36:ダチョウと無理
すみません、遅れました。
「ご歓談中失礼いたしますッ!」
OH、びっくり。おっきな声ねぇ。えっと、赤騎士ちゃんでいいのかな? もしかしてこのレイスちゃんに何か用ある感じ? いいよぉ、お姉さん横の軍師さんとお話するの疲れてたから、そういうの大歓迎。なんか、こう、頭を使わなくていい話題が良いんだけど。……というかなんかお顔ちょっち真っ赤になってる、大丈夫? しんどいのなら後でも……。あッ! もしかして……、恋ッ!?
いいよ、ママさんそういうの大好きよ! なにせ10年間碌な娯楽のない高原で過ごしてたからね! 他人のコイバナとかどんとこいですわ!
「模擬戦をッ! していただきたいのですッ!」
……え、模擬戦? 恋のお話ではなく? 性別・世代、そして世界を超えてもみんな大好きゴシップネタである恋バナではない? あらそう、残念……。じゃあ代わりにウチの子たちの中で誰と誰がくっつくかの話でもする? 基本自由恋愛というか、自由繁殖させてるから色々とすごいよ。特に繁殖期の私の作業量が。あはは、人って疲労が溜まり過ぎると逆に眠れなくなっちゃうんだよね。あはは。つらい。
脳内の思考が変な方向に飛び散っていると、軍師さんが口元に手を置きながらひそひそと話しかけてくる。
「この赤騎士、ドロテア殿は我が国の"準特記戦力"なのですが……。」
軍師さんからこそこそとお話を聞く。なんでもこのドロテアって言う赤騎士ちゃん、滅茶苦茶伸び悩んでいるらしい。元々厳格な騎士のお家で生まれて、才能もあったおかげでいい感じに成長してたんだけど、急に壁にぶつかっちゃって現在四苦八苦してるみたい。周囲からは『次の特記戦力!』みたいに言われながら育ったせいで、今成長できてないことがすごくストレスになっちゃってるらしいね~。
このまま放置したら壊れちゃいそうなほどに思い悩んでいるっぽいので、今回私たちダチョウに会うことでその壁を乗り越えるきっかけになってくれないかなぁ、とのことらしい。
「あと、この子。実家も周囲も"人間至上主義"でしたものですから、その矯正も兼ねてます。」
「……それ、私に任せるの?」
「借り一つ、いや二つで如何でしょう?」
人好きしそうな笑みを浮かべながら、そう私に言ってくる彼。
……あ~、これ断わっても断らなくても面倒な奴か。はぁ、しゃーない。それで我慢してあげますとも。
さっきからずっと軍師の掌にいる感覚があるが、こっちはその手のひらどころか全身を消し飛ばせる力がある。魔力をチョイっとちぎってそのままパーンすれば全部綺麗にお終いだ。今は国のしがらみって奴のせいで手は出していないけれど、必要となれば私は迷わず行動する。ま、敵対した時は覚悟しておきなよ、ってこと。
「…………りょーかい。いいよ、それで。」
「それはそれは! ありがとうございます。」
「んで? 私が相手するの?」
「あ、いえ。流石に彼女の心が折れてしまうと言いますか、先ほど"あんな"ことがあったわけですし……。」
軍師がそう口にした瞬間、赤騎士ちゃんのお顔が茹蛸になる。もう真っ赤っか、耳の先までリンゴちゃんだ。あ~ね、私が威圧しちゃって色々漏らしちゃった感じね? うんうん、見た感じかなり若いお嬢さんな感じだし、そのあたりすごく気にするよね……。というかよくその後すぐにこっち来れたね、うん、頑張った。褒めてあげよう、ほらこっちおいで、ママがナデナデしてあげる。
私がそう言いながら翼を迎え入れられるように開いた瞬間、ちょっと遠くにいたウチの子たちが一斉にこっちの方を向き、走り出す。目的地は当然私の膝だ。
「よんだ?」
「よんだ!」
「わーい!」
「なでてー!」
「ままー!」
「…………え、えっと。」
「あ~うん、ごめんね? 定員オーバー。」
瞬く間に私の膝に収まるダチョウたち。あのね、今ママこの赤い髪の人を慰めてあげようとしたんだけど……? まぁ言っても解んないよなぁ。しゃぁない。ほれ、好きなだけ撫でてやるから静かにしとくんやで。あとお酒はママのだから飲まないこと。わかった?
