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二十九、姪は心の癒し

一日に何度もお騒がせして申し訳ありません!

前回の続きとなりますので、少しでも早くお届けしたいと思い……よろしければ閲覧くださいますと幸いです。


たくさんの閲覧、本当にありがとうござます! そしてアイリーシャファンの皆様、お待たせ致しました!

「それは……」


 ラゼットは本心から驚いているようだ。


「そう、貴方の目には触れてもいなかったのね」


(どこの誰かしら、アルベリスに嫁入り作戦を妨害してくれたのは)


 けれどロゼは残念がるよりもどこかホッとしていることに気付く。


「ロゼ、知らなかったとはいえ申し訳ないことをした。それで妻になれというのは、俺は最低だな……」


「ラゼットが謝ることじゃないわ。わたくし嬉しかったもの」


「肖像画を送り返されて?」


「そこじゃなくて。ラゼットに拒絶されていたわけじゃないと知れてよ。貴方のこと酷い人だと思いたくないから」


「なんだ驚かされた。てっきり今好きな奴がいるから婚姻が成立していなくて良かったって話かと思ったよ」


(好きな人ね……)


「ん、どうした? さては思い当たる相手でも――」


 言葉を詰まらせたロゼにラゼットは目敏かった。そんなつもりはなかったけれど、無意識のうちに考え込んでいた。


「いいえ、わたくしにそんな人はいません。その証拠に、ラゼットの申し出は観光大使としての引き抜きなら光栄なこと。そして貴方の誘いを求婚と捉えるのなら、わたくしの返事は最初から決まっているもの。喜んで受けます」


「受けるのか!?」


「もちろん」


 本当は十一年前に訊きたかったけれど。

 だってここには彼女がいるのだ。


「アルベリス帝国有力者行きの切符なら喜んで、というのがわたくしの信条です。ただしその前に条件が。まずはアイリーシャ王女殿下に会うことを強く要請するわ!」


 どこまでいってもロゼは主人公の叔母である。


「アイリーシャというのは、現国王の一人娘アイリーシャ・エルレンテのことだよな?」


「そうよ。わたくしの可愛い姪アイリーシャ! すべてはそれからでも遅くない。その後いくら心変わりしようが、もう一度よく考え直されようが文句は言いません」


「何故だ? 会ったこともない相手だが」


「だから会ってほしいのよ! 貴方の、運命かもしれないでしょう」


 ノアのことは紹介できないまま終わってしまったけれど、ラゼットこそは同じ道を辿ってはいけない。攻略対象がエルレンテにいるのなら、引き合わせるのも脇役ロゼの仕事だ。


(わたくしはリーシャの良き叔母であろうと決めた。もう昔とは違うのよ。はいそうですかと喜んで嫁げるわけがないの!)


「こう、運命の人かも的な胸の高鳴りを感じたのなら、わたくしすっぱり先ほどの言葉はなかったことにするつもりよ。会われます? 会いたい、やっぱり会いたいわよね? というかわたくしが会いたい!」


 もう何日アイリーシャと会っていなかっただろう……。脳裏にその姿が浮かぶのは禁断症状かもしれない。


「アイリーシャ王女殿下は本当に可愛いの! 今は十一歳なのだけど、金色の髪を長く伸ばしていて、まるで糸のように美しい手触りなのよ。瞳もぱっちりとしていて、呼びかければ花が綻ぶように笑いかけてくれて――いいえ、大輪のバラでも可憐なフリージアでも敵いっこないでしょうね。わたくしの自慢の姪ですもの!」


「いや、わけが……済まない。何故急に姪自慢が始まったんだ?」


「知りたいかと思いまして。だって知らなければ不公平でしょう?」


 公式ではなかったにしろ、主人公アイリーシャをさしおいて妻の席を用意すると言われてしまったわけで……良心が痛む。


(こんなのわたくしが悪女みたいじゃない。リーシャに申し訳なさすぎる!)


 王道ヒロインにして主人公はアイリーシャ・エルレンテであるべきなのだ。彼女の容姿は愛されるために産まれてきた主人公。ラゼットだってアイリーシャに一目会えば好きになってしまうかもしれない。


(その時は何も聞かなかったことにしてあげるのが大人の優しさというものね)


「ラゼットが帰国する前に席を設けるわ。そうだ、もういっそ明日――明日なんてどうかしら!?」


「明日? 俺は構わないが」


「良かった。だからね、明日もう一度良く考えてみてほしいの。先ほどの話はそれまで保留とします!」


 アルベリスに嫁いで内情を探りたい気持ちは今でもあるけれど、相手がラゼット・アルベリスというのなら話は別だ。ラゼットの運命を変えられるとしたら、それはやはり主人公なのかもしれない。


「あんたは……自分のことよりも姪やエルレンテの話をしている時の方が輝いているな」


「そうかしら」


「ああそうだ。俺が口説いた時よりも嬉しそうだ。の輝きも違う」


「そ、そうかしら?」


 そっと視線を逸らす。思い当たり過ぎるので反論し辛かった。


「あんた自分のことは殆ど話さないよな」


「わたくしの話なんて訊いたところで面白味もないでしょう。平凡な女ですもの」


「平凡な女性はこんなことを思いつかないだろうに……。あんたいったいどこでこれほどの手腕を身につけたんだ?」


 必要な知識や教養は家庭教師から学んだ。足りない分野は書庫で補った。けれど彼が訊きたいのはそういう学びではないはずだ。


「まあその、だいたい独学、のようなものかしら」


 だいたいが前世の知識の運用である。

 時代は違えど人の心は同じようなものだ。何に感動して何に喜ぶのか、それらを少しずつこの時代へと当てはめていっただけのこと。種を明かしてしまえばそう褒められるようなことでもない。


