31:ダチョウがヤバい
「あ、ここに滞在する感じなのね。」
「あぁ、この町の領主殿からの要請もあるし、自身もその方が良いと考えている。もちろん最終決定権はレイス殿にあるがな。」
ウチの子たちの回復が終わった後、元気いっぱいになったダチョウたちにもみくちゃにされながら、マティルデと言葉を交わす。
エルフのアメリアさんは魔力の変換と子供たちの回復で精神を擦り減らしてしまったらしく、現在休養中。ちょうど彼女用に用意された天幕へと入っていくのを見送り、アメリアさんに付いて行きたそうにしていたデレを送り出してあげた形だ。私とアメリアさんを交互に見た後、そっと私の方に近づいてきてそのウルウルしたお目目でじーっと見てくるんだもん。許可しない訳ないじゃない!
(あんな目で見られたら、ねぇ? というかデレちゃん滅茶苦茶賢くなってない? 私の親バカか?)
「まぁ別に残ることはいいんだけど……、やっぱり後続とかそんな感じ?」
そう言いながらマティルデと今後について意見交換していく。
私が獣王ちゃんを討ったことでとりあえず獣王国からの攻撃はなくなるだろうという話だ。だがそれは国家規模の話であり、どこかの部隊とかが勝手に出撃しないとは言い切れないそうだ。それに、私が殲滅した三万の兵の後ろに、後続の兵が用意されていてもおかしくはない。獣王を殺されたとして、一旦国に引き返すか、それとも仇討のためにこっちに突撃してくるかは未知数だという。
今滞在させて貰ってる町の領主さんからすれば『自分たちだけじゃ対応できない、たちゅけて~!』という感じらしいし、マティルデとしても『まだ停戦結ばれてないし、帰る途中でもう一回侵攻受けちゃったらヤバいよぉ!』とのことらしい。
「なるほど、ねぇ。私たちとしてはこの場に残る意味はないけれど、正直離れる意味もない。獣王より強い特記戦力とか出てくるのなら流石に逃げることも視野に入れるけど……。」
「可能性があると言えば獣王国の同盟国、そこの"特記戦力"が当てはまるが……。あの国は帝国と接している故な、常に彼女はその国境線についているはずだ。おそらく来ることはないだろう。」
私が世話になっているヒード王国とナガン王国のように、チャーダ獣王国もどうやら不可侵を結んでいる国があったようで。北東にあるその国にも、滅茶苦茶強い特記戦力がいるそうだ。けれど、マティルデが言うにはその国は帝国と滅茶苦茶仲が悪いらしくて、常に国境紛争しまくってるんだって。帝国側も複数特記戦力を張り付けているのが常らしいから、その滅茶苦茶強いらしい彼女が動くことはまぁないそうだ。
「と言っても、この度の戦いで"獣王がこの場にいる"ことを見抜けなかった我らの情報がどこまで頼りになるか……。」
「あはは……。」
そう言えばそうだよねぇ、事前情報じゃ獣王いない! って話だったのに普通にいたし。面倒だけど全部の可能性を想定してことに臨んだ方が良さそうだ。マティルデが仕入れて来てくれる情報も彼女自身がちょっと信用できないかも、って不安になってるし。参考程度にしておく方が良さそうだねぇ。
「と、なると。とりあえず獣王国側から停戦の話が出ない限り、ここにいた方が良さそうだね。」
「そうなるな、申し訳ないがよろしく頼む。」
「いいって、私とマティルデの仲でしょ? ……あ、そうだ。なら獣王の死体とかも、勝手に埋めずに化粧して保管しておいた方がいい感じ?」
彼には悪いが、獣王の死体をあの場に放置してしまっている。というかウチの子たちが殺した他の兵士たちもそのままだ。可能であればその場で埋葬とかしてやった方が良かったんだろうけど、あの時の私の頭の中にはその考えは浮かばなかった。
だってさ、結果論だけ見れば誰も犠牲者は出なかったけどね? あの時の私は、『ウチの子たちがやられちゃった! 助かるかどうかわかんない! 街の人にお願いして治してもらわなきゃ!』っていう状態だったもんでね……。ある程度納得したとはいえ子供を傷つけた相手の死体と、未だ生死が解らない子供たちとだったら……、さすがに後者を選ぶでしょ、って話で。
