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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております。

 

「手記、かぁ……」


 カードルさんと別れ、部屋に戻って来た俺は、ベッドに寝転がり、スマートフォンのメモを開く。レアーレの残した手記の内容は、大体スマートフォンにメモを取ってきた。


 内容的には絵本の話が少し詳しく書かれている程度なのだが、やはり当事者の生の声というのは心強い。


「凄いよなぁ……これ、300年以上前のものなんだろ……?」


「きゅー?」


 俺は手記の内容を読みながら、しみじみと呟く。

 300年以上前の、レアーレ本人が書いた言葉かと思うと、何だか重みが違う。


「こうやって、人に読まれて、語り継がれて、何百年先まで受け継がれていく……」


「きゅっ!」


「きっとレアーレ本人は、そんなこと想像もしてなかったんだろうな……」


 もちも俺のスマートフォンを覗き込み、楽しそうにもちもちと跳ねる。

 俺は笑いながらもちを撫でて、今日の出来事をスマートフォンの日記アプリに記録していく。


『トワ、またスマートフォンいじってるー』


 隣のベッドでゴロゴロしていたフィーユが、こちらのベッドに来て一緒にスマートフォンの画面を覗き込む。


『なんて書いてあるの?』


 日本語が読めないフィーユが、俺の打った文字を見てそう問いかける。

 俺は『ザソンさんの話の内容とか、今日あったこととか……色々だよ』と答えながら、『フィーユのことも書いてあるよ』と笑う。


 フィーユが嬉しそうに『本当? なに書いたの?』と聞いてくるので、『木の実を3つも食べてたことかなー?』と冗談交じりに答えると、『何でそういうこと書くのー!』と怒られた。


『ごめんごめん、口いっぱいに木の実を頬張ってたフィーユが、凄く可愛かったって書き直しておくから』


『ちーがーうー!』


 恥ずかしそうに怒るフィーユが可愛くてからかい続けていると、もちがぴょんぴょん跳ねだす。


『ん? どうした、もち?』


「きゅっ! きゅっ!」


 必死に自分をアピールするかのように、もちは飛び跳ね続ける。

 アピールの意味が分からず、俺が『んー……?』と首を傾げていると、フィーユが『あ!』と叫ぶ。


『もちも自分のこと書いて欲しいんだよ、きっと!』


「きゅっ!」


 フィーユの言葉に、もちは「正解!」というように鳴き声を上げる。


『おー……なんだ、もちのこともいっぱい書いてあるよ』


 俺はそう言いながら、もちをよしよしと撫でる。


『ファーレスとエクウスのことはー? 書いたー?』


『おー書いた書いた』


 フィーユの言葉に答えながら、俺は自分の書いた過去の行動録をさらっと見返す。


 最初の頃は、本当にただ行動を記録しただけの簡素なものだった。

 所持品を確認した、木を登って辺りを確認した、等々。

 今読み返すと、本当手探りでサバイバルしてたなー……と懐かしくなる。


 そこに段々と自分の中の思いや感情が書き足されるようになり、日を追うごとに泣き言が増えていった。

 帰れるのか、帰りたい、何故自分はこんなところにいるんだ……。

 異世界に来て山を彷徨っていた頃は、本当に不安で仕方がなかった。


「……そこで、もちに会ったんだよな……」


「きゅ!」


 もちに会ってからの行動録は、もちの観察日記のようになっていた。

 もちと一緒にこんなことをした、もちがこんなものを食べた、等々。

 少しずつもちと心を通わせていくのが楽しかった。もちのおかげで、俺は不安を乗り越えられた。


「森を抜けて、スティード達に会って、ノイに行って、ペールとメールの家にお世話になって……」


 スティード達に会ってからは、記載内容が一気に増えた。

 異世界のこと、言葉のこと、そしてノイの皆のこと。

 1つ1つが忘れられない宝物だ。


「ノイを出て、ナーエに行って……」


 ナーエでの出来事は、いいことばかりじゃなかった。

 俺は命を危険に晒されたし、初めてこの手で人を殺めようとした……。


「でも、フィーユ達に会えた」


『私?』


 俺のフィーユという呟きに反応したのか、フィーユが『なになに?』と楽しそうに笑いかけてくる。


『フィーユ達に会えてよかったなーって思い返してた』


 フィーユの頭を撫でながら俺がそう答えると、フィーユは俺にぎゅっと抱き着いてくる。



『私も! トワ達に会えてよかった! 本当によかった!』



 俺はフィーユを抱きしめ返しながら『……ありがとう』と一言だけ呟いた。



 ……



 翌朝。

 この日は予備日というか、何かあった時のために一応予定を開けておいたのだが、ザソンさん達との会合もつつがなく終えたため、1日空いてしまった。


『暇になっちゃったな……フィーユ、どうする? どっか行きたいところとかあるか?』


 俺が『買い物でも行くか?』と問いかけると、フィーユは少し悩んだ後『んー……じゃあファーレスのとこ遊びに行こ!』と答えた。

 ファーレスも俺達に合わせ、今日は1日オフのはずなので、きっと部屋にいるだろう。


『そうだな。部屋で1人寂しく、ぼーっとしてるだろうし、ファーレスのとこでも行くか!』


 俺が冗談交じりにそう言えば、フィーユも笑いながら『おー!』と返してくれる。



 ……



 ファーレスの部屋へ行ってみれば、想像通り1人でぼーっとしていた。こいつは飯や訓練以外の時間は、ほぼぼーっとしているようだ。


『ファーレス、遊びに来たよー!』


『……あぁ』


 フィーユが楽しそうにファーレスに飛びつくと、ファーレスも無表情ながらフィーユをそっと抱きとめていた。

 俺は適当な椅子に腰かけ、段々と距離が縮まっていく2人を見守りながら、ふと気になっていたことを問いかける。


『ファーレスは、デエスの森に行ったことあるのか?』


『……あぁ』


『おー……! どんな感じなんだ?』


『……さぁな』


 ファーレスの答えはいつも通りだった。

 結局、中途半端な誓いの言葉以降、ファーレスが5文字以上喋るところは見ていない。まぁそれがファーレスらしくていいのかもしれない。


『危険な魔物とか、いっぱいいる?』


 俺達の会話を聞いていたフィーユが、不安げに問いかける。

 フィーユの問いに対し、ファーレスが『……いや』と首を振って答える。その答えを聞き、俺も少し安心した。


『結局、カードルさんのあの意味深な発言は何だったんだろうなー?』


『……さぁな』


 今度の『さぁな』は本気のようだ。

 カードルさんにはお世話になっているので、期待に答えられるように頑張りたいが、何を期待されているのか分からない以上、努力のしようがない。


『不安だなー……デエスの森、入れなかったらどうしようか……?』


 デエスの森という大きな手掛かりを掴んだことは嬉しいが、先に進めないのではどうしようもない。しかも相手は何百年と封印されてきた森で、専門家が調べても何の手掛かりも得られなかった強敵だ。



『でもでも! 私達はベスティアの森も越えて来たんだし、きっと大丈夫だよっ!』



 不安気に溜息を吐く俺を見て、フィーユが自信満々に断言する。



『そっか、そうだな……俺達なら、きっと何があっても大丈夫だよな!』


『……あぁ』



 異世界生活532日目、俺達はそう言って、互いの顔を見て強く頷きあった。









このお話で第5章完となります。ここまで読んで下さりありがとうございました。

次話は番外編を更新予定です。そちらもお楽しみ頂ければ幸いです!

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