再戦(2)
俺達は、とある街外れの清涼な川の畔で、座禅を組んでいた。
女剣士のサユリさんが、精神を鍛えるためには座禅がいいと言ったからだ。
「あ~あ、暇やなぁ。こんなん、全然じっとしてられんわ」
そう愚痴を垂れたのは、くの一のシノブちゃんである。
「くの一殿、心が乱れておりますぞ」
すかさず、サユリさんが指摘する。
「そー言われはっても、でけんもんはできひんわ」
抵抗するシノブちゃんだったが、
「流星号殿は、微動だにしないでござるぞ」
と言われて、ハッとして隣を見た。
「流星、……凄いなぁ。あんた、座禅なんかできたんかぁ」
と、一部の隙もない流星号を見て感嘆した。俺も、恩恵に与りたいと思い、見てみると……
「何だ、このランプ? えっ、スリープモード?」
「何やて。スリープモードって……、寝てたんかい。ゴラァ、起きんかい、このクソロボット。いてまうぞ」
「……あ、……姐御、お早うございます」
「何がお早うや、このクソロボットが! ちゃんと座禅組んどると思うたら、寝とるなんて何事や!」
シノブちゃんが、流星号に怒りをぶち撒けた。まぁ、そりゃそうだろうな。
「へへへ、おいらエコに造られてるもんで、何もしない時にはスリープモードに切り替わるんでさぁ」
「それを寝とるっちゅうんじゃ、このボケ。真面目に座禅せんかい」
「す、すんません、姐御」
(ああ、いつもの漫才か……。このコンビはいつ見てても飽きが来ないなぁ)
俺がそんな感慨にふけっていると、サユリさんから、
「勇者殿、姿勢が乱れておりますぞ」
と、指摘されてしまった。俺も未だまだ甘い。
俺は改めて座り直すと、勇者の木刀を膝に置き、精神の統一に励んだ。
「なかなか良くなってきたでござるな」
おっ、褒められた。やはり、褒められると嬉しい。俺は、ますます座禅に打ち込んだ。
しばらく座禅を組んでいると、図書館の方から巫女ちゃんとミドリちゃんがやって来た。しまった、二人は放っておきっぱなしだった。ま、マズイかな……。
「勇者くん、こんなところに居たのか。探したぞ」
ミドリちゃんが、如何にも不満気にそう言った。
「何処に行かれたのかと、心配していましたぁ」
と、巫女ちゃんも、俺達のことが心配だったようである。
「ゴメンゴメン。サユリさんに偶然出くわしたんで、ちょっと修行をつけてもらってたんだ」
俺がそう言うと、
「サユリさん? また女?」
と、魔導師のミドリちゃんは、不機嫌そうに応えた。
「いや、そんな人聞きの悪い事を……。前に会った女剣士さんだよ」
「それがし、剣士サユリでござる。先日はご助力いただき、かたじけない」
「ああ、あの時の。その節はお世話になりました」
ミドリちゃんも事情が解ると、態度を変えてくれた。ああ、良かったぁ。
「で、修行って何?」
早速ミドリちゃんが問い詰めてきた。
「あ、ああ。座禅を組んでいたんだ」
「座禅? 精神修養かい? まぁ、勇者クンには必要だろうね」
と、たっぷりと嫌味っぽく言い返された。
彼女は、放って置かれたことを根に持っているらしい。これだから女の子は……。
その考えをミドリちゃんは見抜いたらしく、
「で、その成果は出てきてるのかい?」
と、問い正されてしまった。
「いやぁ、……、ちょっと、分かんない」
「だろうね。短い時間じゃ無理だよ。それで、遺跡攻略の足しにでもしようと思ってたんだろう」
全部お見通しのようである。これだから女ってのは……。
「いやぁ、魔導師殿は精神面でも鍛えておるのでござるな。冷静な観察と洞察力。それがし、感服しました」
サユリさんに言われて、ミドリちゃんも悪い気はしなかったのか、
「ま、まぁ、魔法使いは気合が大事だからね。肉体よりは精神派かな」
と、少しばかり照れながら応えた。
「せやな。うちみたいな体育会系には、ちょーっとキツイわ。あっははははは」
「くノ一クンには難しいだろうね」
と、ミドリちゃんは腕を組むと、シノブちゃんの方を睨みながらそう言った。この二人は、実は基本的に仲が悪い……ように周りからは見える。
「で、でね……サユリさんも仲間になってもらったんだけど、さぁ……」
俺は、恐る恐るミドリちゃんに問いかけた。
「結局そうなるのか。また、女かよ。勇者クン、君は基本的に手癖が悪いぞ。座禅で精神を磨くには、百年くらい早いんじゃないかな」
案の定、厳しい評価が返ってきた。
「そ、そんなぁ。人を女癖の悪い人みたいに扱わないで欲しいっす」
俺が反論すると、
「じゃぁ、良い機会だから、誰が本妻か決めてくれよ。勿論、ボクが納得の行く説明をつけての上だけど」
ええええ。また、そんなキツイ事を。どうして、うちのチームは、こう修羅場を作りたがるんだ。
「元々、勇者クンとの馴れ初めは、ボクや巫女くんの方が先なんだ。それをぽっと出のくノ一クン達に拐われたくはないものだね」
ああ。明らかに不機嫌だ。最近、扱いが悪かったからかなぁ……。俺にどーしろと言うんだ。
「い、いやぁ、それがしは別に邪な気は無かったでござるが。勇者殿が「どうしても」と、言うもので……」
え? ええっ。ここで、そう言うの? これじゃ、俺が悪者じゃん。
ま、マズイぞ。何とか切り抜けないと。
「勇者様は、本当に女性に好かれますわね。わたくしも困っておりましたの。本当に良い機会ですね。ここは、男らしく序列を決めていただかないと。ねっ、勇者様」
うお、巫女ちゃんまで。そ、そりゃあ、結果的にハーレム化してるのは否定しないけれど、それって俺が悪いの? 俺、勇者だよね。設定的に主人公だよね。それが、こんな否定的な扱いをされて良いの?
「作者批判なら、別な時にやってくれ。今は、ボクと彼女達と、どっちが大事かって問題だ。さぁ、言ってみてよ」
俺は、ミドリちゃんの詰問に、タジタジになってしまった。
「せやせや、勇者さん。こうゆう時の為の精神修養やな。はっきりさせてもらおうやないか」
え? シノブちゃんまで? 四面楚歌と言うのはこういうことか。俺、ピーンチ。どうする?
「えー、えと……、俺的には、みーんな大事かな」
…………
「えーと、あれ?」
なんか、全員からじっとりとした目つきを返されてしまった。
「ああ、ここでそう言いますのね、勇者様」
み、巫女ちゃん。これは最悪の展開かも。
『優柔不断』
俺は彼女達からそう言われて、一人川岸に残されたのだった。ああ、置いて行かないで……。