(周りに死体漁りとか、変な魔物とかいたら流石に獣王だけ担いでいくか、ってなったかもしれんけど、何もいなかったしねぇ……。)
まぁ一回放置して後で埋めてやればいいか、どうせ残ってるやろ、って感じで放置しちゃったんだよね。
「こっちの価値観はまだよくわからんけどさ、さすがに王の死体そのままは……。あかんよね?」
「あぁ、獣王国の機嫌を損ねるだろう。そうだな……、獣王の死体だけでもこちらで回収し、状態保持の魔法をかけ保管して置くことにしよう。他の兵士の死体は……。」
ただその場に埋めるだけでは最悪アンデッドが自然発生する可能性が出てくる、故に教会にお願いして埋めた場所を清めたり鎮魂? 聖別? まぁそういう儀式的な魔法をしなきゃならないらしい。けれど現在彼らはダチョウちゃんの治療で魔力を使い果たしている。また後日にお願いした方がいいみたいだ。
魔力譲渡してあげてもいいけど、どっちかがミスって聖職者の人が人間爆弾にでもなったら大問題だしね……。
「感染症などの問題もある故、とりあえず埋めるだけ埋めて簡易な墓標と祈りを捧げるぐらいはしておいた方が良いだろう。気休め程度かもしれんが、無いよりましだ。」
「OK、じゃあウチの子たちも連れて行こうか。結構な数蹴り飛ばしちゃったし、穴掘るだけでもかなりの重労働でしょう? 手伝うよ。」
どうせ私たちはこの後ずっと待機、暇みたいなものだ。さっきまで戦ってたというのにウチの子たちは早速遊び始めてるし、ごはんの時間ももう少し後。町の人たちが色々用意してくれる、って話だったけどまだ準備は始まったばっかりみたいだしねぇ。
後でよくわからんアンデッドと戦うのもめんどいし、穴掘りぐらいならウチの子たちが遊びとして楽しんでお手伝いできるはずだ。
「助かる、感謝するぞレイス殿。といっても兵たちに用意もあるゆえ……、用意できればこちらから知らせに行く。もうしばらく待っていてくれ。」
「りょーかい。んじゃウチの子たちを"わちゃわちゃ"撫でたりしながら待ってるよ。」
「わちゃわちゃ!?」
「わちゃわちゃ! すき!」
「やってー!」
「ママすきー!」
◇◆◇◆◇
ヒード王国の王宮、ナガンの"軍師"である彼はその一室で報告を受けていた。
彼の母国であるナガンと、ヒード王国が軍事同盟を結んだことは周知の事実。先日まではただの敵同士であった彼らではあるが、今では背中を合わせる味方同士。そんなナガンの新しい友達であるヒードが獣王国に攻められていれば、救援を出すのが同盟国としてあるべき姿だ。
そのため"軍師"は計画通りヒードへと援軍を連れて向かい、王都へと到着。
そして行動を開始する。まずは『ダチョウが獣王に敗北した』時のために、王都にひそかに設置されていた対獣王のトラップの最終確認。そして同時に幼女王の真意。そして彼女が死した後についての伺いを立てながら、ヒードをより良い形で彼の戦略に組み込めるように動いていく。
結果は、成功。
トラップは確実に獣王を仕留められる、と確信できるものであったし、また幼女王から『後は好きにせよ』という言葉を引き出した。"幼女王は統治能力こそ高いが、王としては未成熟。同時に強い希死念慮を持っている"そのことに気が付いている軍師の行動は、素早い上に、的確であった。
つまり、彼女が獣王に殺されたとしても、逆上したダチョウに殺されたとしても、復讐をやり遂げたとしても。"今後彼女が改心しない限り"、ヒード王国を確実に併合する手立てを整えたのである。流石に即座に併合するのは難しいだろうが、実質的な属国化は数か月と経たずに可能であるレベルだった。
ナガン国内にいる人間至上主義の者たちへの対応は一旦置いておくとして、ヒード国内や重臣たちへの根回しも完璧。先日軍師が同盟締結の折りに訪れた時に得た人脈、それをフル活用。ダチョウという特記戦力を初めて見たことで心変わりしていた貴族も多くいたが、すでに全て軍師の"お友達"になっている、何が起きたとしても彼にとって良い方向へと進むだろう。
