四十、BAD END
まず一言。生きてます。前回更新よりお時間あきまして大変申し訳ございませんでした。
そしてご注意!
引き続き閲覧に注意が必要な内容となっております。何が問題かといいますと、残酷かと思われます。『乙女ゲームでBADENDは見たくない』タイプのお方は至急お戻りくださいませ。そういう内容です。前話同様苦手な方はいらっしゃると思いますので先に注意喚起させていただきました。 久々の更新にもかかわらず、またも読む人を選ぶ話となってしまい大変申し訳ございません。
ちなみにタイトルはこんなですが、まだ終わりません。次話からはいつもの叔母仕様に戻りますので、よろしければもうしばらくお待ちいただければ幸いです。次話の前には苦手な方のためにも閲覧注意二話分のあらすじを前書きに書かせていただくつもりです。
お話し前に長々と失礼いたしました。それでは耐性のある方はどうぞお進みくださいませ――
薄暗い水路にいた。水は絶えることなく流れ、やがてその先には海が広がる。けれど誰も海へとたどり着くことはできない。
目を凝らせば白い髪を携えた青年がいた。髪と同じく白いシャツが儚げな印象を助長させている。滑らかな髪は細い輪郭に沿うように伸び影を落とす。表情は抜け落ち感情を読み取らせない。彼はただひたすら腕の中で横たわる女性を見つめていた。
「ねえ……」
何度も何度も、彼女へ呼びかける。
「起きてよ」
耳を覆いたくなるほど悲痛な叫びだ。幼子のように頼りない。事実彼は大切な人を探していた。
けれどもう二度と会えないのだと、子どもではないからこそわかってしまう。
「どうして……」
彼女は眠るように瞳を閉ざし続ける。その目元は涙に濡れ、投げ出された腕はピクリとも動かない。胸には赤い花が咲き、二度と彼女が目覚めることはないと語っていた。
身を寄せ合う姿はまるで一つの影のよう。
本来、水路には四人の人間がいる。ただしそのうちの二人は離れた場所に物言わず倒れているため二人きりと表現して差し支えないだろう。それ以上に、寄り添う二人には立ち入ることのできない雰囲気がある。激しい水流さえ静寂に塗り替えてしまうほどに。
大切な人がいた。たとえ世界中の誰を敵に回しても守りたいと思えるほど大切な人が。
一度も忘れたことはなかった。離れてからも後悔ばかりしていた。ようやく触れることが叶ったけれど、夢に見た温もりは感じられなかった。触れた手は熱を失うばかりだ。
数年ぶりの再会は残酷だ。一番近くにいるはずなのに、遠い。
「どうして俺は君のそばを離れてしまったんだろう」
もう一度やり直したいと彼は言う。
どうして欲が生まれた?
すぐに諦めていたら今も彼女は微笑んでいたかもしれない。たとえ隣にいられなくてもよかったじゃないか。あの笑顔を見ることができるのなら、それだけで幸せだったのに。あるいは引き返していたら、結末は違ったかもしれない。
後悔ばかりが押し寄せる。
彼女を抱き上げればシャツが赤く染まる。けれど彼は気にも留めずに抱きしめる力を強くした。もう二度と離さないという誓いのようだった。
数歩進んだ先には彼女を奪った元凶が倒れている。視界に入れることすら不快であるように冷たい眼差しを向けていた。傍らには見覚えのあるナイフが落ちている。
「まだ持っていてくれたんだ」
呟きは嬉しそうなのに、やはり悲しさを感じた。
「でも、君の役には立てなかった……」
ナイフも、そばに倒れている人間にも、まるで興味を示さない。迷いのない足取りで進み始め、最後まで彼が拾うことはなかった。
「疲れたよね?」
視線は彼女へと移る。優しく問いかけようとやはり答えはない。
「君のいない世界に価値はある?」
当たり前でしょう! 貴方何を言っているの!?
なんとなく、彼女ならそう言うだろうと思った。詰め寄って、存分に世界の素晴らしさを語ってみせると。
けれど彼女はもういない。だから過ちを咎める者は――いない。
隠し通路を抜ければ王宮の廊下へ出ることになるが人目を避けるのは彼の得意分野だ。そうでなくとも混乱に揺れる王宮では容易いことだろう。
向かった先は彼女の部屋だ。かつて最後に同じ時を過ごした場所であり……戻ったところで部屋の主は喜ばない。
「お疲れさま」
柔らかなベッドに彼女を横たえ労う。投げ出されていた手を胸元で組ませ、乱れていた髪を梳く。
「頑張ったんだね……」
せめて彼女の眠りが安らかであることを願う。
頬に触れてみたが鮮やかに染まることはなかった。
「ねえ、聞いて」
覗きこむように閉じた瞳に語りかける。
なあに?
