犬に噛まれようともクルーザーで接待するしかない
「これはビーチバレーというスポーツで遊びだよ。簡単だし、楽しいからやってみない?」
「ほう、面白そうじゃな。わらわはやるぞ!」
ドリスは遊びに食いつく。
俺はバレーのルールを教えて、模範プレーを見せるとすぐに覚えた。
ドリスは頭も勘も良く、亜人なので運動神経は悪くない。
試合前、俺はエルフ達に目配せによる合図をした。
「アタックなのじゃー!」
ドリスのスパイクが次々と決まる。
対戦チームは俺の意をくんで手加減してくれていた。
みんな、忖度してくれてありがとう。
なんの便宜も図れないけどね。
八百長のおかげで、ドリスの機嫌はかなり良くなっている。
そのまま夕方までビーチバレーをした。接待はまだ続ける。
「あー楽しかったのう。しかし、えらく汗をかいてしまった」
「それでドリス。クルーザーで風呂に入らないか? あとご馳走もしたい」
「クルーザー? そこは泊まれる場所かえ?」
「ああ、俺が住んでる船だ。そこでおもてなししたい」
「……いきなり初夜か……もともとそれが目的じゃし……わらわも覚悟を決めねばならんか。よし一晩世話になるとしよう」
「歓迎するよ。こっちだ」
一瞬、ドリスが動揺したように見えたのは気のせいか?
やましい事をする気はないが、勘違いされたかもしれん。
俺は先頭に立ち、ドリスは犬達を引き連れてついてくる。
クルーザーにつくと、なぜか犬たちが吠え出す。
「やめい! ヨーゼフ、パトラッシュ!」
「お腹が空いてるんじゃないかな? ちょっと待っててくれ」
ボールにエサを入れて出すと大人しくなり、ガツガツと食った。
こうして犬達は俺にもなついてくれる。
じゃれつかれて甘噛みされるが……かなり痛いのは気のせいか……?
やっぱ痛てーよ! この犬どもめー!
ドリスの手前、噛まれていても表面上は仲良くするしかなかった。
ようやく犬達から離れて、船の中をドリスに案内する。
フローラの時と同様に、機器を使って見せると――
「なんじゃー! こりゃー!」
機械を見てドリスは大いに驚いた。初めて見るから無理もない。
風呂と料理にも満足してくれたようで、借金交渉の下準備は完了だ。
あとは話を切り出すタイミングが問題。
バスローブを着ているドリスと、俺は雑談をしていた。
「へー、鉱山の近くに温泉があるんだ?」
「うむ、じゃぐじーとやらも良かったが、温泉は体によい」
「分かる。日本じゃ近くにあったから、穴場をタダで利用していた。久々に温泉に入りたいな」
「ならばドワーフの村にくるとよい。わらわの元で働いて、鉄の代金を払ってもらおう。ただ重労働はさせん……夜の生活もあるでの」
「う……」
やはり誤魔化しはきかない。ドリスはしっかりしており、俺は強制労働に連れていかれそうだ。
あと、何やら不穏なことを言ってたような……これは何としても避けたいとこだ。
「と、ところで、鉄の採掘ってやはり大変なの?」
「うむ、掘るのも運び出すのも手間じゃ、ノームに木車で外に運ばせてる。製鉄するのにも時間がかかる」
「あれ? トロッコとかは使わないの?」
「なんじゃそれは?」
「知らないか……とすると」
俺は気づいた。己の肉体と精霊が動力だから機械が存在しないのだ。
現状に反発する異端者がいなければ、発明も生まれない。
となれば、現代技術をもたらせばかなり楽になるはず。
俺はノートパソコンを立ち上げて、百科事典で検索する。
「この薄い板も機械とやらか、すごいのう」
「これがトロッコだよ。レールの上を走らせる貨車だ」
「なんと!?」
「手押しトロッコでもいいし、ジェットコースターのように山や谷を作れば、動力なしでも鉄を外に運べるよ」
動画を見せると、ドリスは目を丸くしていた。
「これさえあれば、皆の苦労が減る!」
「それと、俺としてはコレも作ってみたいんだ」
ある機械を見せると、ドリスは声を失った。よしあともう一押し!
「それで機械ができたら、借金を帳消しにしてほしいんだけどー……」
「これが動くようになったら、逆に支払いをせねばならぬ」
「いやいや俺一人じゃ作れないから、お互いに協力して進めよう。リンダや他の部族の力もいる」
「そうじゃな、そうしよう。それで鉄の対価は十分じゃ」
話はまとまった。俺達は朝まで語り合う。
眠くなったところで、ドリスは騒いだ。
「しまったー! 子づ……するのを忘れとった……」
「何を?」と聞く前に俺のまぶたは落ちた。二人で寝落ちしてしまう。
昼になって目を覚まし、俺は旅支度を始めた。
このドリスとの出会いが、へスペリスに工業革命を起こすこととなる。




