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二十二、皇子お届け完了

少しでもお楽しみいただけますように!

お忙しい中、閲覧くださいましてありがとうございます。

お気に入り、評価、感想、コメント、メッセージ――感激しております!

「もちろん特別参加権を得てよ!」


 まさか性別を疑われるとは思わなかった。


「……とにかく! いきなりわたくしが街を変えたいから力を貸してほしいと囀ったところで無力なの。聞く耳なんてあるわけないでしょう。だからまずは顔を売ることにしたの」


 ミスコンの優勝者が観光大使に就任するのは良くある話だ。エルレンテでも一応似たような大会が開催されていたのは幸いだった。


「それであんたは……そこで二冠したのか?」


 正確には「出来たのか」と問いただしたいところである。


「ええ、力を競う大会には正直自信があったの」


 頭のてっぺんからつま先まで眺め終えたラゼットは唖然としていた。


「あんたの見た目なら普通逆だろうに……。道理で一人で歩き回っても声がかからないわけだ」


 あいつは美人だがヤバい近寄るな状態が刷り込まれているのだろう。


「わたくしも最初は女性としての戦いだけで終わるつもりだったけれど、それが色々あって……」


「色々?」


 ロゼは俯き、その表情には影が差す。内容に触れていのか躊躇わせるような憂いを帯びていた。


「まあその、色々あったけれど。かいつまんで説明するのなら、特技で剣舞を披露したら参加してみないかと声がかかって――さすがに二冠もすれば顔の売り込み効果は抜群。祭りごとは少ないから、たくさんの人が顔を覚えてくれたみたい」


「だろうな……」


「次にしたことは……ベルローズでも発言力のある方のお店で働いてみたの。つまりは定食屋で給仕をしていたわ」


「俺はそろそろ驚くのに疲れたよ」


「大変! 疲れたのならぜひ座って、飲み物も差し入れるから――」


「いや、腹は一杯だ」


「そう? ならまたの機会にぜひ。新鮮で美味しいのよ! ……それでええと、給仕の仕事を始めたのだけど、気づいたことがたくさんあったの。おもてなし方法というか、サービスとかメニューについてもね」


 あまりにも日本とは違い過ぎるのだ。改善点なんていくらでも思いついてしまう。


「幸いにも店主の方はわたくしを気に入ってくれて、さりげなく指摘と改善を始めたの。その結果が売り上げ倍増へと繋がれば当然わたくしの噂はさらに広まるでしょう? あのロゼが凄いと話題になって……ところで結局あのってどのロゼだったのかしら?」


「そりゃ、驚異のロゼだろうさ。俺でもそう伝えるだろうな」


「ちょっと大げさだと思うの……。とにかく、一つ成功例が広まれば興味を引けるでしょう? 他の店からも頼まれるようになって、いくつも改善点を指摘しているうちに相談役のようなポジションに収まっていたの」


(そして計画通りというわけよ!)


「つまりエルレンテが観光に力を入れているのは、あんたが提案したことなのか?」


「エルレンテという国は平和で平穏で平凡な、取り留めて評価することのない国。ラゼットはそう思っているでしょう?」


 ロゼですらそう認識していた。けれどそれが悪いとは考えていない。


「逆に考えるの、それこそが最大の売りよ!」


「お、おう……」


「誇れる産業がない? 産業なんて必要ないでしょう。観光を売ればいいのだから! 歴史が長い、結構なことね。歴史的建造物に優れているなんて見るところがたくさんあるじゃない。幸いにも戦争で壊されたことがないのよ。これってエルレンテにしか出来ないことでしょう?」


「なるほど……」


「わたくしの大きな仕事といえば城下の方々を説き伏せただけ。そう、エルレンテが後世に名を残す術を!」


 つい説明に力が入ってしまうがラゼットは頷くので精一杯の様子だ。


「……熱弁し過ぎたわね。疲れているでしょう? そろそろ準備も整った頃かしら、宿泊先へ案内するわ」


「準備?」


「ラゼットには特別な食事と、特別な宿泊先を用意しているの」


 ロゼは一歩横にずれるとエルレンテ王宮へ手を差し伸べる。まるで観光案内の続きのようだ。


「貴方は大切なお客様。あちらに見えます王宮の客室を解放させてくださいね」


「あんた……俺のことを知っていたのか」


「観光大使を舐めないで。アルベリスの特別な紋章くらい記憶していて当然よ。わたくしと出会ったのが運の尽きだと思って。貴方のような方を一人にしておくことは出来ないの」