「それに女性にしては演説にも慣れている。普通は男相手に臆するものだが、それも身分ゆえの教養なのか?」


 プレゼンテーションの方法なら学校の授業で習った。その時にかじった手法を用いているだけで専門家でもなんでもない。


「そ、そんなに褒めても企業秘密は教えられないわよ!」


 追及を怖れてロゼは逃げた。


「ははっ、手厳しいな。あの美味いサンドイッチのレシピを聞き出したかったが残念だ」


 ラゼットはノリもよく脱線に付き合ってくれた。


「気に入ってもらえたのならアルベリスの皇子も認めた美味しさだと宣伝に使わせてほしいのだけど」


 そしてロゼはしっかりと観光大使の役目を果たす。


「逞しい奴だな!? 構わないが、アルベリスの皇子じゃなく俺個人の名にしてくれよ。弟たちと混同されては困る。エルレンテの味を認めたのは俺が最初だ!」


「ええ、しっかりラゼット殿下愛用と書き添えておくわ」


(いいえ。いずれ皇帝陛下も認めた味になるのかもしれない。だってわたくしは――)


「わたくし貴方が治める国を見てみたい」


 その気持ちは当然のように言葉となって零れていた。彼が即位すれば戦争が起こることはないと信じたい。アルベリスの歴史を変えることが出来たのならエルレンテの運命も変わるのだろうか。


「ん? おかしなことを言うな。最初から見せてやるつもりだぞ」


「そうね!」


 脇役と攻略対象では格が違うだろうに。そしてこれはとても一歩的な関係だ。けれどロゼにとってラゼットは――


「互いに運命を変えられるよう、足掻きましょう」


 戦友となった。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



 王宮へと戻ってすぐにロゼはアイリーシャの元へ向かう。急遽開催になったお茶会に招待するためだ。

 今日の提案で明日開催なんて計画がなっていないにも程があるだろう。招待状の一つも持参していないなんて貴族の、それも王族のお茶会にあるまじきことだ。けれど早く、一刻も早くというのがロゼの願いだった。


 訪問の約束もなしに訪れた叔母をアイリーシャは心から歓迎してくれる。


「ロゼお姉様!? 最近はお忙しいとお聞きしましたが、大丈夫なのですか?」


 それも一番にロゼの心配をしてくれたのだ。これで感動しないわけがない!


「貴女と共にいるための時間ならなんとしてでも確保します」


「嬉しいです! でも、無理はしないでくださいね? なんだかお顔が疲れておいでです」


「え、そ、そう? わたくし、疲れて見えるかしら?」


(まさか隈でもある!?)


 淑女としてあるまじきことだ。


「わかりました。ではリーシャが癒して差し上げます! えいっ!」


 背伸びをしたアイリーシャが腰に腕を回し抱き着いているという状態だ。


「リーシャ?」


「こうすると疲れが取れるって、お父様が!」


「レオお兄様……」


 だいぶ親馬鹿な兄だった。けれどこの愛らしさを前にしては非難することは出来そうにない。そういうロゼも強張っていた疲れが取れているように感じる。


「ありがとう、リーシャ。本当に貴女は優しくて――」


(理想的な主人公。きっと誰もが貴女を好きになる。そういうわたくしもだけれど!)


 ロゼも姪の体に腕を回す。アイリーシャファンはここにもいた。それも重症だ。


「実はね、今アルベリスからラゼット殿下が訪問されているの」


「アルベリスから!? それはすごいお客様ですね!」


 アイリーシャも両国の関係は頭に入っているのだろう。幼くても彼女はこの国の王となることを前提に育てられているのだから当然だ。


「せっかくの機会よ、貴女も一度会ってみない?」


「私が、良いのでしょうか!?」


「もちろんよ。実はね、わたくしは明日殿下と個人的にお茶会の約束をしているの。堅苦しい催しではないし、ラゼット殿下の許可も取っているわ。殿下とリーシャ、わたくしの三人でお茶会をしましょう」


 もとより余計な邪魔を入れるつもりはない。その筆頭が過保護なレオナールなので同席はもちろん却下。


「はい! 私、楽しみです」


 無邪気な笑顔がロゼに向けられている。腕の中から上目使いで見上げてくるのだ。破壊力は抜群である。


(この笑顔が誰かのものになってしまうのは寂しいけれど、わたくは貴女の幸せが一番なのだから)


「ええ、きっと楽しいわ」


 だからアイリーシャが喜んでくれるように、二人の出会いが素晴らしいものとなるように、企画実行するのがロゼの役目である。

本編はここで一区切りとなります。そのため少々長くなりましたが、ここまでのお付き合いありがとうございました。

次回より運命のお茶会に向けて動き出しますので、また次の更新でお会い出来れば幸いです。

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