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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
妃殿下の章

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本編その後番外編【海と少年とハネムーン】④

『毒殺令嬢』最終巻の購入報告、ありがとうございます!

9/14にFLOS COMICから毒殺令嬢コミック4巻も発売されますので、ぜひに~(˘❥˘)


 お腹が痛いとばかりに体を屈め、膝を叩いたりしながら、若者たちはヒーヒーと笑い続ける。

 そんなにおかしなことを言っただろうか。



「そりゃまあ俺らも入ったことはあるけど!」


「お姉さん、海に入って遊ぶのは小さいガキくらいだぜ!」



 なるほど、海で遊ぶのは平民の子どもくらいなのか。

 ある程度大人になると、水には入らず眺めて楽しむのが嗜み、もしくはマナーなのかもしれない。



「そうなの……。教えてくれてありがとう」



 やっぱり私がここで海水浴をするのは不可能らしい。

 心底残念に思っていると、若者たちが顔を見合わせ笑うのが見えた。



「もしかしてお姉さん、海で遊びてぇの?」


「それなら話は別だ。お姉さんと一緒なら、俺らも海で遊んでやるよ」



 ニヤニヤしながら私に手を伸ばしてきた若者だったが、その手が私に届く前に、彼は砂浜に膝をつくことになった。



「いっててて!」



 瞬く間に動いたヴィンセントが、若者の腕をひねり上げたのだ。

 突然の長身の男の乱入。しかも眼帯をした恐ろしいほどの美形。この状況に若者たちが慌てだす。



「何だよてめぇ⁉」


「この方に触れるな」



 いつも通り淡々とヴィンセントは言って、若者の腕を突き飛ばすように解放した。

 多勢に無勢だというのに、この安心感。いや、近くで他の護衛が待機してはいるけれど、ヴィンセントひとりきりだったとしても、私は動揺することはなかっただろう。

 悪ぶっている若者たちと王妃専属護衛騎士とでは、勝負にすらならない。野良猫集団が黒豹に勝てるわけがないのだ。



「はぁ? 俺たちは親切で言ってやってんだぞ」


「てめぇひとりで何が出来ると――」



 気色ばむ若者たちだったけれど、その中のひとりが何かに気づいたように「おい」と仲間たちを抑えた。



「何だよ」


「やめろ。こいつ騎士だ」



 途端に、若者たちはハッとした顔でヴィンセントを見る。

 マントの下で、ヴィンセントが剣の柄に手をやると、若者たちはじりじりと後退し始めた。



「……チッ。行こうぜ」



 あくまでも、見逃してやるというような体で、若者たちはこちらを睨み、早足で去っていった。

 魔族や大公を相手にしていた私たちから見れば、悪ぶりたいお年頃の子どもなんて可愛いものだ。


 そこで、ふと桟橋を見るとひとり残っていたことに気づく。

 私たちが現れても桟橋に腰かけたまま唯一動かなかった少年だ。

 鮮やかな赤毛の少年は、私より少し年下に見えたが、口には葉巻を咥えている。

 この国に葉巻の年齢制限はなく、紳士の嗜みのひとつとして普及しているものだけれど、私は前世の記憶もあってか、少年と言ってもいいくらいの若者が使用することには賛成できない。葉巻なんて百害あって一利なしの代物だ。