「「「わかった!!!」」」
「はい、いいお返事。……っと、ごめんねウチの子が。」
「い、いえ! お気になさらず!」
それで、何だったか……。私が相手しない方がいいんだっけ、軍師さんや? あぁはいはい、ついでに実力が比較的近い子の方がありがたいと。切磋琢磨して上を目指せちゃうような子が望ましい感じね。OK、把握した。やると決めれば、引かない媚びない顧みないのがレイスちゃんよ、まぁお母さんに任せときなって。
10年も母親してますとね、若人の成長ってのを後押ししたくなるもんなんですよ。転生した身でもあるから、精神年齢は結構あるしねぇ。
……え、赤騎士さん年齢19? あと何か月かで20に? あ~、肉体年齢だけで言えば年上か、私体は15くらいだし。
「まぁいいや、とりあえず軽く実力見せてくれる? 剣の型とかそう言うのでいいから。」
ウチの子の一人、わきの下を触られるのが好きと言うちょっと変な子を撫でてやりながら、赤騎士ちゃんにそう促してみる。大丈夫大丈夫、私お目目が良いからね、ヤバい環境で育ったし、ある程度の目利きは出来るよ? 剣速とかである程度の把握は出来るしねぇ。ほら、やってみて?
「は、はい……。」
ウチののほほんとした雰囲気に驚いているのか、ちょっと語尾に元気がない彼女。数歩後ろへ下がり、持っていた鞘から剣を抜く。
(片刃か。)
鞘から判別できたことだが、かなり刃の幅が広い両手剣……、いや持ち方的に片手剣か。この子の背丈と膂力ならば両手剣のように長く重い物でも十二分に扱えるという物なのだろう。
現代の知識で分類するとなれば、柳葉刀。中国刀の一種で、青龍刀と言った方が解り易い奴。広い幅に何かしらの装飾が為されている結構お高めの装備の様だ。人間社会に来てから色々と兵士さんと関わる機会ができたおかげで、この世界の軍の装備に対しての知識は結構仕入れられたと思ってたんだけど……、初めて見るね。
「……では、参ります。」
彼女がそう言った瞬間、弾かれたように動き出す。おぉ、確かに速くて重そうな斬撃。
マティルデさんよりも大分強いな……。前世含めて剣術ってものに対して何かしらの理解があるわけではないが、こと"戦闘"に関しては高原で10年間のブートキャンプを送った私。なんとなくにはなるが、その型がどのような状況を想定しているのかぐらい理解できる。そして、それを振るう持ち主の力も。
(さすが準特記戦力って言われるだけあるな……、ウチの子でも一人だったら危ないかも。)
彼女の演武を見ながら、少し考えてみる。軍師側のオーダーとしては、赤騎士ちゃんと実力が同じくらいの相手と戦って、そこから上に行くための経験をさせてあげたいってところ。そこから考えるとして、まず実力が同じくらいの子といえば……。
成体になったウチの子全てに当てはまるような気がする、あっちを勝たせてやるのなら比較的体格が小さい子。こちらが勝つのならば体格が大きい子を当ててやればまぁなるようにはなるだろう。しかし、元々ダチョウは群れで行動する(高原では比較的)弱き生き物だ。一人っきりで戦う場合、ダチョウのスペックは大きく落ちる。運が悪けりゃ一番体が大きくてむっちりしてる子でも負けちゃいそうだ。
(まぁ模擬戦だからとりあえずは勝ち負けはいいとして……、問題は本当にウチの子を出していいのか、ってこと。)
結果は見えているようなものだが、ちょっと考えてみよう。
脳内の空間に赤騎士ちゃんを設置し、とりあえずダチョウ代表としてデレちゃんに相手してもらう。頑張れー。
『頑張るー!』
んで、デレちゃんを赤騎士ちゃんの前に置いて模擬戦が始まろうとした瞬間、他のダチョウたちが集まって来る。