そう、"軍師"の作戦は、全て順調に進んでいたのだ。
ある、一点。しかも彼の策を根本から破壊するかもしれないという、一点を除いて。
「もう一度、もう一度お願いします。」
『……はッ! 獣王及び、獣王国侵攻軍30000、文字通り全滅! 生存者0です! またダチョウたちに被害無し! 負傷者が40ほど出たそうですが、すでに完治済み! また、『獣王』及び獣王国軍の4割、12000はダチョウたちのリーダーである『レイス』が単身で殲滅したとのこと!』
ヒードの王宮の一室。人払いがされた上に、魔道具などで防音などの間諜対策が万全になされた部屋。そこで、現在ダチョウたちが滞在している町に潜んでいたナガンの諜報員からの報告を受け取る"軍師"。
『また、町の中からですが獣王よりも強大な魔力反応を検知! タイミングから『レイス』のものかと思われます! 魔力量は測定不能なレベルの多さ! しかも戦闘中にさらに増大した模様! また町の防壁の近くで本人が『獣王』の技であった『魔力砲』を使用しているのを目視いたしました!』
「ほ、ほうこ、く、は?」
『以上に、なります。今後も調査の方続け、情報を集めてまいります……。』
「了解、です。報告の方、ありがとうございました。下がって頂いて、結構、です。」
諜報員からの、連絡が途絶える。
その、数秒後。
全身から力が抜け、思わずその場に倒れ伏す軍師。
しかしながら、その脳は高速で思考を始めていた。
想定外の事象であり、思わず泣き始めたいような事柄であったが、それよりも先に彼の生存本能、そして"軍師"であるという責任が脳の回転を加速させる。
「(あの獣王に無傷で勝利? ありえない……、いや報告として上がる以上事実! あの獣王は魔法型の特記戦力ではあるが、その身体強化だけで下位の特記戦力程度捻ってしまうレベルの猛者! それを単独で倒す……!?)」
軍師の脳内に浮かぶ、最悪の"答え"。ダチョウたちの長、『レイス』は、個人で特記戦力。それも中位以上の実力を持っているのではないか、と言うこと。相性の問題もあるため一概には言えないが、下位と中位、中位と上位には隔絶した差と言うものが存在する。レイスが獣王に対し、無傷で勝利するということは、その実力には超えられないほどの差があったと考えられる。
つまり彼女は、特記戦力の中でも飛び抜けた実力を持つ存在、"上位"に当てはまるのではないだろうかと。
「(……いやまて、その情報だけに踊らされるな。先ほどの報告では、『レイス』が単身で12000と獣王を殲滅したとあった。つまり残りの18000、獣王軍の6割は?)」
戦場にレイスしかいなければ、彼女が倒したと考えるだろう。しかしながらあの場にはレイス率いる300の兵たちがいたはずだ。そしてその中から40の負傷者がいて、すでに全快済み? 彼女たちと獣王との接敵が報告された数時間後に完治? いくら教会などで回復を受けられると言えど、その速度はおかしすぎる。
獣王の攻撃力は半端ではない、下手な特記戦力でも消し飛ばされる威力。もし彼女の部下たちがまともに喰らえばそれこそ死者として数えられたはず。つまり、つまり……。
そう、考えを深めていく軍師。
いまだ正確な報告は届いてない、ゆえに手元にある情報は口頭による緊急の連絡のもの、時間経過とともに新しい情報が増えてくるかもしれない。そんなまだ確証を得られるレベルではないが、一つだけ、軍師が確実に言えてしまうことがあった。
「特記戦力が……、二つ?」
"ダチョウ"という集団と、『レイス』本人。当初はこの二つを合わせて特記戦力かと考えていたが、もしかすると二つの特記戦力が集まっているのではないかと考え直す。
これは、非常にまずい。
現在この大陸に存在する国家、そのすべてが一つの国家に一つの特記戦力を抱えている。もしかすると国家の把握しない特記戦力がどこかに隠れている可能性もないわけではないが、一国に一人。そのおかげで現在の大陸情勢は比較的落ち着いていた。どこか一国が攻めたとしても、攻められた側の特記戦力が追い返す。
