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砂漠の果て(5)

 俺達は、洞窟の入口を岩で塞ぎ、立てこもることにした。


「こうやって、洞窟の入口を塞いじゃえば、盗賊団は容易には入ってこれないっす。その間に、こっちはサンダーの修理をして、ブレイ・ブローダーで強行突破するっす」

 俺は、皆に作戦を説明した。

「で、洞窟内の空気がどのくらい保つとか、ブレイブ・ローダーで突破する時にどれくらいの火力が必要かって事も、計算づくなんだろうね」

 魔導師のミドリちゃんが、俺に質問──というか意見をしてきた。

「あ、ははは。そこまで深い考えがあった訳じゃあないんだけどね」

 俺は、そう言いながら頭を掻いた。

 ミドリちゃんは、

「まぁ、どうせそうだろうとは思ったけどね」

 と、俺を蔑むような目で見下ろしていた。はぁ、これも想像できたけどね。

「サンダー、この洞窟の容積と、内部の酸素量は分かるかい?」

 美貌の魔導師は、俺の事を放っておいて、サンダーを頼りにしたようだ。

「大体、六十万立法メートルほどでござる、魔導師殿」

「東京ドームの半分くらいか……。しばらくは何とかなりそうだね」

「微小でござるが、空気の動きも検出されておるでござる。全くの閉鎖空間ではなさそうでござる」

 ミドリちゃんとサンダーは、そうやって何か難しいことを相談していた。


(俺の出る幕はなさそうだな。やれやれ、これでやっと腰を下ろして休める)


「勇者クン。ボクとサンダーで相談したんだけれど、どうもこの洞窟の奥に隠し通路があるようなんだ。奇襲に備えた方が、いいんじゃないかな」

「その他にも、センサーなどの電子機器の反応があるでござる」

 ミドリちゃんとサンダーが報告してくれた。

「最初の男が、『センサーが仕込んであって、誰か来たら分かるようにしている』って言ってたよなぁ。それがどうしたの?」

 俺は呆けた顔で、のうのうと訊き返した。

「もう、君は危機感がないよ。リーダーなのにね。もし、別の機械があって、リモートコントロールでガスなんかを噴射されたら、一網打尽だよ。面倒だけど、流星号を連れて、洞窟内を確認しに行ってくれないかな」

「え? 俺? 何で俺?」

「だって、リーダーだし」

「巫女ちゃんなら探知魔法が使えるし、適任じゃないの?」

「そんな危ないところに、巫女クンを行かせる訳にはいかないだろう」

「う、そうですね」

 じゃぁ、俺は危なくても構わないのかよ。とは言うものの、俺は、ミドリちゃんに全く反論することが出来なかった。う~、情けない。


 仕方がないので、俺は流星号を連れて、洞窟内のチェックに出かけることにした。

「流星、頑張って勇者さんのお手伝いをするんやで。分かっとるか」

「おいらに任せてくだせい、姐御。きっと、お役に立って見せるぜ」

「よっしゃ、流星。きばってこい」

 くノ一のシノブちゃんの声援を背に、俺達は洞窟探検に出かけた。


「流星号、電子機器の探知って出来る?」

 俺は一抹の不安があったものの、念の為に隣のバイクロボに訊いてみた。

「大丈夫っすよ、旦那。おいらに任せてくだせい。赤外センサーもガス検知器も、電子機器ならおいらの守備範囲でさぁ。この流星号にお任せあれ」

 と、自信満々であった。だが、流星号が自信ありげにする分だけ、俺の心配は募っていった。こいつを信用して上手く行ったことなんて、あったかなぁ。不安である。洞窟内のチェックと言っても、東京ドームの約半分の容積だ。そう簡単に出来るわけがない。俺と流星号は、壁をなぞるように丹念に調べていたので、尚更である。

