寿命を九割削る病
「これしか方法はないのですか」
私の問いかけに首相は頷いた。
「仕方あるまい。それとも何か。この病を放置しろとでもいうのか」
そう言われてしまっては私も答えようがない。
だけど……。
胸にかかるペンダントをそっと握りながら私は言う。
「しかし、病に罪はありません」
「あぁ。そうだとも」
首相は認めた。
その通り。
病に罪はない。
「だが、事実としてこの病にかかれば寿命の九割は失われる」
「生き残った者もいます」
反射で喋ったことを後悔した。
首相は私に返す言葉に迷う必要がなくなってしまったから。
「その通りだ。君は生き残った。しかし、立ち直るまでに何年かかった?」
「……覚えていません」
嘘だ。
実際は覚えている。
だけど、とてもではないが言えない。
だって――。
「なら、教えてやろう。3122年だ。僅か50年ほど『病』と共にあっただけで――そして、それだけでなく」
首相はすたすたと歩いてきて私の握っていたペンダントをそっと握った。
「君は今も病を想っている。違うか?」
「……はい」
言い返せなかった。
もう3200年近くも前のことなのに。
この病は寿命を喰らう。
いや、もっと言ってしまえば生きる気力を奪うのだ。
私の友人も数えきれないほどにこの病で命を落としている。
そして、私自身も何度も自ら命を絶とうとしたことか――。
「あの病は厄介だ。我らと同じ姿をしているのに、我らと同じ言葉を話すのに、我らと同じように生きているのに――寿命だけは遥かに短い」
首相は大きくため息をついた。
「これ以上。国民が死んでいくのを私は認めるわけにはいかない……今日より全ての国民に病と付き合うことを禁ずる」
私は頷くしかなかった。
***
この日。
エルフと人間の国交は完全に途絶えた。
人間は首を傾げるばかりだった。
――エルフ達が人間のことを『寿命を減らす病』と呼んでいたと知ることがなかったのは幸運であったのだろうか。




