【番外編】2豊穣の祭り~いざテコ入れ
前回の、色々あったミスコンの続きとなりますが。思った以上にロゼが立ち回りまして……長いです!
本当にお時間ある時にでも気軽に読んでいただければと思いますので!
感想ありがとうございました。大切に読ませていただき返信しております。
開始早々、ロゼは大きな疑問を抱いていた。
ロゼたちは今、大きな石の上に立っている。時間になったとたん、この上に乗るように指示されたのだが。
(どうしてわたくしたちは石の上に……ま、まさか、これが舞台だとでも!?)
いやいや、まさかそんな……だとしたら震撼する。震える。
普通に地面に置かれたちょっと大きな石である。不安定なので長時間上に立っていれば疲れてしまいそうだ。ちなみに他の出場者に至っては立つ素振りもなく最初からイスにしている。
(そもそもこの観客の少なさでどう勝敗をつけると!?)
観客の数は数えられる程度だと思ってほしい。
(審査員は……ダメね。いるのかいないのかよくわからない!)
疑問は尽きない。
するとやってきたのは受付をしていた青年だ。
「お待たせしました。これより『女性が美しさを競いあう大会』を始めたいと思います」
受付もこなし司会進行もこなすとは多忙だ。彼に丸投げされているのではとも推測される。
「えー、それでは優勝は――」
(は?)
すでに優勝者は決まっているような物言いである。現在、まだ開始一分と経っていない。
「ちょっと待って!」
たまらず叫んでしまった。黙っているのは限界だった。
司会と、そしてまばらな観客から注目が集まる。その中にはオディールからの心配そうなものも含まれていた。
「どうかした?」
「いえ、せめて……わたくしせめて共に戦った盟友の名前と特技くらいは訊いておきたいと思いまして!」
「え、そう? そんなことが知りたいの?」
逆にそれすらもなしに何をもって勝敗を付けるつもりでいたと? 独断と偏見なのか、そうなのか。
「そっか! 僕らにしたらみんな顔見知りなんだけど、君はベルローズに来て日が浅いみたいだからね。えっと、みなさんどうでしょう?」
率先して拍手をくれたのはオディールだ。他にさしてすることもないだろうと、ロゼの要求はあっさり通った。
「じゃあ、一番右の人からいいですか? お願いします」
おそらく最年長者と見受けられる女性からのアピールタイム(?)が始まった。
「あたしゃジジってんだ。得意なのは……値切りかねえ」
会場から囁かな笑いが起こる。
続いて二人目のマルトの特技は料理だそうだ。三人目が終われば四人目とそんな状態が続き、いよいよロゼの番である。
まずは裾をつまんでお辞儀する。着ているものは簡易なワンピースだが、ドレスを着た姫君のように映っただろう。
「みなさん、初めまして。わたくしはロゼ。ドーラさんの妹の息子の娘の叔母の娘の友人で、ベルローズには出稼ぎに来ています」
ドーラの名を出せばここでも「へえ、ドーラんとこの」という声が聞こえる。
「特技は――」
観客の間を割って前に出たのはオディールだ。
ちなみに観客席にはイスなんてものはない。出場者が石の上に立っているくらいなので普通に立っている。出場者と観客の違いは、そこに石があるかないかという悲しいものだ。
オディールは抱えていたものを両手で包み上げ、ロゼが受け取りやすいであろう位置まで差し出す。
「ありがとう」
まるで神聖な儀式のようだ。オディールのかつての仕事もロゼの身分も、彼女たちは完璧な振る舞いを要求される世界で生きていた。どんな仕草一つだろうと絵になってしまう。
ただしその手にあるのは木の棒だ。先ほどロゼが「あらこれちょうど良いわね」と言いながら拾ったものである。
無事届け物に成功し、オディールは客席へと戻っていった。
「説明するより見てもらえるかしら。それとあれを借してほしいのだけれど。もちろん壊したり傷つけた場合は弁償しますから」
ロゼが指差したのは観客たちの背後に置かれている優勝賞品、カボチャの山である。
一番上のカボチャを借りるとロゼは頭上へ放り投げた。
観客は息を呑む。そのカボチャはもうだめだ! そう思われたのだろう。潰れたカボチャを想像して目を閉じる者もいた。
けれどいつまで経っても無残な音は聞こえてこない。
ロゼは笑顔だった。カボチャも潰れていない。視線を揺らすことなく観客へ特技を披露していた。
不安定な足場をもろともせず、手にした木の棒で空を斬る。その度に棒の上でかろうじてバランスを保っていたカボチャが揺れた。転がり落ちそうになれば棒を自在に操りさばいていく。
重さをもろともしない剣さばき――もとい棒さばきで地面に落ちることなくカボチャは棒の上に君臨し続けていた。もちろん傷一つない。
ただの木の棒が研ぎ澄まされた剣のようだ。ある者はしきりに目を擦っている。
観客も司会も、出場者でさえロゼの演技に夢中になっていた。けれどロゼだけはその後ろへと視線を向けている。だからこそいち早く異変に気付いていた。
観客たちのさらに後ろ、カボチャの前で不自然に動く人物を見定めた。彼の手がカボチャへと伸びている。
(まさかカボチャ泥棒!?)
