勝ったのにブーイングされるのは納得いかない
今回の仕掛けは二つ。
一つは、俺自身がエサの役目をしたことだ。鰐鮫に食いつかせるためである。
俺の胴体にはトゲのついた「鉄の輪」があった。
ドーナツ状なので浮き輪のように使い、鰐鮫に噛まれても死なずにすんだ。
リンダに作ってもらった鉄の輪は、鰐鮫が力を込めても壊れたりしない。
円形は強く、一流の鍛冶師が心を込めて作った一品。
これを噛んで潰せるものなら、潰してみやがれ!
いくつもあるトゲには返しが付いており、釣り針と同じなので外れることはない。
鰐鮫の噛む力が、反ってあだとなり深々と刺さっていた。
口を開くことも出来ず、開けたままになる。
そしてもう一つは、木を丸ごと竿にしたことだ。
二十メートルもの堅い木を削り、枝を落として作ってもらった。
これを鉄船の帆柱に乗せて、鉄の輪と綱で結んだ。巨大な釣り竿である。
ただ、船でバランスを取るのは大変だ。
鰐鮫を吊している反対側では、亜人達が自ら重りになって調整してくれた。
一種の起重機にも見える。
「ギョワ、ギョワ、ギョワ――!」
水上で吊された鰐鮫は、ナイアスの守りを使う。防御魔法を使うのは予想通り。
ボウ銃による攻撃を恐れ、体の周りを赤い精霊に守らせる。
だが、矢は一本たりとも飛んではこなかった。
俺がいるから撃てないのではなく、俺がトドメを刺すからだ!
「よっと!」
鉄の輪から俺は上に抜け出し、足を開いて鰐鮫の口の上に立つ。
俺は上着から、酒瓶を取り出した。
「アルコール度数九十六、スピリタス。まあ飲め飲めモサウルス、俺のおごりだ遠慮はするな。ただし、末期の酒だがな。くっくくくくく!」
惜しげも無く、俺は鰐鮫の口の中に全部注いでやった。
口の中まで精霊は守ってはいない。
人でも普通に飲んだらヤバイ酒である。口から火を噴くだろう。
クルーザーで、酒を飲んで寝ようとした時に思いついた作戦だ。
あとやることはただ一つ。
俺はリンダからもらった火種入れを取り出す。
中には火の精霊が入っていた。
「さらばだモサウルス! お前のことは忘れてやる」
サラマンダーを口の中に放り込み、鰐鮫を台にして俺は湖に飛び込んだ。
直後、モサウルスが口から火を噴き、一気に体が燃え上がった。
悲鳴を上げる暇すらない。
焼き魚ならぬ、黒焦げ魚の出来上がり。体内が燃えては、固い鱗も意味がない。
飲ませた酒は、アルコール成分が強いので激しく燃える。恐らく骨しか残らないだろう。
赤い両目はとっくに光りを失っていた。
「勝ったぞー!」
俺は勝利を確信し、水上で拳を突き上げた。
「ブ――――――――!」
「えっ!?」
俺は船上にいる亜人達から、ブーイングを浴びせられた。
訳が分からないまま、野次が飛ぶ。
「海彦、神怪魚を焼いたら何も残らないじゃないか! 戦利品が骨だけじゃ話にならん!」
「そうだそうだ! 船を二隻も失ってるから割に合わん!」
「うーむ、支払いがまずいことになるやもしれん。まあ勇者殿に立て替えてもらおう」
ロビンさんも何か言っており、俺はむかつく。
知るかーボケ! 神怪魚を倒してやっただけでも、有り難く思えー!
「うるせー! 馬鹿野郎!」
「わっはははははは!」
俺がキレると皆が笑い出す。小舟に引き上げられると、一斉に拍手された。
手荒い祝福というやつだった。誰も笑顔で俺を称えてくれる。
大リーグじゃねえーぞ!
ヘカテーの湖は浄化が始まり、神怪魚がまた出てくる様子はなかった。
これで全てが終わり、後は時間が経てば日本に帰れるだろう。
と俺は思っていたのだが……。