戦争によって多くの被害が出たとしても、国という体制が崩れるほどではない。それが、これまでの大陸情勢であった。
「それが、崩れる。」
特記戦力とは単体で戦場を変化することが出来る存在、そして戦場どころか政治にまで影響を及ぼす最強の存在。それぞれの個性や得意分野、持つ異能によって多種多様な能力・思想を持つ彼らではあるが、その強さには誰も疑問を覚えない。
それが、二つ。
現在、ヒード王国と敵対していたはずのナガンとの軍事同盟、そしてヒード王国による獣王の撃破。一瞬にしてこの三国のパワーバランスが崩れた。獣王と言う三国の中で最強の個を持っていた獣王国は、直ぐに新しい王を欲するだろう。そして文化的に彼らは強者に強く惹かれる。そして、"ダチョウ"たちは、獣人だ。
強きリーダーを失った獣王国が新しい長、"レイス"を求めることは想像に難くない。もしそうなった場合、どうなるか。
最悪だ。
先ほど"ダチョウたち"とヒード王国の間に交わされた契約を見たが、その中に食料と居住地に関する条件を見ることが出来た。プラークにいる御用商人という形で潜入中のアランからの情報を合わせると、彼らが真に求めているのはこの二つ。獣王になれば簡単にソレが手に入ってしまう。
獣王国と言う居場所と、そこにある巨大な穀倉地帯。そして、ヒード王国の幼女王に騙されたことを知った、怒り狂うダチョウたち。すでに彼らが契約を守る必要はなく、怒りのままに王都へと飛び込んでくるだろう。そうなればもう、誰も止めることは出来ない。今のヒードにも、ナガンにも、特記戦力二つを止める力はない。
王都に存在する対獣王用のトラップが"レイス"に対し使えるかもしれないが、確実にもう一つの特記戦力。"ダチョウたち"によって破壊されるのは目に見えている。
「どうあがいても、止めることは不可能……!」
ここから今すぐ逃げ出したとしても、私たちナガンがこの場所に来ていた事実は変わらない。つまり、ヒード王国という国家と、ナガン王国という国家が結託しているように思われても仕方がない。上手く誤魔化すことも不可能ではないだろうが、怒り狂った特記戦力相手にそれができるとは思わない。
そして何より、"我らナガンはすでにダチョウたちに喧嘩を売ってしまっている"。プラークでの一戦、あれのせいで自分たちは確実にダチョウに目を付けられている。現在はヒードとの同盟のおかげで何とかなっていたが、それが無くなればもう遮るものはない。
ダチョウが獣王である以上、ナガンへと攻め込む理由はいくらでも作れる。作れてしまう。獣人で構成された獣王国と、人間至上主義を掲げてしまっているナガンとでは圧倒的に相性が悪い。
つまり、レイスが獣王になった瞬間。詰む。
「マズいマズいマズい……ッッッ!!! 誰か! 誰かいないか! すぐに! すぐに獣王国との国境へ! ダチョウたちの下へ!!!」
体内を握り締められるような重圧に耐えながら、軍師は叫ぶ。
失敗すれば、国が終わる。そして、それに気づき動けるのは自分だけ。
手勢を引き連れ、救援の名目で、行かねばならない。
獣王国が動き、彼女を獣王にしてしまう前に。
〇ダチョウちゃんたち
ナデナデされてうれしー! もっとわちゃわちゃしてー! ママすきー! え、ママ? ママはね、じゅうおーってのになりたくないんだって! ダチョウちゃんしってる! エライ? えらいでしょ! ほめてー!
〇軍師さん
なんか特記戦力がお隣に生まれたと思ったら、実際はレイスという"クソ強"特記戦力が、群をもって特記戦力の集団を率いてる!? しかも獣王に勝っちゃった上に、アイツら獣人だから新しい獣王になる可能性が高い!? 最悪ヒードだけじゃなくナガンも滅ぼされちゃう!? わァ……ぁ……(泣いちゃった!!!)
と、とりあえず生き残るためにゴマすりしに行かなきゃ……! ナガン軍のみんな~! 救援の名目で移動しまーす! いざダチョウさんの元へ!
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