どこか遠くで軽やかな声が響いた。
「俺はね、君が本当は寂しがり屋だって知ってるよ。人前では強がっているくせに、一人になると寂しそうな顔をする。そういうところが放っておけないと思った。愛しいと思った」
口にすれば一つ、滴が零れた。それは初めて目にする彼の涙だった。
「一人は寂しいんだよね? だから俺も一緒にいてあげる。でも、少しだけ待っていて。……俺は、君を奪った存在を赦せない」
語られた内容は苛烈だが口調には悲しみが込められている。少しだけ表情を緩め、また彼女へと語りかけた。
「わかってる。君は間違いだって言うよね。だから、俺を赦さなくていいよ」
いっそ怒られたいようにも思えた。けれど怖ろしいほどの静寂だけが見守り続けている。
怒りなのか、哀しみなのか、もうわからない。彼女という存在が消えたことで何かが狂い始めているのだろう。
「誰か、俺を止めてくれる人はいるかな……そうしたら、すぐにでも君のそばに行けるのにね」
まるでそうなることを望んでいるようにも聞こえる。
「ねえ、俺を止めてよ。叱って、怒ってよ……そんな風に大人しくしているなんて君らしくないのに……なんとか言ってよ、ねえ!」
力のない拳を受け止めたベッドが大きく揺れた。けれど彼女が目を開けることはない。永遠に……
その日、エルレンテには終焉が訪れた。
視察に訪れていたアルベリスの皇子が何者かによって殺害され、アルベリス帝国騎士団の強引な介入により戦争が始まった。
混乱に包まれたエルレンテをさらなる悲劇が襲う。王とその弟殿下までもが共に倒れ、一度に統率者を失ったエルレンテに抵抗する術はない。
エルレンテ王族の生き残りはただ一人。アイリーシャ・エルレンテはアルベリスに囚われることになる。罪深い一族の末裔として語り継がれることだろう。
真相を問うたところで幼い王女が語る発言に力はない。しかし一つだけ、彼女は気になることを口にしていた。王女は白い影を見たというのだ。
『君だけは生きてほしい。それが彼女の生きた証だから……』
影はそれだけを告げて消えたそうだ。幼い王女が真意を知る術はない。
アルベリスの騎士たちが王宮へ踏み入ろうとすれば、沈下していたはずの火は再び勢いを増し彼らの侵入を拒んだという。閉ざされた王宮は楽園のようだと、人々の記憶に刻まれた。
視界は黒に染まる。
(これは、何?)
この光景を見せられることが罪だというの?
彼女に安らぎが訪れることはない。彼の引き起こした罪を見つめ、未来永劫己を責め続ける。それだけが彼女に赦された行為だった。
(彼女、彼女は……わたくし……)
やがて訪れる未来を『ローゼス・ブルー』と呼ぶのかもしれない。守りたかったものを守れず、終焉の引き金を引いた愚かな王女の名をローゼリア・エルレンテという。
絵具を零したような黒く四角いキャンパスにはゆっくりと白い文字が浮かんでいく。その無慈悲な演出には見覚えがあった。
BAD END
(――って、こんな展開認めませんからねっ!?)
人が大人しくしていれば好き勝手にもほどがある。激しい憤りを抱けばロゼは目覚めが近いことを悟った。
ロゼの夢(悪夢)であり、もしもの可能性のお話でした。ここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございます。
ここに組み込まなければ永遠に日の目を見ることがないかと思いまして……すみません、入れさせていただきました。
大変ご無沙汰しておりますが、展開が思いつかないですとか書けないといったわけではありませんのでご安心くださいませ。意欲にも燃えています。ちなみに奏白の生存はネットでも確認ができます。たまに呟きます。書籍化についても何か進展がありましたらお知らせしてまいりますね。
そして宣言通り、次はいつもの叔母に戻りますので!
また次の更新でお会いできれば幸いです。




