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三十七、追跡中の一コマ

閲覧ありがとうございます。

本文前にまことに申し訳ありませんが、この場をお借りしてご報告と感謝を告げさせて下さい。

MFブックス&アリアンローズ新人賞 アリアンローズ部門におきまして『主人公の叔母です』が佳作を受賞するという栄誉をいただきました。

つまりですよ……書籍化が決まりました!!

こんな奇跡が叶ったのも、すべては読者の皆様のおかげです。本当に、応援ありがとうございます。


乱入失礼いたしました。それでは本編をお楽しみくださいませ!

「ねえ、貴方の方から浮かない空気ばかり漂ってくるのだけど。まさかまた皇帝になるべきか悩んでいる、なんて言わないわよね?」


「……察しが良いのも困りものだな」


 身内ともいえる相手の裏切りが堪えているのか。少しの沈黙、そして困ったような呟きは肯定の証である。

 けれどラゼットに沈んでいる暇は与えられなかった。


「貴方謙虚なうえに繊細!?」


 すかさずロゼの叱責が飛ぶ。

 すでに呆れは通り越していた。けれど怒りとも違う。ただ自分を、ラゼットという人間を信じてほしいだけなのにもどかしい。

 対して叱責を与えられた者は戸惑っていた。生まれてからこの年まで繊細と評価されたことはない。


「まったく何度同じ展開に持っていくつもりなのかしら。わたくしが主人公ならいい加減にしろと言ってやったわね!」


「あ、ああ……今言ったのはカウントされないのか?」


「何か?」


「いや何も……」


 火に油を注ぐまいと沈黙したラゼットの選択は正しい。


「わたくし貴方という人はもっと自信に溢れていると思っていたの」


「そいつは期待外れで悪かった」


「いいえ。勝手にそうだと決めつけていた、わたくしがいけないの。貴方は、貴方という人だった」


 こんな時、主人公ならどんな言葉をかける?

 温かく包み込んで、たった一言で勇気づけてしまうのだろう。それが主人公が主人公たる圧倒的な存在力だ。


(わたくしには、難しいわね)


 想像して挫けた。ゲームに存在しなかったイベントであれば主人公の不在にロゼは無力だ。知識だけでは乗り越えられないこともある。

 けれど黙っていることはできそうにない。主人公の叔母には、叔母なりの言葉がある。


「常に先頭に立ち、道がなければ強引に切り拓いて行く」


「ん?」


「人の話は聞いているのかいないのかよくわからない。食べられる物がなければ雑草でも石でも頬張る。何度斬りつけられても立ち上がる。それなのに過去にばかり囚われているし、すぐに首がどうこう言い出して……物騒なのよ」


 最後の方はただの文句となっていたが、それこそがロゼの知るラゼットというキャラクターだ。彼ならばこんなところで弱音を吐くことはない。


「その、すまない……」


 またしてもラゼットは戸惑う。おそらく自分のことを言われているのだろう、しかし身に憶えがないのだ。というよりそれは人間なのか疑問に思う。

 けれど再び声をかけることは躊躇われた。ロゼは振り返らず、決して足を止めない。それでいて強烈なまでの瞳に射貫かれている心地がするのだ。


「少しは未来の自分から自信というものを分けてもらって!」


 ラゼットが「未来?」と呟いているが、うっかり零れた本音は無視して続けることにする。


「けれどそれが現在(いま)の貴方なのね。わたくしそんな貴方も好きよ! だからね、貴方も少しは自分のことを好きになってあげて」


 これはロゼの言葉だ。主人公にはなれないけれど、主人公の叔母としての正直な気持ちだった。

 弱音を吐く姿、飾らない態度――人間らしくて好ましいじゃないか。復讐に身を置くよりもずっと良い。そんなラゼットであればエルレンテを亡ぼさないと希望を見出せる。


「あんたは、こんな状況だってのに変わらないな。頼もしすぎる」


 そこにいるのが年下の少女だと忘れそうになるほどに。


「この状況がどうしたというの? 最悪にはほど遠いけれど」


 ロゼの抱く最悪とはエルレンテ滅亡。まだ誰の命も尽きてはおらず、エルレンテも存続しているのだから嘆く必要はないのだ。


「ロゼは俺がいいのか?」


 盗み見たラゼットの表情は迷子の子どものようだ。


(そんなに不安そうな顔をしなくても、貴方が良いと何度言わせるつもりなのかしら)


 何度だって告げよう。認められたいという気持ちはロゼも抱え続けてきたものだから。


 あの日ラゼットは言ってくれた。


『友好を築きたいと思わせる魅力に溢れている。きっとロゼがいるからだな!』


 認めてもらえることがどれほど満たしてくれるのか、ラゼットは教えてくれた。


(そんな貴方だから、わたくしは迷わず助けようと思えた。名前だけを知っていた誰かではなく、ここにいる貴方を助けたいと思えた)


 孤独な道を歩き続けていたロゼにとってその言葉にどれほどの意味があるのか、ラゼットは知らないだろう。


(嬉しかった。わたくしがどれほど救われたか、貴方は知らないでしょう?)


