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【決算】文民統制

いつもお読みいただきありがとうございます

 涼井が直接指揮するヘルメス・トレーディング社の艦隊は抵抗を続けていた。

 現在の状況は下記のような形勢になっていた。


 ロストフ連邦本国: リシャール公率いるヘルメス・トレーディング社艦隊が(ロアルドとニールセンがお目付役)首都惑星ロストフを攻囲中


 共和国本土: ヴォストーク元帥率いるロストフ連邦3個艦隊が警戒中

抵抗勢力のファヒーダ提督は艦隊を率いたまま行方知れず。


 開拓宙域: ロストフ連邦バルカル臨時総督の11個艦隊が涼井の立て篭もるランバリヨンに続く暗礁宙域を攻撃中



 涼井は局地的には数の上で劣勢ではあったが地形をよく生かし防御戦闘を続けていた。


 バークの心配をよそにタマーニュ提督の攻撃を涼井はうまくあしらい、一進一退の攻防が続いていた。


 バルカルの率いる臨時総督府艦隊の戦いかたが変化したのは数日後のことだった。

 タマーニュ元帥の第一梯団とバルカル元帥(自称)指揮の第二梯団が交代し、バルカル直接指揮の第二梯団は、まるで捨て身とも思える強烈な前進を始めたのだった。


 バルカルは焦っていた。

 手持ちの14個艦隊のうち11個艦隊を注ぎ込んでいるため、共和国本土もわずかな警戒部隊のみとなっている。ロストフ連邦の首都惑星は攻囲されている。


 幸い帝国などに救援を求める権利を持っている前大統領オスカルはバルカルの旗艦に乗っている、そのため通信手段も限られ、オスカルはバルカルに取り入ることしか考えていない、とバルカルは考えていたためその点は安心していた。しかし以前、傭兵艦隊ヤドヴィガが商業ギルド同盟の参戦にしてやられたように、その他の勢力が動かないとも限らない。

 

 数万隻も動員されていたのは予想外だったが、一刻も早く涼井の本拠地を叩き、ロストフ連邦本国を解放する必要があると彼は考えていた。


 ロストフ連邦の艦艇が捨て身となって突進してくる。

 砲撃をしながら突進し、前衛が薙ぎ倒されても意に介せず次々に距離をつめてきた。

 距離をつめられるとお互いの火力が濃密になり双方の被害が増える。

 

 暗礁宙域のありとあらゆるところで火線が交錯し、破壊の連鎖が起きる。

 バルカル艦隊は突進を繰り返し、涼井の艦隊は善く防いだが、だんだんと押されてきていた。ロストフ連邦の艦隊の被害のほうが大きかったが、こういう時は数的に劣勢なほうが押されてしまうのはやむを得なかった。


「元帥閣下!」

 バークがたまらず提督席の涼井に声をかける。

 いまもメインモニタに映る戦況図によると、戦艦の戦隊がまるまる敵方に飲み込まれたところだった。


「このままだとランバリヨンまで押し返されてしまいますぞ」

 涼井はバークを見た。


「まぁ私は提督を信じてますけどね」とバークの隣に立つリリヤ。「でもちょっと劣勢なような……」

 

 心配そうにこちらを見つめる2人、そして艦橋のスタッフたち。

 どこかで見た光景だ。

 そうだ、初めてこの世界に転移してきたとき、倒れたスズハル……涼井を彼らが見つめていたのだった。


「心配かな?」涼井は眼鏡の位置をくぃっと直した。

「もちろんですよ。……提督、帝国に救援を求めましょう」

 バークは意を決したように声を絞り出した。


「もちろんのことながら共和国をいまロストフ連邦が抑えているとはいえ、外交の権限は大統領にしかないのは存じています……」バークの目にはどこか悲しみの色が宿っていた。


「しかしこのままでは……我々が倒れてしまえば後がありません。提督……元帥閣下は幸い帝国にも多数の知己があると思います。提督が頼めばリリザ殿も動くでしょう。もちろん文民統制を逸脱しているのは理解しています。提督も心苦しいと思います。しかし我々の生きる道はそれしかないのですぞ! 閣下!」


 バークは強い口調で涼井に対して軍人の権限を逸脱した行為を要請したのだった。


「……つまりこの私に共和国の命運がかかっていると?」

「その通りです。帝国に救援を要請するしかありません」


 涼井は眼鏡を外し、ため息をついた。


「心苦しいのは分かっておりますが閣下……」

 

 涼井は微笑を浮かべた。

「気持ちはわかっている」

「このまま文民統制と民主主義に殉じるおつもりですか!」


 涼井は沈黙していた。

 艦橋にいるのはそのほとんどが脱出してきた共和国軍人だ。

 彼らは涼井の言葉を待った。


「……いやぁこういうシチュエーション、実は憧れていたんだ」

「提督?」


 涼井は眼鏡を装着し直した。


「帝国の救援? もう頼んであるよ」

「閣下! ごけつだん……は? え?」

「帝国の救援はもうとっくに頼んである。我々が暗礁宙域に連中を十分引きずり込んでから動くようカルヴァドスを通じて依頼してあるよ」

「え? 閣下、文民統制ってご存知で……?」

「知っているよ。しかしいま共和国政府ってどこ(・・)にある?」

「あ、あぁー……」

「実効支配している政府が存在しないし、そもそも今の私って共和国軍人か(・・・・・・)?」


 バークははっとした表情を見せた。

「そういえば……確かに共和国の金でこの会社を作りましたが、今の我々は正式には脱走兵……」

「政府がなくなったからやむなく抵抗活動をしている遊撃部隊だ。その遊撃部隊が自らの意思で仲の良い友人(・・・・・・)に救援要請したからといって、どこの誰(・・・・)に問題にされるのかな? 開拓宙域は我々が実効支配しているよ」


「なるほどぉ、わたし達はみんなそっち系(・・・・)ということですね!」

「ワ……ワハハハハハー!」

 バークは大笑いした。

「確かに! まぁそっち系(・・・・)っていうのは分かりませんが、我々は今や共和国憲法の名の下に動く共和国の軍人ではなく、ヘルメス・トレーディングの社員でしたな」

「そういうことだ。会社の意思決定を行うのは経営者。それを支えるのは株主。おおもとの金を出したのは共和国だが、その共和国は別に直接の株主ではない」

「じゃあ何の問題もありませんな! ワハハ! 心配して損した!」バークは涙を流して心から笑っていた。

 

 臨時総督バルカルが涼井の艦隊を数の力で圧倒しはじめていた頃。

 共和国の国境宙域であるアルテミス宙域付近に無数の艦艇が集結していた。


 その中にひときわ目立つ優美な戦艦がいた。

 その戦艦の名はヴァイン改。アルファ帝国皇帝リリザの旗艦だった。


「さて、そろそろ涼井提督からの依頼を果たして恩を売りつける日が来たようね」

 提督席に座り、銀色の目を輝かせたのは皇帝リリザその人だった。 

 彼女は旧ヴァイン領の貴族たちを親衛隊とし、帝国皇帝派となった大小の貴族が率いる25万隻の艦艇を指揮していた。


 リリザは立ち上がった。惑星をかたどった彼女の耳飾りが揺れる。

「一気に踏み潰すぞ! 目標はロストフ連邦臨時総督府の壊滅と友邦である共和国領土の解放だ。全軍進撃開始!」


 彼女の号令で帝国艦隊25万隻はリアクト機関の青い航跡を残しながら一斉に旧共和国領土へ侵入したのだった。




いよいよ二期目、あと2話で完結です。

また随時修正しますので誤字脱字報告お寄せください。

感想もお待ちしております。


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