 俺がそろそろ飽きてきた頃に、流星号が何かを見つけた。

「旦那、電子機器の反応だぜ。この辺りに何かあるようですぜ」

 この言葉に、俺はアクビをしながら、とぼとぼとその場に近寄って行った。

「なんだよ流星号。ミミズでもいたのか?」

 そんな俺に、流星号はタンクのような物を手にとって見せてくれた。どうやら洞窟の壁から掘り出したようだ。

「旦那、こんな物がありやしたぜ」

「何だよそれ」

「どうも、毒ガス(・・・)のボンベみたいっすね。外から遠隔操作で噴霧できるように細工されてやす」

「ふ〜ん、毒ガスねぇ……ええっ、毒ガス! そんなヤバイ物があったのか。他にはないか? それ一個っすか」

 流星号はゴソゴソと洞窟の壁に触れながら、あっちこっちを探索していた。


(うーむ、毒ガスの噴射機かぁ。盗賊団も近代化しているなぁ。洞窟に追い込んだ時に、ガスで殲滅する気だったんだ。ミドリちゃんの言う通り、チェックしに来て正解だったわ。やばいやばい)


「勇者の旦那、こっちにもありやしたぜ」

 俺がうかうかしている間に、流星号は二本目のガスタンクを取り出していた。

「旦那、こいつも、受信機をオフ(・・)にすりゃあいいんすね」

「ああ、遠隔操作でガスを噴射できないように、受信機を切っておいてくれ」

 今度の敵は手強いな。念の為に、巫女ちゃん達は、ブレイブ・ローダーの中に避難させよう。

 俺は、左手のレシーバーでミドリちゃんに連絡をとった。


「ミドリちゃん、聞こえるかい?」

<ああ、よく聞こえるよ。どうかしたのかい、勇者クン>

「それがさぁ、ミドリちゃんの言った通りに、毒ガスの噴射器が隠されていたんだ。装置の起動スイッチが入らないように処理しているけれど、念の為に、皆をブレイブ・ローダーに避難させてくれないかなぁ」

<ほうら、言わんこっちゃない。盗賊団は、未だまだトラップを仕掛けているかも知れないよ。念の為にガスマスクを着けておいたら>

「うん、ありがとう。それじゃ、俺達は残りの箇所を調べてくるよ。そっちで何かあったら、連絡して欲しいっす」

<了解>

 と言うことで、俺達は、洞窟の調査を再開した。


 俺は流星号からもらった、簡易防毒マスクを頭から被っていた。口と鼻が塞がれていて息が苦しい。俺は、フガフガ言いながら、流星号の後を着いて回っていた。

「旦那、またありやしたぜ。これで六個目ですぜい」

「まぁたあったのかよ。まめな盗賊だなぁ」

「洞窟の容積が結構大きいっすから。奥の方に充満させるだけでも、かなりの量が必要っすね」

「なるほど。最初から奥に追い詰めて、毒ガスで一網打尽にするつもりだったんだな」

「おいらの計算じゃぁ、洞窟の奥にガスを充満させるには、同型のタンクが十六個は必要っすよ」

「と言うことは、まだ半分しか見つけてないのかぁ。先が思いやられるなあ」

 俺はいつものごとく弱音を吐いていた。まぁ、『運がいい』だけの勇者だからなぁ。自慢じゃないけど。


 結局、俺と流星号は、三時間かけて二十五個のガス発生装置を回収した。

「旦那、これで洞窟の奥は、ほぼ探索し終わりましたぜい。それにしても、こんなにセットしてあるなんて、用意のいい盗賊団すね」

 流星号が愚痴っぽく話した。細い構造材で出来ているくせに、コイツはやけに人間臭いんだよな。

「ふ〜む、そうだよな。辺境の砂漠を突っ切るような、お馬鹿なキャラバンなんて、そうそうないだろうに。かなりの労力を注ぎ込んでるっすよね。ところで、これってどんなガスなんだろう?」

 俺は、流星号に訊いてみた。

「多分、麻酔ガスか麻痺ガスだと思うっすよ、旦那」

「麻酔かぁ。皆殺しまでは考えていないんだね。まぁ、男は殺すとしても、女子供は売れるからなぁ」

「人身売買っすか?」

「だと思うよ。異世界のことはよく知らないけど。あとで、ミドリちゃんに聞いとこうか」

「そうっすね」


 こうして俺と流星号は、ガスの詰まったボンベを風呂敷に包んで、丁寧にお持ち帰りしたのだった。

 あ~、早く気がついて良かったぁ。




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