 見捨てるという選択肢は最初からあり得ない。たとえエルレンテの存続と関係のない事件だったとしてもロゼの行動は変わらなかった。だからこそ力になりたいと思うのだ。


(わたくしも貴方の力になれたなら――)


 ここにはいない主人公の分まで伝えよう。


「自信が持てないというのなら何度だって言うわ。貴方がいい。貴方でなければいけないの。わたくしは貴方の治める国と同盟を築く予定だったと記憶しているけれど?」


「そう、だったな……」


「わたくしが望むだけではいけない、足りない? 自信を持ってはくれないの? やっぱり主人公でなければ嫌なのかしら? ここにはわたくししかいないのだから贅沢言わないでちょうだい。いい加減にしないとわたくしだって手が滑ってしまうこともあるのよ」


 織り交ぜたのはロゼなりの激励だ。心なしか時計を握る力が強くなったように感じてラゼットは身震いする。


「それは、怖いな」


 表情は抜け落ち、真顔の呟きである。


「怖いのなら!」


「無事帰国した暁には次期皇帝から同盟を申し込ませてもらおう」


 それは覚悟と、未来への約束だった。


「必ず認めさせる」


 きっと自信に満ち溢れた表情を浮かべているのだろう。ロゼが知っていた、あのラゼットがそこにいるのだろう。

 けれどロゼは振り返りたい衝動を堪えた。

 ラゼットに甘えるばかりではいけない。ただ同盟を結ぶだけではアルベリスでの反発を生むだろう。また大臣のような輩に利用されることも考えられる。

 同じことを繰り返すつもりはない。エルレンテをアルベリスにとっての都合の良い道具にしてはいけないのだ。


「そのためにもわたくしはエルレンテを、誰からも認めてもらえるよう努力するわ」


 だからこそ、ここで振り返るのは贅沢だと思った。


「あんたは頑張りすぎだろ」


「足りないわ。ぜんぜん……」


 先の見えない物語は終わらない。ロゼブルという運命はどこまでも続いている。いつまで頑張ればいいのか、どこまで行けばいいのかもわからない。何度も挫けそうになったけれど、その度に立ち上がれたのは希望が存在しているからだ。


「心配しなくても大丈夫よ。わたくしまだ頑張れるもの! リーシャがいて、守るべき約束がある限り、走り続けると誓ったわ」


 心配することはないとラゼットに笑みを見せた。

 迷うたびに大切な人たちの笑顔が浮かんだ。足掻き続けろと励ましてくれる。もちろんその中にはラゼットの名も加わっていた――のだけれど。


「約束ってのは恋人との約束か?」


「はあっ!?」


 声は無様に裏返り、誰がどう見ても狼狽えている。無意識のうちに足まで止まっていた。


「悪かった、俺が悪かったからそう睨むな! けどな、こちらも言わせてもらうのなら、切なげな空気を漂わせていたあんたが悪い。それにその顔って……」


 至急追跡を再開させたけれど、気まずい。


「な、わ、わたくしが何!? 顔? 顔に何か文句でもあるのかしら!?」


「だから、そいつのことが大切で仕方がないっ――」


「そうよ大切な人との約束なのよ!」


 嘘は吐いていない。決して、誓って、嘘ではない。


「大切な人、大切な人ねえ……」


 しかし納得していない様子だ。ラゼットはしきりに『大切な人』という部分を刺激してくる。


「恋人じゃなくて?」


 質問がロゼを襲った。

 何故このような話に発展したのか、繊細と評した仕返しなのだろうか。居心地が悪くなるばかりだ。十七歳、年頃とはいえ恋の話には慣れてはいない。観光案内ならどんな質問にも答えてみせるのに、この手の話題は苦手だ。


「違うわね。大切な人よ、本当に……仮に、本当に仮にだけれど! 恋をしたとしても、わたくしではとても釣り合わない人……」


 耳朶を擽る静かな声音、羨みそうなほどに白い肌、風に揺れる透明な髪――どれだけ時が経とうと鮮明に思い出せる。

 けれど彼は、ロゼがいくら手を伸ばしたところで届かない、遠い存在だ。

閲覧ありがとうございました。

長くなっては申し訳ないので、詳しくは活動報告に綴らせていただきました。『奏白いずも』の名でツイッターも始めておりますので、今後はこちらにてよりタイムリーに更新情報などをお届けできればと思います。


これからも更新頑張ってまいりますので、ロゼたちを見守ていただければ幸いです。

読んで下さったすべての皆様に感謝を込めて――

本当にありがとうございます!! これからも精一杯頑張ります!!

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