トラブルの種はつきない
人間の国の名は、「アルザス」。
船から見ると、たくさんの住居がある。やはり村とは違い国は大きい。
亜人一つの村の人口は千人弱だが、ここには一万人以上住んでいると聞いていた。
「子供のころに一度きたきりだけど、更に大きくなったみたいね」
「そうねん」
久々に訪れたフローラ達は、昔を懐かしがっている。
陸に近づくにつれ、人の姿も見えてきた。
沿道に商店が軒を連ねて、人で混み合っている。
どの店も活気があり、繁盛しているようだった。
クルーザーが港に入っていくと、大小様々な船が停泊していた。
「さてどこに止めていいのやら……あれか」
桟橋で旗を振って、合図をしている兵士が見えた。
ハンスさんの声が聞こえてくる。
「勇者殿ー! こちらへどうぞ!」
「分かりましたー! リンダ、エンジンの出力を下げてくれ」
「あいよ」
俺はクルーザーの速度を遅くしてもらう。
エンジンを付け替えたので、アクセルレバーが操縦席にはなく、速度調整はリンダに任せていた。
舵は独立してるので、操舵輪を回して船の向きは変えられる。
俺は慎重に操舵しながら、桟橋に船を寄せた。
錨を降ろすと、フローラ達は係留ロープを投げてくれた。
桟橋にいる兵士達がロープを引っ張り、丸太ビットに巻き付けてクルーザーは停船した。
リンダが蒸気エンジンを止めた後、渡し板がかけられる。
俺達がアルザスに上陸すると、大勢の人達とミシェルが出迎えてくれた。
そしてもう一人、煌びやかな絹ドレスを着た、長い黒髪の女性がいた。
一瞬、俺は大和撫子かと思ってしまう。どう見ても日本人に見える。
「ようこそ勇者様。私は婚約者の雅と申します。年若く至らぬところもございますが、どうぞよろしくお引き回しのほどお願い申し上げます」
「え――――!」
「はあー!? なに言ってんのよアンタ!」
アルザスのお姫様の一言で、桟橋は修羅場になってしまった。
思えばこれが波乱の幕開けである。
「……ついた早々トラブルかよ」
◇◆◇◆
「おりゃりゃりゃりゃあああああ!」
「いでよ水精霊! エアの激流!」
ここは女神の湖の一つ、ニュクス湖。
王国のあるセレネ湖から、西にある湖だ。
二人の少女が何かと戦っていた。それは霧に浮かぶ、巨大な黒い「影」。
大きさにひるむことなく、二人は攻撃をしているが全く効いてる様子はない。
「影」の方は積極的に反撃しようとはせず、まとわりついてくる蠅を、払うような動きをしていた。
少女達の動きが素早くて、とらえられないのだ。
一人の少女が「影」に飛び上がっては、殴ったり蹴ったりしている。
もしくは引っ掻き攻撃を繰り返して、湖面の上に降り立つ。これは魔法ではない。
よく見ると芦で作った筏が、あちこちに浮いている。
それを足場にしていたのだ。ヒモで結んだだけの小さいイカダである。
「しゃああああああ!」
少女は四つん這いになって、「影」を威嚇する。
その姿はまるで豹。
頭の上には獣耳があり、体には黄色の毛皮のブラとパンツをつけて、お尻からは尻尾が出ている。
彼女は獣人、亜人である。
手足は人間と変わりないが、今は爪のついた毛皮グローブとレガースをつけて戦っていた。
それが唯一の武器である。
獣人族はオークに匹敵する強さを持ち、爪の一撃はヒグマを引き裂くほどでかなり強い。
しかし、「影」には傷一つついていなかった。
人知れず、少女達の戦いは続いていた。




