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砂漠の果て(4)

 盗賊の手先は人間爆弾だった。


 特定のキーワードに対して、体内に埋め込まれた爆薬か何かが起爆するようになっていたんだろう。

 と、悠長な事を言っている場合ではない。


 俺達は、爆風に飛ばされてしまった。幸いだったのは、男が洞窟の入口近くにいた事。そのため、洞窟の奥の方へは爆風が届かず、入口へ吹き出ただけで済んだんだ。

 しかし、男のすぐ近くで尋問をしていた俺は、モロに爆発に巻き込まれるところだった。さすがの俺も、もう駄目かと思っていたくらいだ。

「勇者殿、大丈夫でござるか?」

「サンダー……」

 とっさのところで、サンダーが俺を爆風から守ってくれたのだ。あー、命拾いした。


(そうだ、サユリさんは? ……ああ、自力で逃れたのね。やはり、年期が入っているだけはあるなぁ)


 サユリさんは、爆炎の中でも平気な顔をしていた。さすがは剣士だけはある。()勇者だしね。

「勇者殿、この爆発によって、盗賊どもは尖兵が失敗したことを知ったはずでござる。彼奴(きゃつ)らは次なる手を打ってくるに違いない。油断は禁物でござるぞ」

 サユリさんの檄が飛んだ。

「う、うう、勇者殿。拙者、先ほどの爆発で、ダメージを受けたようでござる。一旦、ブレイブ・ローダーで修理する必要があるでござる」

 サンダーは俺を庇った所為で、故障してしまったらしい。盗賊相手に、サンダーが戦線を離脱するのは、ちょっと大きい。でも、ま、仕方ないだろう。

「サンダー、ここは俺達で何とかする。お前は下がって。それから、ミドリちゃんに防御魔法の準備をしてもらえるよう、伝えて欲しいっす」

「か、かたじけない。すみませぬ、勇者殿」

「気にするな、サンダー」

 そう言って、俺は空元気を出してみせた。後々のことを考えると、今、サンダーを失うわけにはいかない。


「勇者さーん! どないしたんや?」

 爆発に気が付いて、シノブちゃんが駆け寄ってきた。

「あ、シノブちゃん。盗賊の男を尋問してたら、急に爆発しちゃって。どうも人間爆弾に改造されていたらしいっす」

 シノブちゃんは、

「何やて! 人間爆弾って、何やそれ。勇者さん、怪我とかせえへんかったか?」

 と、心配そうに俺を見ていた。

「大丈夫。サンダーが守ってくれたんだ。その代わりに、サンダーが故障してしまった。ここは俺達で守るぞ」

「心得た」

「合点承知!」

 勇ましい返事が返ってきた。

「勇者の旦那、オイラもいるぜ!」

 おー、シノブちゃんの相棒──バイクロボの流星号である。

「何や、お前おったんか。気が付かんかったわ。お前は邪魔にならへんように、その辺に座っとり」

「あ、姐御ぉー。そりゃねぇぜ。オイラも一緒に戦わせてくれよぉ」

「あーあ、面倒臭いやっちゃな。うちらの邪魔とかしたらあかんで」

「ガッテンでい」


(いつもの通り飽きないなぁ、この二人は。ハンターやめても、お笑いで食っていけるんじゃないか。やっぱり、手に職持ってた方がいいよね)


 などと思いつつ、俺達は迎撃準備を始めた。


 一方、こちらは盗賊団。砂嵐の中、じっと地面に潜むようにして、洞窟のある岩山を眺めていたという。

「お頭。どうもシンジの奴は、しくじったようですね」

「ふん、あんな奴は使い捨てよ。人間爆弾にしておいて正解だったな。これで、あそこにいる奴らも、ダメージを負っただろう。そろそろ攻めどきかのう」

 盗賊団の内輪では、そんな話が流れていたという。

 俺達、大ピーンチ。


 その頃、俺達は洞窟の入口近くで敵を待ち構えていた。だが、砂嵐は、一向に治まる気配は無かった。

「サユリさん、盗賊団は引き返したっすか?」

 俺は、気配を察知できる彼女に、そう尋ねた。

「ふむ、先程と同じ位置で留まっているようでござる。斥候が失敗したと知って、次なる手を考えているようでござるな」

 サユリさんは、目を半眼にして気配を探ると、そう言った。

「流星号、この洞窟の入口を壊して、岩を落としてくれるかな」

 俺は、重武装のバイクロボ──流星号にそう頼んだ。

「え? そんな事をしたら、落盤で入口が塞がってしまいますぜ。そうじゃなくても、さっきの爆発で岩盤が緩くなっている。旦那、生き埋めになっちまいますよ」

 流星号は、驚いて俺に訊き返した。

「このダァホ。勇者さんには、先を読んだ立派な作戦があるんや。お前は言われた通り、天井を崩せばええんや」

 シノブちゃんは、流星号を一発殴ると、そう怒鳴りつけた。


(いや、特に立派な作戦じゃないんだけどなぁ……)


「そ、そいじゃぁ、天井を崩しますぜ。姐御達は危ないから、下がってておくんなまし」

 流星号はそう言うと、両腕の速射破壊機銃で、天井を打ち始めた。さっきの爆発で、脆くなっていた天井は、見る間に崩れて入口を塞いでいった。


「それくらいでいいだろう。流星号、もういいよ。ありがとう」

 俺の呼びかけで、流星号は射撃をやめた。

「それにしても勇者さん、入口が埋まってもうた。これじゃぁ外に出られへんなぁ」

 くノ一のシノブちゃんは、不思議そうにそう言った。

「その通りだよ。外へ出られないって事は、盗賊団も外から入ってこれないって事。こっちは、ブレイブ・ローダーがあるじゃないか。ここから出るときには、入口の岩を吹き飛ばせばいいだけだよね。でも、奴らはそうじゃない。これで諦めてくれればそれでいい。それに、もし入ってこようとして岩をどかせても、たくさんの人数を一気に送り込めないだろ。一時に戦う相手が少なければ、俺達が有利になるっす」

 と、俺は作戦を説明した。

「さすがは勇者殿。それがしも、大勢の盗賊が我らを突破して洞窟の奥に雪崩れ込むのを、どうしたら防げるかと考えていたのでござる。確かに入ってくるのが少人数であれば、撃退は容易い。これで、我々が有利になるでござるな」


(サユリさんも、俺の作戦を気に入ってくれたようだ。へへへ、嬉しいな)


 などと、浮かれていてはいけない。これから盗賊団がどう動くかだ。多分、持久戦になるだろう。サンダーの修理さえ終われば、ブレイブ・ローダーで強行突破して、逃げ切れる。

 俺達はそう考えて、洞穴内に立て籠もることにした。



 その頃、盗賊団といえば……、


「お頭、あいつら洞窟の入口を埋めやがった。これじゃあ、中に入り込むことも出来ませんぜ」

「騒ぐな。どうせ、あいつらも出られねえ。そのうちに、しびれを切らすだろう。……こっちには奥の手もあるしな。クククッ」

「あっ、そうでしたね。さすがはお頭。まさか、奴らもああ(・・)なってるとは、思ってもみないに違いありませんぜ。へへへへ」

 彼等は、砂嵐の中で、不気味な相談事をしていた。


 果たして、俺達は乗り切ることが出来るのか?




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