルで魔力を持っている人間や自動回復する存在でもなければ使おうとするようなものはいない。レイスの感覚にはなるが、水球の消費魔力は火球の大体50倍程度だったそうだ。
感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。




