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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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女達のお茶会

 毛むくじゃらで、小汚い格好は変装だったようだ。

 見た目にだまされたら、エリックさんが王様だとは誰も気づかないだろう。


 身分を隠していた理由は、色々あるのだろうと思い、詮索する気はない。


 ……ただ、娘をあてがおうとするのは勘弁してくれー!


 ◇◆◇◆


 フローラ達も城に着いて、客間に案内されていた。

 かなり立派な広い部屋で、テーブルには花が飾られている。

 出された紅茶を飲みながら、四人は苛ついていた。


 部屋に鍵はかけられていないが、中には二人のメイドがいて廊下には兵士が立っている。

 外に出られないので、軟禁状態と言えよう。


「あーもう、我慢できない!」


「やるなら付き合うよ、フローラ」


「放置プレイも飽きたわん」


 三人は椅子から立ち上がりドアへと向かう。リンダは指の関節をポキポキと鳴らしている。

 部屋から力尽くで出るつもりだったが、その前にメイド達が動き部屋の両扉を開けた。


 フローラ達が首をかしげていると、雅が中に入ってくる。

 いけしゃあしゃあと、悪びれた様子もなく四人に挨拶をした。

 

「皆様、長らくお待たせしました」


「海彦はどこよ!」


「勇者様は宮殿内を回っておられます。私の父が御案内しておりますわ。ここにも来られると思いますが、しばらくかかるでしょう」


 これで女達は暴れるわけにはいかなくなった。

 王様に無礼をはたらくわけにはいかず、仕方なく引き下がって椅子に戻る。

 もっとも、雅は別だ。フローラ達は思い切りにらみつける。


 海彦を連れていかれたので怒りが収まらない。雅は全く気にしていない。


「お待たせしたお詫びと言っては何ですが、お菓子をお持ちしましたので、どうぞお召し上がりください」


「ちっ!」


 メイド達がテーブルに菓子皿をめいめいに置いて、紅茶を入れ直した。

 雅も円形テーブルの席について座る。

 見慣れぬ菓子を前に四人は警戒していたが、ロリエが先んじて手に取った。


 茶色で四角い物を、可愛らしい口に入れると――


「あっ!」


「ロリエ大丈夫!?」


「まさか毒!?」


 ロリエは首を振って否定する。


「あっまーい! なにこれ?」


「チョコレートですわ」


「海彦から聞いたことがある。あんた作ったの?」


「はい、ドワーフさんに機械を作っていただき、料理人がチョコレートを作りました。製造知識と攪拌機かくはんきがなければ作れないお菓子です。他にも酢・油・卵を混ぜ合わせるマヨネーズも、楽に作ることができました。本当に機械はすばらしいですわ。全ては海彦様のおかげです」


 海彦はアルザスの人間に直接知識を教えてはいないが、国にやってくるドワーフ達から技術は伝わっていた。


 亜人達は村では手に入らない材料を求めて、アルザスに頻繁ひんぱんに訪れている。

 もしくはガラス製品を求めて物々交換に来ており、最近はビール瓶の取り引きが盛んである。


 馬車や徒歩での移動は少なくなり、今は蒸気自動車による運搬が主流になりつつある。

 やはり、速さと物量において自動車にはかなわない。


 残った三人も恐る恐るチョコレートを口にして、ほっぺたが落ちそうな甘さに目を丸くする。

 これまでの怒りが少しは収まり、毒気を抜かれた。


 人は食べている間は余計なことは考えなくなるもので、心も落ち着いていく。

 リンダは別なお菓子に手をのばし食べてみると、口の中でパリパリと音が鳴る。

 

「これは揚げたジャガイモ、塩味だわさ」


「ポテトチップスです。これは作るのは簡単でしたが、薄く切るために電動スライサーを使用してます。これも手作業だと時間がかかるだけで、大量には作れませんわね」


「うん、分かる。ナイフじゃ形にバラツキが出るし、単純作業は疲れるわ」


 調理機械も進歩して、ヘスペリスの食生活も変わりつつあった。

 美味いものを食べたいと思えば、人はどこまでも追求していくものだ。


 ましてや地球の調理法れしぴを知ってしまったら、美食家グルメにもなる。


「モグモグ、あんた食えない女ね」


 賄賂のお菓子で、フローラ達の機嫌は良くなる。女性であれば甘い物を好んで当たり前。


 男性とは味覚も違い、血糖値が下がりやすいから、どうしても欲してしまうのだ。


「いえいえ、それほどでもございません」


「褒めてない!」


 笑う雅はどこまでもマイペースだった。

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