女達のお茶会
毛むくじゃらで、小汚い格好は変装だったようだ。
見た目に騙されたら、エリックさんが王様だとは誰も気づかないだろう。
身分を隠していた理由は、色々あるのだろうと思い、詮索する気はない。
……ただ、娘をあてがおうとするのは勘弁してくれー!
◇◆◇◆
フローラ達も城に着いて、客間に案内されていた。
かなり立派な広い部屋で、テーブルには花が飾られている。
出された紅茶を飲みながら、四人は苛ついていた。
部屋に鍵はかけられていないが、中には二人のメイドがいて廊下には兵士が立っている。
外に出られないので、軟禁状態と言えよう。
「あーもう、我慢できない!」
「やるなら付き合うよ、フローラ」
「放置プレイも飽きたわん」
三人は椅子から立ち上がりドアへと向かう。リンダは指の関節をポキポキと鳴らしている。
部屋から力尽くで出るつもりだったが、その前にメイド達が動き部屋の両扉を開けた。
フローラ達が首をかしげていると、雅が中に入ってくる。
いけしゃあしゃあと、悪びれた様子もなく四人に挨拶をした。
「皆様、長らくお待たせしました」
「海彦はどこよ!」
「勇者様は宮殿内を回っておられます。私の父が御案内しておりますわ。ここにも来られると思いますが、しばらくかかるでしょう」
これで女達は暴れるわけにはいかなくなった。
王様に無礼をはたらくわけにはいかず、仕方なく引き下がって椅子に戻る。
もっとも、雅は別だ。フローラ達は思い切りにらみつける。
海彦を連れていかれたので怒りが収まらない。雅は全く気にしていない。
「お待たせしたお詫びと言っては何ですが、お菓子をお持ちしましたので、どうぞお召し上がりください」
「ちっ!」
メイド達がテーブルに菓子皿をめいめいに置いて、紅茶を入れ直した。
雅も円形テーブルの席について座る。
見慣れぬ菓子を前に四人は警戒していたが、ロリエが先んじて手に取った。
茶色で四角い物を、可愛らしい口に入れると――
「あっ!」
「ロリエ大丈夫!?」
「まさか毒!?」
ロリエは首を振って否定する。
「あっまーい! なにこれ?」
「チョコレートですわ」
「海彦から聞いたことがある。あんた作ったの?」
「はい、ドワーフさんに機械を作っていただき、料理人がチョコレートを作りました。製造知識と攪拌機がなければ作れないお菓子です。他にも酢・油・卵を混ぜ合わせるマヨネーズも、楽に作ることができました。本当に機械はすばらしいですわ。全ては海彦様のおかげです」
海彦はアルザスの人間に直接知識を教えてはいないが、国にやってくるドワーフ達から技術は伝わっていた。
亜人達は村では手に入らない材料を求めて、アルザスに頻繁に訪れている。
もしくはガラス製品を求めて物々交換に来ており、最近はビール瓶の取り引きが盛んである。
馬車や徒歩での移動は少なくなり、今は蒸気自動車による運搬が主流になりつつある。
やはり、速さと物量において自動車にはかなわない。
残った三人も恐る恐るチョコレートを口にして、ほっぺたが落ちそうな甘さに目を丸くする。
これまでの怒りが少しは収まり、毒気を抜かれた。
人は食べている間は余計なことは考えなくなるもので、心も落ち着いていく。
リンダは別なお菓子に手をのばし食べてみると、口の中でパリパリと音が鳴る。
「これは揚げたジャガイモ、塩味だわさ」
「ポテトチップスです。これは作るのは簡単でしたが、薄く切るために電動スライサーを使用してます。これも手作業だと時間がかかるだけで、大量には作れませんわね」
「うん、分かる。ナイフじゃ形にバラツキが出るし、単純作業は疲れるわ」
調理機械も進歩して、ヘスペリスの食生活も変わりつつあった。
美味いものを食べたいと思えば、人はどこまでも追求していくものだ。
ましてや地球の調理法を知ってしまったら、美食家にもなる。
「モグモグ、あんた食えない女ね」
賄賂のお菓子で、フローラ達の機嫌は良くなる。女性であれば甘い物を好んで当たり前。
男性とは味覚も違い、血糖値が下がりやすいから、どうしても欲してしまうのだ。
「いえいえ、それほどでもございません」
「褒めてない!」
笑う雅はどこまでもマイペースだった。