とっさに空いていた手でナイフを投げ威嚇していた。それは見事カボチャへと突き刺さる。
せっかく魅入ってくれたのだ、いきなり演技を中断するのは忍びなかった。犯人も観客も、あまりの早業に何が起こったのか判断しきれていない。
「そこで何をしているの」
片手で器用にカボチャを掴めば演技が止まる。誘導されるように視線が背後へと集まっていた。
「え、あ……」
注目を浴びて焦ったのか混乱したのか、犯人はカボチャを持って逃走した。
「ちょ――」
カボチャにはナイフが刺さったままだ。
「それはわたくしのっ――」
初めてもらったプレゼントは彼がエルレンテに、ロゼの傍にいてくれたという唯一の証。ロゼにとっては金貨や宝石にも勝る価値がある。
「絶対取り返す」
演目に使ったカボチャは隣の人に預けたような気がする。言いながら駆け出していたのであまり詳しくは憶えていない。
~☆~★~☆~★~☆~★~☆~
先行するのは中年の男性だ。それを必死の形相で追いかける少女という不思議な光景に注目が集まっていた。
犯人は足をもつれさせ、早くも体力尽きかけているようだ。
(こんなところで成果が発揮されるなんて鍛えておくものね!)
全力疾走にはカボチャが邪魔なのだろう。そして速さも持久力もロゼが上手だ。
「止まりなさい!」
背後に鬼気迫るものを感じたのだろう。犯人が振り返れば――少女が高らかに棒を振り上げている。
「ひ、ひいいぃっ!」
鬼気迫るロゼの迫力に腰が抜けたのか。そして身代わりのようにカボチャを突き出した。
(な、ちょっと――!?)
ロゼは本気で振りかぶっていた。もちろん寸止めにするつもりでいた。
とはいえいきなり間合いへとカボチャを差し出されては止まるものも止まれない。
鈍い音がした。
カボチャはぱっかりと犯人の手の中で割れていた。元々ナイフが上手い具合に刺さっていた。割れ目が響いていたのだろう、そこをロゼの一撃が襲ったというわけだ。
けれど犯人は一歩間違えば割れていたのは……と青ざめている。
見物人にしてもロゼが木の棒でカボチャを一刀両断したとしか思えないだろう。
「良かった……」
ロゼもその場にへたり込む。犯人は完全に萎縮しているのでもう逃げることはないだろう。
「わ、悪かったよ! ほんの出来心で……」
「わたくしもいきなり、ごめんなさい。大人げなかったと反省しているわ。でもね、盗みはいけないことよ」
「……ああ」
「誰かの大切なものを奪うのだから悲しみしか生まれない。そしてこれはわたくしにとってとても大切なもので……どんな物にも変えられないの。だから返してもらうわ」
――え、カボチャが!?
この子どんだけカボチャ好きなの!?
大変な誤解が生まれているけれどロゼに訂正している余裕はなかった。たった今、手元に戻ってきたばかりの宝物に集中していたからだ。
「良かった……わたくし、失ってしまったらどうしようかと――」
あくまでもノアから贈られたナイフの話である。けれど周囲から見れば、そこにはカボチャ取り戻したことに歓喜する少女がた。
~☆~★~☆~★~☆~★~☆~
その後犯人は「あの時は死を覚悟した。一度死んだ身だ、これからは生まれ変わったつもりで生き直す。盗みなんて真似は二度としない」と、そう誓ってくれた。
勢い余って飛び出してしまった大会についてだが、ロゼの優勝ということで意見は一致していた。
ロゼが叩き割ったカボチャを含め優勝賞品はその場で調理されることになった。一つはオディールに握らせたけれど、他はカボチャスープとして街の人たちに振る舞ってほしいというのがロゼの望みだ。料理が得意だというマルトの指揮によって大量のスープが作り出されていく。
広場には大きな鍋が運び込まれ、誰にでも分け隔てなく配られた。
「ほら、あんたカボチャ大好きなんだろ! たくさんお食べね」
(なんて温かな心遣いかしら……食べても食べても黄色い液体が減らないわね!)
完食しているはずなのに黄色い液体とお別れできない。カボチャは好きだけれど限度というものがある。
広場ではこれを食べれば美人になれるだの強くなれるだの、様々な噂が飛び交っていた。何度か優勝おめでとうと労われたけれど、ミスコンというよりも一発芸大会で優勝した気分である。
続いて開催される予定となっていた『男性が力を競いあう大会』には街での騒ぎもあり多くの人が足を運んでくれた。ロゼも本日の功労者として特別に参加を許されている。話題が話題を呼び、今や広場にはたくさんの観客で溢れていた。
しかし――
「あの、出場者が見当たらないのだけど……」
ものすごい既視感、数時間前にもこんなことがあった。それすらも騒ぎのせいで遠い昔のことのようだ。
「いやー……お嬢さんが出場するって聞いたらみんな逃げちゃって。なんか、カボチャと同じ運命は辿りたくないとかで……」
何もしていないのに客席からは口笛や拍手が飛んでいる。
「よっ、嬢ちゃん凄いねー!」
作り笑顔を貼り付けて、手を振るだけで精一杯だった。
「ちなみに優勝賞品は……」
「もちろんカボチャ五個だよ! 良かったね、君カボチャ好きなんでしょ!」
(……オディールにもう一つ握らせるとして、他もスープとして振る舞ってもらうことにしましょう)
贅沢な悩みではあるけれど、カボチャはもう食べ飽きた。
ところがこれ以降、ロゼのあだ名は髪色もあいまって『カボチャ姫』である。行く先々ではカボチャ味の料理やお菓子を振る舞われたのはいうまでもない。
そして男性が力を競いあうはずの大会は、いつしか誰がロゼを倒せるかという戦いに姿を変え、翌年からは盛り上がりをみせることとなる。
ベルローズの街には一体感が生まれ始めていた。
これにてミスコン編は完結となります。
ロゼは隠したがっておりますがそうはいきません。皆様に無事お届けすることができて何よりです。
ごめんロゼ……これも立派な活躍の一部なのできちんと伝えたかったんです。
ここまで閲覧ありがとうございました。それではまた、次回の更新でお会い出来れば幸いです!