「はあ――」


 ラゼットは降参だと両手を上げる。


「俺の自由はここまでか。お忍びすらも見破るとは、観光大使殿は怖ろしいことで。あんたの前では悪さも出来ないな」


「させないわ」


 もちろん観光大使権限だけで王宮への道を開くなんて出来るわけがない。王族権限も使っての合わせ技だがここにいるのはただのロゼ、親切に教えるつもりはなかった。


「わざわざ忍ばなくても三日後には訪問予定と訊いているけれど」


「観光大使殿は耳が早いな」


「おもてなしプランを考えてほしいと直々に依頼を受けているの」


「随分と丁重に扱われたものだ」


 お願いだから丁重に扱わせてほしい。一歩間違えば滅亡一直線だ。


「大切なお客様なのだから、こちらにもそれなりの準備というものが――あの! これは決して非難しているわけじゃないの!」


「わかった、悪かった。急に来た俺が悪いんだ」


(意外……ラゼットって……謙虚?)


 今日一日を通して知ったことだが、ラゼット・ハルキア・アルベリス十九歳は謙虚である。

 何が意外なのかと訊かれれば、ゲームでのラゼットは復讐のために生きていたからだ。復讐はそれほどまでに人を変える――ということだろうか。


「仕方ない、そちらの指示に従おう。その代わり明日もロゼに案内を頼めるか?」


「わたくし? ラゼットをもてなすのはローゼリア様の役目だと訊いているけれど」


「ローゼリアというのは王宮に引きこもっているだけの姫だろう。そんな人間に何がわかる」


 どちらにしろロゼなのだが、ここは秘密を貫き通す方針だ。


「俺が見たいものも知りたいものも王宮にはないだろ。俺はありのままのエルレンテが知りたい。なあ、王宮から見えるのか?」


(この人……まるでわたくしのようなことを言うのね)


 かつてのロゼも王宮にいては見えないものが多すぎると言った。だからこそ身分を偽り姿を偽ってまで自分の足で歩き回っている。


「貴方、わたくしと同じなのかしら」


 そう告げればラゼットは不思議そうな顔をしていた。どんな表情も様になるけれど、目を丸くしている様子には親近感も湧く。

 しかし、それとこれとは別問題ということもあるのだ。



~☆~★~☆~★~☆~★~☆~



 ラゼットを王宮の信頼出来る人間へと預けたロゼは自身も部屋へ戻るところだ。これから姫としてラゼットを出迎えなければならない。けれどようやく肩の荷も下り、歩きながらこれからについて考える余裕が生まれていた。


 忘れるな、この国の未来を――


(そうよ、思い出すのローゼリア! ラゼットは追放された皇子。彼はこれから国を追われてしまう……)


 彼の未来を想えば胸が締め付けられた。


(わたくしはどうすればいい?)


 原因も理由も、手段すらロゼの知るところではない。けれどなんの因果か彼は今ここにいる。


(貴方を助けたいという気持ちはある。でもわたくしは主人公ではない。万能チート能力を授かっているわけでもない。所詮は誰かが決めた未来を知っているだけの人間……)


 でも彼はここにいて―― 


 どうしたら――


 どうすれば――


 誰か答えを教えてほしい。

 たった一つの真実は、彼に何かあれば国が亡ぶということ。まるですべての運命がラゼットに集約しているようだ。


 忘れるな、この国の未来を――


(忘れられるわけがない。……ラゼット、貴方がエルレンテ繁栄のために友好を築いてくれるのなら歓迎するわ。けれどエルレンテに亡びを運ぶのだとしたら……わたくしが全力で立ちはだかる)


 その時は形振り構ってはいられない。

閲覧ありがとうございます。

今日中にとの有言実行更新が叶って何よりです。

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