『なにー?』
『かり?』
『ごはん?』
それで、戦闘開始。その光景はデレ以外のダチョウからすれば、仲間が襲われているように見えるわけで……
『てき!』
『やっつける!』
『たすける!』
『わー!』
そうなるともう、動かなくなるまで集団リンチ……。
『かったー!』
『すごーい!』
『えらーい!』
『ほめてー!』
(ダメじゃん。)
脳内で何回か繰り返してみたが、確実に赤騎士ちゃんが死んでしまう。私が常に声を掛け続ければギリギリ行けるかもしれないが、そもそも私たちはつい先日獣王との戦闘を終えたばかり、300のうち1人ぐらいはまだほんのりとあの時の戦いが頭に残っているだろう。私や仲間が死にかけた情景がフラッシュバックし、全力で排除しに行ってもおかしくない。というか覚えてなくても排除しに行くと思う。
あ~、どうしよ。多分隣の軍師くん、さっきの赤騎士さんを心配するような声は嘘じゃないんだろうけど、実質ウチの子たちの戦闘能力とかを知りたかったとかそういう感じだよね? 多分応えられそうにないよなぁ。
そんなことを考えていると、いつの間にか赤騎士ちゃんの演武が終わっていた。ちょっとだけ上がった息を軽く整えながら礼をする彼女。とりあえず拍手をして褒めて置く、実際すごい練り上げられた技術だったしね。ほらお前らも拍手、できる? ほら翼をこう前にだして、軽く何度もたたくの。ぱちぱち~、ってね。
「はくしゅ?」
「ぱちぱち~!」
「ぺちぺち~?」
そうそう、そんな感じ。あとぺちぺちはちょっと違うかな? ぱちぱち、ね?
「っと、遅くなってごめんね。私には剣とか全然解らないんだけど、すごく努力が見える剣だった。すごいね。それと、キミの対戦相手なんだけどさ……、ちょ~っとウチの子じゃ色々難しそうでね? 違う人にお願いしてもいい?」
そう言いながら、軍師さんの方を見て小声で話す。
「"人間至上主義"の矯正なんだったらさ、人間以外なら誰でもいいんだよね?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「なら良かった。」
軍師の返答を受け取ってから、辺りを見渡しデレがどこにいるかを探す。……あぁ、いたいた。おーいデレ! 見えてる? あぁ見えてるね。うんうん、デレのこと探してたのよ。うん、ちょっと悪いんだけど、アメリアさん呼んできてくれる? アメリアさん。解る? あの耳の長くてデレが好きな人。……あ、解った。うんうん、あの人探して来て~!
◇◆◇◆◇
「……それで、私を呼んだと?」
「うん、そゆこと。お願いできる?」
10分ぐらいかけてアメリアさんを見つけ出してくれたデレを膝の上に置きながら、アメリアさんと話す。途中デレがなんで自分が走り回っているのかを忘れるというアクシデントが20回ぐらい起きたが、その様子をアメリアさんに見付けて貰えたおかげで無事彼女は任務を達成することが出来た。ほら見てこの顔、なんで褒められてるのかよくわかんないけど、とりあえず嬉しいから『えへへ~!』してるデレちゃん。
んぎゃわだねぇ!
「まぁ貴方達の習性? でいいのかしら。それも理解してきたから解るけれど……、まぁいいわ。今度何かの形で返して頂戴。それと、しっかりと見ておくこと。」
言外に自分の動きや戦術の構築を見て学びなさい、と言いながらアメリアさんが了承してくれる。いや~、ほんとありがたい。断られたら最悪私が出なきゃな、って思ってたところだったから助かるよ。もし今後デレが繁殖に入って子供ができたら一緒に名前を考える権利を上げるね! あとついでに助産師さんもお願いしちゃうね! ワンオペ地獄だから! たしゅけて!
