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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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勝ったのにブーイングされるのは納得いかない

 今回の仕掛けは二つ。


 一つは、俺自身がエサの役目をしたことだ。鰐鮫に食いつかせるためである。


 俺の胴体にはトゲのついた「鉄の輪」があった。


 ドーナツ状なので浮き輪のように使い、鰐鮫に噛まれても死なずにすんだ。


 リンダに作ってもらった鉄の輪は、鰐鮫が力を込めても壊れたりしない。

 円形は強く、一流の鍛冶師が心を込めて作った一品。


 これを噛んで潰せるものなら、潰してみやがれ!


 いくつもあるトゲには返しが付いており、釣り針と同じなので外れることはない。

 鰐鮫の噛む力が、かえってあだとなり深々と刺さっていた。


 口を開くことも出来ず、開けたままになる。



 そしてもう一つは、木を丸ごと竿さおにしたことだ。


 二十メートルもの堅い木を削り、枝を落として作ってもらった。

 これを鉄船の帆柱に乗せて、鉄の輪と綱で結んだ。巨大な釣り竿である。


 ただ、船でバランスを取るのは大変だ。


 鰐鮫を吊している反対側では、亜人達が自ら重りになって調整してくれた。

 一種の起重機クレーンにも見える。


「ギョワ、ギョワ、ギョワ――!」


 水上で吊された鰐鮫は、ナイアスの守りを使う。防御魔法を使うのは予想通り。

 ボウ銃による攻撃を恐れ、体の周りを赤い精霊に守らせる。


 だが、矢は一本たりとも飛んではこなかった。


 俺がいるから撃てないのではなく、俺がトドメを刺すからだ!


「よっと!」


 鉄の輪から俺は上に抜け出し、足を開いて鰐鮫の口の上に立つ。

 俺は上着から、酒瓶を取り出した。


「アルコール度数九十六、スピリタス。まあ飲め飲めモサウルス、俺のおごりだ遠慮はするな。ただし、末期の酒だがな。くっくくくくく!」


 惜しげも無く、俺は鰐鮫の口の中に全部注いでやった。

 口の中まで精霊は守ってはいない。

 人でも普通に飲んだらヤバイ酒である。口から火を噴くだろう。


 クルーザーで、酒を飲んで寝ようとした時に思いついた作戦だ。

 あとやることはただ一つ。


 俺はリンダからもらった火種入れを取り出す。

 中には火の精霊(サラマンダー)が入っていた。


「さらばだモサウルス! お前のことは忘れてやる」


 サラマンダーを口の中に放り込み、鰐鮫を台にして俺は湖に飛び込んだ。


 直後、モサウルスが口から火を噴き、一気に体が燃え上がった。

 悲鳴を上げる暇すらない。


 焼き魚ならぬ、黒焦げ魚の出来上がり。体内が燃えては、固いうろこも意味がない。


 飲ませた酒は、アルコール成分が強いので激しく燃える。恐らく骨しか残らないだろう。


 赤い両目はとっくに光りを失っていた。


「勝ったぞー!」


 俺は勝利を確信し、水上で拳を突き上げた。


「ブ――――――――!」


「えっ!?」


 俺は船上にいる亜人達から、ブーイングを浴びせられた。


 訳が分からないまま、野次が飛ぶ。


「海彦、神怪魚を焼いたら何も残らないじゃないか! 戦利品が骨だけじゃ話にならん!」


「そうだそうだ! 船を二隻も失ってるから割に合わん!」


「うーむ、支払いがまずいことになるやもしれん。まあ勇者殿に立て替えてもらおう」


 ロビンさんも何か言っており、俺はむかつく。


 知るかーボケ! 神怪魚を倒してやっただけでも、有り難く思えー!


「うるせー! 馬鹿野郎!」


「わっはははははは!」


 俺がキレると皆が笑い出す。小舟に引き上げられると、一斉に拍手された。

 手荒い祝福というやつだった。誰も笑顔で俺を称えてくれる。


 大リーグじゃねえーぞ!



 ヘカテーの湖は浄化が始まり、神怪魚がまた出てくる様子はなかった。

 これで全てが終わり、後は時間が経てば日本に帰れるだろう。

 と俺は思っていたのだが……。

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