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二十五、交渉

【追記】20:36分頃、少しだけ後半の表現及び台詞を変えさせていただきました。展開としては大きな変化はございません。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。

急な晩餐会を終えたロゼは……というお話です。皇子とのやり取りをお楽しみいただければと思います。

たくさんの閲覧、本当にありがとうございます。心の励みです!

 レオナールの追及から逃れたロゼはラゼットを訪ねていた。

 緊張の連続に耐えかねてうっかりアイリーシャの元へ駆け込みたくなったけれど、間違いなくラゼットの部屋だ。現状ロゼに平穏と癒しを与えてくれるのは姪だけである。だからこそロゼも彼女が大好きでたまらない。


「ラゼット殿下、明日の予定について確認してもよろしいですか?」


 伺いを立てればラゼットは快く歓迎してくれた。しかし本題へと入る前に「ところで」と固い声で告げられる。


「晩餐の席ではあんたの立場を考えて黙っていたが、呼び名に口調も戻っているぞ」


「改めて互いの立場がはっきりしたところです。この辺りで白紙撤回が妥当かと」


「あんた明日は会議だそうだな」


 流された上に『貴女』ではなく『あんた』である。この気安い関係はまだ続くようだ。


「……ラゼットが! 訪問するのは三日後だと訊いていたから、予定を入れてしまったの」


「構わないさ。その代わり俺も同席することは可能か?」


「会議に!?」


「もちろん」


「面白いことなんてないわよ!?」


 ロゼとしては会議の時間をずらすか、別の日にと考えていたところだ。


「第一歩いて城下まで行くのは大変なのよ。どうぞ王宮でゆっくり旅の疲れを癒していて」


「いつもあんたがしていることだろ。男の体力を見くびるな」


 見くびるなんてとんでもない。貴方の生命力と体力の凄まじさは身に染みています。ゲームでの復讐への執念でと、ロゼはいっそ叫びたかった。

 ならば別の理由を……


「ベルローズのご飯は皇子様の口には合わないと思います! さてはもうアルベリスが恋しくなっているわね? 今ならわたくしが観光大使の名誉にかけて早急に最高級の帰国チケットを手配してみせる。任せて!」


「その手腕は拝見させてもらいたいところだが、マルクスという人間が経営している宿の食事は美味かった。あんたが振る舞ってくれたスープもな。アルベリスでもそうは味わえない」


(くっ――、なんてああ言えばこういう人! わたくしの心遣いを察しなさい!)


「仕方ない、そうまでして拒絶されるのであれば……こっそりついていくか」


「それだけは止めて!」


 恐るべき条件反射で反論していた。


「だから、その……ラゼットに何かあったらどうするの!? エルレンテは平和な国だけれど、もしもということは十分にあり得るから!」


 これだけやんわりと断ってもラゼットはめげない。ロゼが挫けそうだ。もっと帝国第一皇子という立場を大事にしてほしい。


(もう直球、直球しか残されていない!?)


「あんた、そんなに俺を帰らせたいのか?」


 急に寂しげな声音を使うのは反則だ。ロゼが悪者のような気分にさせられる。


「そ、そんなつもりではなくて……わたくしはただ……ラゼットが心配なのよ」


「ロゼ……。そこまで真剣に俺のことを考えて?」


「当然よ。貴方は大切なお客様ですもの」


「お客様、ね……」


 ラゼットは苦い笑いに耐えていた。

 やがて諦めたように息を吐く。


「そう心配しなくても、本来の滞在予定日――少なくともあと一日二日で俺の不在を嗅ぎ付けた有能な奴らが追ってくるさ。騎士団長辺りが怖い顔をしていそうだな。……目に浮かぶ」


「最強と謳われるアルベリスの騎士団長様ね。それは怖そう」


 これで少しは反省してもらえればと思うけれど、ロゼは怖いだけではないことを知っている。彼の名前も最初に確認したことを憶えていた。

 ロゼブル攻略対象の一人ことロクス・ヴィクトワール。ラゼットにとっては年下に当たる彼だが実力は保証済みだ。ヴィクトワール家は代々騎士を輩出する武に秀でた名家である。そして彼は若くして実力だけで騎士団長へと成り上がった。帝国の歴史上最年少騎士団長にして、誰もが認めるあのアルベリスの騎士だ。


(確かゲームでは……ラゼットとロクスは親交があったと描かれていた。追放される前は比較的親しかったということ? 苦い顔をしてはいるけれど頼りにしているということかしら。本編前にはわたくしの知らないことがたくさんあるのね)


 人と人との出会い、会話、想いはゲームの中だけでは語りきれない。ここに広がっているのはロゼが知っているようで知らない世界だ。

 それならばとロゼは悩む。アルベリスからの優秀な護衛を待って帰国してもらったほうが安全なのかもしれない。


(もう悪い方にばかり考えるのは止めましょう。いっそ良い機会と捉えるべきなのかしら。アルベリスとの親睦を深められるなんて、エルレンテには二度巡って来るかわからない奇跡なのよ)


