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【番外編】1豊穣の祭り~衝撃のミスコン

番外編となります。ロゼいわく、色々あった『女性が美しさを競いあう大会』の話です。

本編を楽しみにしてくださっている皆様、番外編で申し訳ありません! しばしお付き合いいただければ幸いです。

ロゼは詳細を語りたくないようですが、これも観光大使としての立派な軌跡の一部なので、お時間ある時にでもお付き合いくださればと思います。

 ローゼリア・エルレンテ十三歳は現在困難に直面していた。


「オディール。確認したいのだけど」


 エルレンテは温かな気候に恵まれているはずが、頬を撫でる風は冷たい。ただならぬ気配を察してオディールは背筋を伸ばす。


「わたくしは貴女に訊きました。ベルローズで開催される祭りや祭典があれば教えてほしい。美しさや芸術、知力や武力などを競う大会であれば尚可……と」


「は、はい! そして私は――作物が豊かに実ることを願って開催される豊穣の祭りがあります。そこで毎年『女性が美しさを競いあう大会』と『男性が力を競いあう大会』が行われているそうですと、そうお答えしました。情報提供は旦那様とドーラ様です」

 

 粛々と答えるのみである。


「……実際には貴女も体験したことはない?」


「はい」


 非常に申し訳なさそうに縮こまっている。そう、オディールは何も間違ってはいないのだ。


「ごめんなさい。確認を怠ったわたくしの責任だわ」


「あの、何かまずかったでしょうか?」


 ロゼはにっこりと微笑んだ。


「まずいも何も……わたくしの知っている大会ミスコンと違い過ぎるのよ!」


 現状を説明しよう。

 ロゼはめでたく出産を終えたオディールの案内でベルローズの街を訪れていた。そして彼女の紹介で件の『女性が美しさを競いあう大会』に出場しようとしていた。訊けば出場年齢は設けられていないそうだ。

 オディールから説明を受けた時、これだと直感した。前世でも観光大使には著名人やミスコンの受賞者が多かったと記憶している。まず顔を売れということだ。


 この日のためにロゼは準備してきた。

 入念に体を磨き、髪の手入れをした。街で暮らす少女にしては派手すぎないよう、かといって参加者たちに見劣りしないように、ロゼは己を磨いてきた。過度なアクセサリーに頼らずともロゼの美しさは母親が証明してくれる。

 美しさを競うのだから眼鏡は外していた。けれど髪色は最近手に入れたばかりの染め粉を存分に使い、黒と見紛うほどの深い色へ変えている。そう、準備は万端に整えていた。


 ところが――


「本当にこれから大会が決行されるというの? あまりにも人が少ないのだけど……」


「そのようですね……」


 開催されるのは広場だと聞いている。けれど人なんてぽつり、ぽつり――とてもこれから催しごとがあるという雰囲気ではない。会場らしき舞台も見当たらない。


(日時を間違えた……いいえ、間違っていない。今日は豊穣の祭り、そのはずよ)


 豊穣の祭りについてはそれなりに行われているらしい。けれどここでも『それなり』を付属させてしまうのは仕方のないことだった。あまりにもロゼの前世で一般的に称された『祭り』とは違い過ぎるのだ。

 一応のように草花で装飾を施してはいるが、普段から花に囲まれた街である。正直、大差がないのだ。祭りだと言われなければ変化に気付かないほどである。

 どこかで催しを――というよりも家庭で料理を食べることに重きを置いているそうだが、それにしたって収穫量が少なすぎるという問題はどこへ行った。


(豊穣の祭りの意味! これではただの名前だけ――そう、まるでただの記念日よ!)


 もはや祭りではない。これではいけないとロゼの血が騒ぐ。


「ああでも見てください。あそこに受付らしき人が!」


「本当?」


 本当だった。

 広場の端にぽつんと机が置かれている。イスに座った男性が一人、机には紙とペンが並んでいる。それは広場には似合わない光景だ。どうやら彼も暇を持て余しているようで欠伸をかみ殺している。


「……あれが受付」


 ごくりと喉がなる。しかし迷っていても始まらず、ロゼはエントリーに向かった。


「あの、わたくし『女性が美しさを競いあう大会』に出場したいのですけれど」


「え……え!? 本当に? ああ、これでやっと仕事が出来そうだ。歓迎するよ!」


 他に出場者がいるのか一気に不安になった。


「あれ君、オディールじゃないか! 君も参加するのかい?」


 どうやらオディールとは顔見知りのようだ。


「いいえ。私ではなくこちらの方です」


 ロゼはわたくしがと一歩前に出た。


「おや、見ない顔だね」


「こんにちは。ドーラさんはご存じですか?」


「ああ、良く知ってるよ。知らない人の方が珍しいんじゃないかな」


 オディールが紹介してくれたドーラの名にはそれだけ威力があるようだ。

 

