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キミのとなりの青春事情  作者: 乾 碧
Episode01~千都恋~
11/19

おとなりさん


 「さてと………………」


 面倒。面倒な一週間が始まる。葛城(かつらぎ)詩愛(しいな)は、着席するなり机につっ伏す。


 ……うるさいなぁ……。


 ガヤガヤ、ワイワイ。喋り声がうるさい。うんざりする。三十人もクラスにいるのだから、それだけの人数が半数でも口を開けば、当然、騒がしいと思ってしまう。


 ……はぁぁぁぁ……。


 鞄の中から音楽プレイヤーとイヤホンをとりだす。シャットダウン。朝のホームルームが始まるまでなら良いだろう。





 「おはよう。涼風(すずかぜ)君」

 「あぁ、おはよう。沙織(さおり)


 着席すると、いつも通り、後ろに座っている沙織が挨拶をしてくれる。


 「そうだ。涼風君」


 身を乗りだし、わざわざ(かず)の耳の近くで声を発する沙織。和も少しだけ身体を傾ける。


 「なんだ? 」


 和はその沙織の行動の理由をすぐに理解する。和の左隣には葛城詩愛が座っている。寝ている。イヤホンを耳にさし外の音を聞こえないようにしているが、音楽を流している、ということではないだろう。単純に、耳栓の変わりだと思う。


 「どう? 恋愛部は? 」

 「どう、って言われてもなぁ……………………」


 (れん)が望んでいるような恋愛相談は、まだない。恋愛相談自体が、まだ来ていない。放課後何もすることがなく、毎日部室に顔を出していた和が見てないのだ。


 「楽しい? 」

 「まぁな」


 和は苦笑いで返す。恋からしてみれば何も出来ていないのだから不満かもしれないが、和的にはわいわい出来ているから、それは充分、楽しい、に当てはまるものだと思う。


 「この休日は? 何かした? 」

 「会長と出掛けたな」

 「え? 千都(せんと)会長と? 」

 「あぁ。あの部室、時計がなかったんだよ。会長が買いに行きたいって言うから」

 「へぇ…………………………………………。二人で? 」

 「おぅ。別に全員で行くようなものでもないし、そもそも全員揃ってないしな」

 「そうなんだ。それにしても……………………」

 「どうかしたか? 」

 「いや、なんでもないよ」

 「そうか」


 ……(あい)達には散々言われたけど……。


 家に戻るなり、ずっと待機していたらしい愛から、なんで誘ってくれなかったのかと、一時間くらいずっと言われた。少し機嫌が悪かったか。夜になるまで、愛はずっと和の部屋にいた。特別に何かをしたわけではないが。

 いつも通り。





 ……恋愛部……?


 自分の右隣で行われている会話の内容に、引っかかる単語がでてきた。


 恋愛部。それは、先週の生徒会長の就任の集会があったあの場所で聞いた言葉。そして、同じく先週、下駄箱に入っていた封筒に書かれていた言葉と同じものだ。


 ……こいつがいるのか……。


 詩愛にとって、そんなことはどうでもいい。誰がいるとかいないとか。気にしていない。


 「ふぅ……………………」


 イヤホンを耳から取り外す。時間だ。教室の前の扉が開く音が聞こえた。先生が入ってくる。


 「面倒だ……………………」


 つまらない。代わり映えしない。


 ……楽しい、か……。


 和はそう言った。その話を聞いていた沙織の声色からも、伝わってくる。


 「聞いてみるか……」


 一応、話だけ。だって、詩愛にも、誘いは来ているのだ。生徒会長からの。断ったとしても詩愛には影響はないが。仕方ない。


 気になってしまう。隣で話をされたら。





 「ちょっと待ってよ、葛城さんっ! 」

 「いいから。あたしについてこい」


 放課後。授業が終わり、ホームルームも終った。今日も今日とて恋愛部の部室に向かおうとしていた和だったが、何故か、詩愛に腕を掴まれて、強引に教室から引き摺り出される。


 「涼風、お前に聞く。恋愛部とは何? 」

 「は……………………? 」


 屋上。わざわざ、こんなとこまで連れてこられた意味が分からない。恋愛部の話をするのであれば、教室で問題ない。場所を選ぶような話ではない。


 「なんだその反応は? あたしに向かってそんな態度をとるな。恋愛部のことを教えて」

 「なんで……、葛城……………………さん……に…………? 」


 胸ぐらをつかまれる。近い。詩愛が近い。威圧感。恋とは違う威圧感を、和は詩愛から感じた。


 「あたしのとこにも来てるの。恋愛部の話が」

 「そうなんだ……………………」


 ……それを先にだなぁ……。


 ということは、詩愛も恋愛部の一員ということになる。これで、五人目。まだ来てない人はいる。さすがに、そろそろ全員揃ってもいい頃ではないだろうか。恋もそれを望んでいるはずだ。


 「連れていって」

 「部室にか? 」

 「そこ以外どこがあるの? 」

 「分かった。俺もちょうど行くところだったから」

 「あら? そうなんだ」


 ……ふぅ……。


 やっと解放された。


 「一旦教室戻るぞ」

 「なんで? 」


 ……なんでって……。


 「荷物、教室に置きっぱなしだろうが」

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