 ロゼとしては『アルベリス? 滅亡原因なので極力かかわりたくないです!』とうのが心情だが、世界の情勢は違う。国家間では大国アルベリスとの繋がりを求めて躍起になっている。

 現在エルレンテにはアルベリスとの繋がりはこれといってない。分かり易くいうのなら、身の程を弁えろとお見合い写真は即日送り返され、皇子の誕生祝いや祭典に声がかかることもない。ただの領土が隣り合っているだけのお隣さんである。


「……わかりました。腹を割って話しましょうか」


「お、目つきが変わったな」


「ここにいるわたくしは王女ローゼリアではなく一介の観光大使ロゼとして、エルレンテにやってきた観光客であるただのラゼットに向けて話している。それでも構わない?」


「いいぜ。ただのラゼットの名に懸けてな」


 これからどんな話題が飛び交おうと国家間の問題にはならないという最低限の保険である。


「貴方は何故エルレンテに来たの」


「俺の国にもエルレンテが変わったという噂は届いている。それをこの目で確かめに来た」


「失礼なことを言うけれど、それを理解しろというのは難しいのよ。エルレンテのような取るに足らない国の観光発展なんて貴方には関係ないことでしょう?」


「ああ、そうだろうな。実際俺の国でもそうだった。けど……」


 ラゼットは懐かしむような眼差しを浮かべていた。


「わたくしが知りたいのは上部だけの理由ではありません。許されるのなら、きちんと知っておきたいの」


 ラゼットの目論見をだ。


「……あそこは息が苦しかった。もちろん皇帝になるためには必要なことだろう。だがどうにもな……そんな生活を続けていたら、エルレンテの楽しげな話を耳にするようになった。気にならないわけがない」


(つまり……わたくしがエルレンテを観光地として発展させたばかりにラゼットを呼び寄せてしまったと? 結局わたくしが悪かったと!?)


 もしもなんて誰にもわからない。もしかしたらロゼが行動を起こさなくてもラゼットが訪問することはあったのかもしれない。それがロゼブルの始まりへと繋がるのかもしれない。すべてがもしも、もしもの話だ。

 だからこそ、この場においてはロゼの推測したもしもが当てはまってしまう。そこからはひたすら心の中でアイリーシャに謝罪を繰り返していた。


「まさかエルレンテを変えたのが病弱と噂の姫とは思わなかったけどな。……ん? あんたが病弱っていうのは嘘か?」


「黙秘します」


「そうかい」


 ラゼットはあっさりと引き下がってくれた。そして怖ろしくあっさりと大変な暴露をしてくれる。


「……俺が悩んでいたら、例の騎士団長殿がエルレンテ訪問の後押しをくれたんだ。本人にはその気はなかったかもしれないが」


(余計なことをしてくれたのは攻略対象の一人様ですかっ!)


 どうあってもエルレンテに亡びてほしいのか。けれどロクスが無自覚でやらかしてしまったのなら仕方のないことだ。誰にでも悪気はなかったということはある。ロゼが身をもって体験してきたように……。

 だとしたら彼は今頃、皇子が消えて頭を抱えているのかもしれない。あるいはロゼのように胃を締め付けられているのかもしれない。そんな姿を想像しては少なからず同情を覚えた。

 かといって大人しく亡びを待つロゼではないけれど。


(下手に動いて何かあってもエルレンテ責任。だとしたらアルベリスの方に護衛を任せた方が安心ね。それまではわたくしたちでラゼットを守って……なら一緒に行動していたほうが? いえでもまた無礼を働く可能性も……)


 一人今後の対策会議に忙しいロゼである。


「わかりました。制約をもらえるなら同行を許可します」


「制約?」


「街でどんなことが起ころうと貴方はただのラゼット。それが原因でアルベリスとエルレンテが戦争をすることはないと誓って、ここにサインをお願い」


 ロゼはいつも持ち歩いている本を広げた。真っ白なページが広がっている。


「あ、待って立会人を呼ばせて。それから二枚お願いね。一枚はわたくしが所持するけれど、もう一枚は王宮に厳重に保管させてほしいの」


 ラゼットはそんなことでいいのかと驚いていたけれど、ロゼにとっては最低限の対策だ。


 丁寧な文字でサインがなされた誓約書は重い。あるいはラゼットファンにとっては宝物となることだろう。直筆サインである。

観光大使の仕事は尽きません。

そして二十五話目にして三人目の攻略対象が名前のみですが登場されました。

ロクス・ヴィクトワール様です。ゲームでは強くて有名なアルベリス帝国において、その代名詞ともいえる騎士団の団長を若くして勤めています。彼の登場は今後を見守っていただければ幸いです。出番はちゃんとありますよ!


それではここまでの閲覧ありがとうございます。よければまた付き合ってやってくださいませ!

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