おとなりさん
「さてと………………」
面倒。面倒な一週間が始まる。葛城詩愛は、着席するなり机につっ伏す。
……うるさいなぁ……。
ガヤガヤ、ワイワイ。喋り声がうるさい。うんざりする。三十人もクラスにいるのだから、それだけの人数が半数でも口を開けば、当然、騒がしいと思ってしまう。
……はぁぁぁぁ……。
鞄の中から音楽プレイヤーとイヤホンをとりだす。シャットダウン。朝のホームルームが始まるまでなら良いだろう。
〇
「おはよう。涼風君」
「あぁ、おはよう。沙織」
着席すると、いつも通り、後ろに座っている沙織が挨拶をしてくれる。
「そうだ。涼風君」
身を乗りだし、わざわざ和の耳の近くで声を発する沙織。和も少しだけ身体を傾ける。
「なんだ? 」
和はその沙織の行動の理由をすぐに理解する。和の左隣には葛城詩愛が座っている。寝ている。イヤホンを耳にさし外の音を聞こえないようにしているが、音楽を流している、ということではないだろう。単純に、耳栓の変わりだと思う。
「どう? 恋愛部は? 」
「どう、って言われてもなぁ……………………」
恋が望んでいるような恋愛相談は、まだない。恋愛相談自体が、まだ来ていない。放課後何もすることがなく、毎日部室に顔を出していた和が見てないのだ。
「楽しい? 」
「まぁな」
和は苦笑いで返す。恋からしてみれば何も出来ていないのだから不満かもしれないが、和的にはわいわい出来ているから、それは充分、楽しい、に当てはまるものだと思う。
「この休日は? 何かした? 」
「会長と出掛けたな」
「え? 千都会長と? 」
「あぁ。あの部室、時計がなかったんだよ。会長が買いに行きたいって言うから」
「へぇ…………………………………………。二人で? 」
「おぅ。別に全員で行くようなものでもないし、そもそも全員揃ってないしな」
「そうなんだ。それにしても……………………」
「どうかしたか? 」
「いや、なんでもないよ」
「そうか」
……愛達には散々言われたけど……。
家に戻るなり、ずっと待機していたらしい愛から、なんで誘ってくれなかったのかと、一時間くらいずっと言われた。少し機嫌が悪かったか。夜になるまで、愛はずっと和の部屋にいた。特別に何かをしたわけではないが。
いつも通り。
〇
……恋愛部……?
自分の右隣で行われている会話の内容に、引っかかる単語がでてきた。
恋愛部。それは、先週の生徒会長の就任の集会があったあの場所で聞いた言葉。そして、同じく先週、下駄箱に入っていた封筒に書かれていた言葉と同じものだ。
……こいつがいるのか……。
詩愛にとって、そんなことはどうでもいい。誰がいるとかいないとか。気にしていない。
「ふぅ……………………」
イヤホンを耳から取り外す。時間だ。教室の前の扉が開く音が聞こえた。先生が入ってくる。
「面倒だ……………………」
つまらない。代わり映えしない。
……楽しい、か……。
和はそう言った。その話を聞いていた沙織の声色からも、伝わってくる。
「聞いてみるか……」
一応、話だけ。だって、詩愛にも、誘いは来ているのだ。生徒会長からの。断ったとしても詩愛には影響はないが。仕方ない。
気になってしまう。隣で話をされたら。
〇
「ちょっと待ってよ、葛城さんっ! 」
「いいから。あたしについてこい」
放課後。授業が終わり、ホームルームも終った。今日も今日とて恋愛部の部室に向かおうとしていた和だったが、何故か、詩愛に腕を掴まれて、強引に教室から引き摺り出される。
「涼風、お前に聞く。恋愛部とは何? 」
「は……………………? 」
屋上。わざわざ、こんなとこまで連れてこられた意味が分からない。恋愛部の話をするのであれば、教室で問題ない。場所を選ぶような話ではない。
「なんだその反応は? あたしに向かってそんな態度をとるな。恋愛部のことを教えて」
「なんで……、葛城……………………さん……に…………? 」
胸ぐらをつかまれる。近い。詩愛が近い。威圧感。恋とは違う威圧感を、和は詩愛から感じた。
「あたしのとこにも来てるの。恋愛部の話が」
「そうなんだ……………………」
……それを先にだなぁ……。
ということは、詩愛も恋愛部の一員ということになる。これで、五人目。まだ来てない人はいる。さすがに、そろそろ全員揃ってもいい頃ではないだろうか。恋もそれを望んでいるはずだ。
「連れていって」
「部室にか? 」
「そこ以外どこがあるの? 」
「分かった。俺もちょうど行くところだったから」
「あら? そうなんだ」
……ふぅ……。
やっと解放された。
「一旦教室戻るぞ」
「なんで? 」
……なんでって……。
「荷物、教室に置きっぱなしだろうが」