「あの、レイス殿。彼女は……。」
「ん~、エルフのアメリアさん。私の魔法の先生で、この子。デレのお友達? 世話役? 保育園の先生? まぁそんな感じ。」
「は、はぁ……。」
私の勢いに押されたのか、ちょっとだけ気圧されたような反応を返す軍師さん。けれど"アメリア"、と言った瞬間ちょっとだけ纏う雰囲気というか、表情が変わったように思える。多分常人じゃ気が付かないし、気に掛けないような変化。お前、アメリアさん知ってるな? へへーん、ダチョウちゃんはお目目が良いんですよ! ……まぁこいつのことだから多分わざとそんな行動したんだろうけど。
とりあえず、軍師は"知らない"っていう体で行くのね。りょーかい。付き合って上げるよ。
それに、さっきのやり取りだけで結構な情報吐き出してあげたでしょう? もうそれで満足して帰ってくれない? レイスちゃんもう頭使うの疲れた、今から子供たちをわちゃわちゃしてストレス発散&回復するから話しかけてこないでね!
「ま、アメリアさんも準特記戦力らしいし、ちょうどいいんじゃない?」
「そうでしたか! では是非お願いいたします。赤騎士ドロテア、勝敗は問いません。必ず何か掴んで帰って来てください。」
「……ッ! はッ!」
赤騎士ちゃんの気合の入った声が響く。うんうん、演武とかしたおかげか来た時に見せていた真っ赤なお顔はどこへやら、きりりとしたお顔を見せてくれている。うんうん、いい試合になりそうね! 私他人がちゃんと戦ってるの見せてもらうの初めてカモ! 面白いことになりそう!
……あ、アメリアさんに睨まれちった。も、もちろん楽しむだけじゃなくてお勉強もしますよ! なにせアメリアさんがちゃんとした戦闘をするのも初めて見るんですから! いまだ魔力操作の練習から抜け出せてない私だけど、魔力を目に通してぜ~んぶラーニングしちゃうからご安心を!
私の様子を少し見てから、小さいため息を一つ吐き、ゆっくりと赤騎士さんの方へ向かって行く彼女。今回の件も含めてかなり彼女には世話になっている。いつになるのか解らないが、必ず受けた恩は全て返そう。アメリアさん自身は高原で私たちが命を助けたことに恩を感じてくれているみたいだが、すでに私たちは返してもらっている。貰い過ぎであることを自覚しなければ。
ま、今はとりあえずアメリアさん頑張れ~! レイスちゃんもデレちゃんも応援してるぞ! ほらデレ、応援しましょ? 頑張れ~!
「? がんばれ~?」
あ、まだ今から何するかよくわかってない感じか。今からアメリアさんがね、あの赤い髪の人と勝負するの。模擬戦ってのをするのよ、戦いの練習をするの。「かり?」う~ん、狩りではないなぁ。お遊びだね、どっちが強いかなぁ、って遊びながら決めるの。だから戦ってる時は手を出しちゃダメなんだよ。今だけね。「今だけ?」そうそう、今だけ。だからちゃんとママのお膝に座って観戦しましょうね。
「わかった!」
「うむ、偉い偉い。と言うわけでご一緒に。」
「「がんばれ~!」」
〇一般ダチョウ獣人の戦闘能力
身体能力だけならばレイスが考えていた通り、赤騎士さんと同じくらいの5000人級程度あるのだが、それを扱う技術などが全くないのでその評価はかなり下がる。また個人でいる時は精神的負荷(さびしい、ひとりこわい)がより多く掛かることから、更に戦闘力が低下する。このためダチョウ一人と、赤騎士が戦った場合、赤騎士が勝利する。しかしながらダチョウが二人集まった場合、何をどう足掻こうと勝てなくなる。
一人ではちょっと弱い(高原基準)けれど、みんながいれば安心。ママがいればとっても強いのがダチョウちゃんだ。
なお、余談にはなるがデレちゃんが模擬戦に参加したとしても戦っている途中で自分が何をしているのか忘れる可能性が高く、途中で仲間を呼んで集団攻撃を仕掛ける可能性が高い。故にレイスちゃんの選択は多分間違ってなかったといえる。
感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。




