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Re:【出張】戴冠式前夜

 戴冠式に向かうための海軍第1宇宙艦隊は惑星ゼウスを発進した。

 旗艦ポセイドンは、改名前は旧型のゼウスだったそうで、古いとは言え大型戦艦で居住性にも余裕があり、改装後は非常に居心地が良いフネになっていた。

 

 いったん共和国内でいくつかの惑星に寄港しつつ現地のメディアのインタビューに答えるなど一同は忙しかった。

 主に国務大臣のアレックスが汗をかきかき対応しているのだが、涼井も顔として駆り出されることも多く寄港中は連日会食で大騒ぎしていた。


 革命的反戦軍はこの帝国との融和を歓迎するでもなく怪しげな動きをしているのだが、警備を担当するロッテ―シャは手持ちの兵力だけでなく憲兵隊に協力を要請し、先回りして寄港予定候補地に憲兵隊を増員してそれらの動きを把握、度を超える場合は鎮圧をしていた。そのため共和国領土内を出るまではもっとも彼女が働いていたのだった。


 共和国からそのままかつて激戦を繰り広げたアルテミス宙域に向かう。アルテミス宙域ではそのままロアルド大将が指揮する防衛艦隊が配備されていた。ロアルド大将は非常に喜んでわざわざ自身が直卒する第2艦隊の主力を連れて海軍宇宙艦隊を出迎え、その堂々とした艦列に一同を加えて惑星アルテミスまで護衛した。


 海軍第1宇宙艦隊の旗艦ポセイドンで盛大な宴会が催されることとなり、ロアルド大将は長身に勲章を沢山つけ颯爽と現れた。

「スズハル提督! 直接お会いするのは久々ですな! ふむぅん少し痩せましたか?」

 灰色の髪を震わせ彼は大声で笑った。動作が大きいのでそのたびに勲章がきらきらと煌めく。


 ロアルド大将はやや名誉にこだわるタイプのため、チャン・ユーリンのような冷笑家には嫌われていたが、提督としての能力は非常に高い男だった。同じ方面艦隊のレオナイダス提督もやってきた。

 

 海軍の宇宙艦隊機関であるポセイドンは主計係も優秀で本格的なフルコースがふるまわれた。

 軍属のちゃんとしたシェフを雇っているらしく見た目も味も見事の一言で首都惑星ゼウスの一流店と比較しても間違いはなかっただろう。


 涼井も久々によく知る人間たちに囲まれて少し気を抜くことができた。


 国務大臣アレックスはこの場でも大活躍でしきりに笑い、歓談していた。

 あまり印象になかった男だったが、初老で禿頭という年齢のわりによく食べる健啖家で人付き合いに関しては底知れないエネルギーを持っているようだった。もちろん軍事的なスキルがあるわけではないのだが、長年大統領エドワルドを外交的に支えてきた男だけのことはあった。


 宴会も盛り上がり、それぞれテーブルから散って三々五々、ソファ席などで酒を楽しむようになった頃、壁際でマティーニのようなカクテルをちびちび飲んでいた涼井の傍にロアルドがやってきた。


「スズハル提督……」いつになく真剣な調子だったので涼井はふと真顔に戻った。

「ロアルド提督、何か話がありそうだね」

「今回の戴冠式は共和国だけではなく、いろいろな国が呼ばれていると聞く」

「そのようだな」

「私はこの帝国と接する宙域に配備されて長いので色々な噂が入ってくるのだが……」

 

 ロアルド提督は国境の宙域を担当しているだけに、普段から偵察艦隊を派遣し、怪しげな船を臨検したり情報収集したりと積極的に活動をしているそうだ。その中で、開拓宙域に向かう船が増えている感覚があるとのことだった。


「開拓宙域……」

「この広い宇宙において、もちろん最大級の領土を持っているのはアルファ帝国。72個の惑星を持っていて、数だけなら共和国の1.5倍はある。ただ知っての通り帝国は貴族同士の派閥で分裂しているので実際に集中できる戦力は少なく、共和国も反体制派などの抑制があるので全力は出せなかったので膠着状態が続いていた」

 そこでロアルド大将は手に持っていたビールらしき飲み物をぐぃっと飲みほした。 

「もちろんその壁を打ち破って最大戦力を作り出したどころか帝国貴族と同盟までやってのけたのはスズハル提督の才覚だが……」

 その目には敬意がこもっていた。


「開拓宙域はこれまで恒星間開拓事業公社が国際共同事業の形で開拓をしてきたが、どうも我々が戦争に明け暮れている間にかなりの規模の惑星がすでに開拓されているらしい」

 ロアルドは続けた。


 この宇宙には帝国、共和国の他、いくつかの中小国で成り立っていた。

 最大級のロストフ連邦でも領土となっている惑星は12個と、共和国の1/4以下の規模でしかないのだが、惑星開拓事業は順調で、少なくとも名目上はまだ誰のものでもない居住可能な惑星、もしくは居住可能なようにリフォームされている惑星の数が相当な規模になってきているようだった。

 そして最近はそこに向かう商業船や輸送船が妙に増えているという。


 こうした細かい兆候は何かが起きている証なのだろう。

「……ありがとうロアルド提督。留意する」

「まるで政治家のような言い方だな、スズハル」ロアルドは破顔した。


 いつしかボールルームからは人が消え始めていた。

 涼井も寝ることとしてその場を辞した。


 開拓宙域に向かう船が多いということは物資を運んでいるか、あるいは何らかの取引が盛んになってきているということだった。その具体的な数はロアルドが把握できているだけでもかなりの規模に上り、帝国船籍や共和国船籍もかなりの数把握できているとのことだった。

 

 何かが起きているのだろう。

 涼井はそう判断し、与えられた個室のベッドに倒れ込むと、眠りに落ちるまでの間、考えを巡らせはじめたのだった。

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