「わたくしドーラさんの、妹の息子の娘の叔母の娘の友人でロゼと申します」


「え……えっと、なんて?」


「妹の息子の娘の叔母の娘の友人の、ロゼです」


「こちらドーラ様の遠縁のお嬢さんです。王都へは出稼ぎに来ているそうで」


 オディールの見事な助けに受付の人間は安堵していた。


「そっか、なら安心だね。でもオディールじゃなくて、お嬢さんが出場するのかい?」


「問題あるかしら? 出場年齢は定められていないと訊いたわ」


「もちろん問題はないよ。でも大体がお年寄り――っと、年配の女性ばかりだから驚いちゃって」


「はっ!?」


 いや驚かされたのはこっちだ。


「若い女性なんて一人いれば良い方さ。特に君みたいなお嬢さんなんて初めてかもね」


 それから大会の説明を軽く受けたところ、終始ロゼの驚きは止まらなかった。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



「なんてこと……わたくしは改革というものを甘く見ていたのね。こんなにも問題が山積みだなんて……」


 説明を終え、これから大会を控えたロゼの感想である。すでに疲労困憊だ。

 認識が甘かったと認めざるを得ない。それとも、なんでもかんでも現代の常識に当てはめて考え過ぎなのだろうか。ならばとオディールに意見を求めた。


「オディール! お願い率直な意見をちょうだい。貴女この豊穣の祭りをどう思うかしら、名ばかりだとは思わない!?」


「……実は、少しばかり」


「そう、そうよね……良かった。そこから否定されたらどうしようかと思っていたの。なら次はミスコンについてよ」


「ミスコン?」


「いちいち『女性が美しさを競いあう大会』なんて言うのは時間の無駄。これからは略してミスコンと呼んでちょうだい。それでミスコンについてだけど、わたくし盛大にカルチャーショック――文化の違いを思い知らされたの」


 年齢制限を設けていないと豪語しておきながら、出場者の大半がお年寄りという事実にである。


「この世界では……いいえ。この国ではこれが一般的なのかしら?」


「そこは私も驚いています」


「そもそも優勝賞品がカボチャ五個というのはどういう了見!?」


「わ、私を睨まれましても……」


「カボチャを五個ももらってどうするというの!?」


「夕食はカボチャ料理ですね!」


「分かりました。わたくしが優勝した暁には貴女にプレゼントしましょう。存分にカボチャ料理を堪能すればいいわ」


「え!? いいんですか!?」


 さすが家庭を預かる身、夕食のことまでしっかり考えているようだ。オディールのためにも優勝したいところである。けれどロゼの瞳は濁るばかりだ。


「そりゃカボチャ料理は美味しくて、お菓子も美味しいわ。カボチャパーティーも開けることでしょう。でもね、それがミスコン優勝の対価というには不釣り合い。名誉も箔もあったものじゃない! せめてエルレンテ産にしてごらんなさいよ、アルベリス産じゃないの! こんなの参加しようなんて誰も思うわけないでしょう!? 参加するからには得る物があってこそ出場者も増えるというもので……」


 しかも祭りはやっているのかいないのか、不明瞭な状態を継続中である。

 ひたすら呟き続けるロゼは最後にこう締めくくった。


「盛り上がりに欠ける!」


 エルレンテ観光地化推奨の前に、まずは目先のミスコンをなんとかする必要がある。


 決意を新たにしたところで新しい企画を練る暇はない。無情にも決戦の時は迫っていた。

 ロゼは『女性が美しさを競いあう大会』の集合場所へと向かう。

 オディールは客席から見守っていると約束してくれた。たった一人でも見方がいてくれることが心強い。


 それではずらりと並んだミスコン出場者の内訳を発表しよう。

 出場者は五人。繰り返す、ロゼを含めて全員で五人だ。そのうちの四人はロゼの倍以上は軽く生きていることが一目見て分かる。


(わたくしの場違い感……)


 果たして自分は本当にミスコンに参加しているのだろうか。そんな疑問すら抱かせる。

すみません、続きます……

次回はロゼが頑張りますので、私も更新頑張りたいと思います。

閲覧ありがとうございました。

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