「ねぇ。皆行ってしまったわよ。あなたは行かないの?」


 私が声をかけると、赤毛の少年はこちらをちらりと見た。


「……別に。仲間でも何でもないし」



 それだけ言うと、すぐに海に視線を戻してしまう。

 少年の瞳は、この海のように碧く澄んでいた。



「仲間じゃないって、一緒にいたのに?」


「勝手に絡んできて、仲間面されてただけさ。こっちはうんざりしてた」



 自分は群れたりしない、孤高の一匹狼だ、とでも言いたいのだろうか。

 まあ、そういう年頃でもあるだろう。悪ぶるか、中二病に走るか。どの世界も年頃の少年の思考は決まっているものらしい。

 私がひとり納得していると、赤毛の少年は葉巻を指に挟み、私に向き直った。



「……あんた、貴族だな」


「あら。どうしてそう思うの?」


「その見た目で聞いてくるのか。……仕草でわかる。あと、護衛が何人もついてるだろ」


 砂浜の向こう、馬車が停まっている方向を見ながら少年が言う。


「まあ。よくわかったわね。もしかして、あなたも貴族? どちらの家紋の方?」


「俺は貴族じゃない。平民だ」



 少年は嫌悪感露わにそう言った。

 あまりにもきっぱり言い切られたけれど、本当に平民なのだろうか。


 先ほどいた悪ぶった若者たちと比べると、赤毛の少年は明らかに雰囲気が違う。

 体つきは彼らより小柄なのに、随分と落ち着いて見えた。服装は簡素ではあるものの、汚れていないし皺もない。サイズもオーダーメイドのようにぴったりと彼の体に合っている。

 髪も肌もツヤがあり、きちんと手入れされているのがわかる。

 これで貴族でないのなら、裕福な商家の息子とか、上級役人の子ども辺りだろうか。



「オリ――ヴィヴィアン様」


「大丈夫よ」



 心配顔のケイトに笑って、私は赤毛の少年に近寄った。

 先ほどの若者たちとは違って、彼は私たちに危害を加えるつもりはないだろう。そのつもりがあっても、ヴィンセント卿がいるし、私だって毒スキルで撃退できる。

 私と少年の距離が縮むと、頭の中で電子音が鳴り響き、赤いウィンドウが目の前に現れた。

 これはこれは。この少年、またなんてものを吸っているのか。



「その葉巻、粗悪品ね。若干幻覚と麻痺の作用がある葉が混じっているわ」


「は? 何言って……」


「さっきの子たちからもらったの?」



 手を伸ばし、赤毛の少年から葉巻を奪う。

 その際わざと彼の手に触れると、相手はびくりとその手を引っ込めた。

 一瞬だったけれど十分。私の目の前には彼のステータスウィンドウがしっかりと表示された。



「やっぱり。中毒になりかけてるじゃない」


「はぁ?」



 私が葉巻を踏みつぶし、それを拾い上げると、待っていたようにケイトがハンカチを差し出してきてそれを包み込んだ。

 ポイ捨てはいけないけど、ケイトには悪いことをしてしまった。あとで新しいハンカチを送ろう。


 戸惑った顔で固まる少年に、私は手を伸ばす。彼のまだ少し丸みのある頬に触れ【毒吸収】を発動した。

 次の瞬間、彼の体からぽこんと黒い球体が浮かび上がる。

 ギョッとする少年には構わず、私はそのほんのり発効する黒いマリモのような球を吸い込んだ。

 うーん。薄味だけど、ほんのり甘い。

 命に係わるほどの量ではなかったので、こんなものか。



「ごちそうさまでした」


「な、な、な……!」


 少年は目を白黒させながら、私を見上げる。


「あんた……俺に何をした?」



 驚くのもムリはない。普通人の体から黒マリモは出てこない。

 私だって毒スキルという特殊すぎるスキルの存在を知らなければ、自分の体から得体のしれないマリモが出てきたら泡を吹いて倒れるところだ。



「毒を抜いてあげたのよ。頭と体がスッキリしたでしょう?」


「い……意味がわからん」



 それはそうだろう。知る必要もない。

 赤毛の少年はビクビクしながらも自分の体にあちこち触れて確認し始め。「確かに体が軽いような……?」と呟いている。



「さあ。デトックスしてあげたんだから、何かお礼をしてもらわなくちゃね?」



 パンと手を叩いて私がにっこり笑うと、赤毛の少年はこっちを見上げ、顔を引きつらせながら固まるのだった。




妃殿下のドレスを脱ぎ捨てたオリヴィア、いきいきしてます。

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