表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/119

全知全能と施設

 僕の言葉に、レティシアは洞窟をくるりと見回した。


「そうね……まぁ、先ずはコアを抜いておきましょう」


「コア?」


 レティシアは頷き、死体となった男の方へと歩いて行った。


「魔核よ。魔石みたいなものね。違う世界から来たアンタは知らないかも知れないけど、貴重なのよ。魔力を沢山使うような種類の魔物には備わってたりするの」


「へぇ……」


 そう言いながら、レティシアはただ魔物を解体するようにナイフを取り出して、胸に突き立てた。それから手際良く紫色の小さな結晶のようなものを取り出すのを、僕は呆然と見ていた。


「ふぅ、これでまかり間違って復活するなんてことも無いでしょう」


「復活なんて、するの?」


「さぁ、分からないわよ。でも、相手は魔族よ……どんな魔術が仕込まれたって不思議じゃないわ。だけど、魔核さえ取って置けば、そんな術の発動も難しくなるでしょうし、例え復活したところで敵じゃないわ。直ぐに、弱って死ぬでしょうし」


「……魔核って、なに?」


 僕はレティシアの手に握られている血に塗れた紫色の結晶を、じっと観察しながら聞いた。


「んー……私は学者じゃないから全然詳しくは知らないけど、まぁ、アレよ。魔力の心臓みたいなものじゃない?」


「……なるほど」


 曖昧な説明ではあったけど、兎に角重要な器官であるということは分かった。


「人間には無いんだね」


「ある訳無いわよ。私達は、魔力に依存して生きてる訳じゃないでしょう?」


「……そういうこと?」


「そういうことよ」


 なるほど、魔力版の心臓とは言い得て妙かも知れない。彼らは僕より遥かに強力な代わりに……生きる為の条件が、人よりも一つ多いんだろう。


「ほら、角とか翼とか生えてるでしょう? アレも魔力器官なのよ。人間には普通生えないでしょう?」


「なるほど……」


 人体の授業に、いや魔族の授業に僕は曖昧な返事しか返せなかった。レティシアが、明らかにあの魔族を同じ人間として見ていないのが分かったからだ。

 きっと、間違っているのは僕の方なのは分かっている。この世界を生きる人間にとって、魔族とはただの害獣に他ならず、種全体の宿敵とすら呼べる存在なんだろう。


 だけど、それでも僕の心は……少しだけ、ざわついていた。


「……そういえば、調査って分かったことはあったの?」


「あったわよ。だけど、終わっては無いわ」


 言いながら、レティシアはこの広い空間をある程度確かめた末に、奥の方へと歩いて行った。


「ここね」


 レティシアが土の壁に触れると、自然にそれが崩れて人一人が通れるような穴が開いた。


「隠し扉……?」


「そんな高尚なモノじゃないわよ。本気で隠す気があれば、もっとやりようがあるもの」


 一応隠しとくかくらいのノリで付けた機能なのか、それともちょっとした遊び心のようなものだったりするのだろうか。


「……これは」


 声を上げるレティシア。彼女が踏み込んだその場所に僕も付いて行くと、そこには驚きの光景があった。


「うわ、広!?」


 さっきまで居た空間よりも、更に広い。天井はさっきよりもかなり狭いけど。でも、そんなことより気になるものがそこにはあった。


「なにこれ、実験所……?」


「……きっと、そんな生易しいものじゃないわよ」


 おっきい試験管みたいなカプセルに魔物が浮かんでいる。それが、幾つも並んでいるのだ。動物実験のようなことでもしているのかと思ったけど、その正体までは分からない。


「私は本職のメイジじゃないから、ちゃんとは分からないわ。でも……単なる魔物の生態調査なんて、魔族が態々する訳も無いわよ。それに、対象が魔物の実験なんてこんな人里から少し離れただけの森の中でやる必要ないわ。リスクが高いもの」


 なるほど。ある程度近いこの場所に構えてることの意味を探るべきってことか。


「……無理ね。私の知識じゃこの施設の正体までは分からない」


 だけど、思ったよりもあっさりとレティシアは諦めて息を吐いた。


「帰りましょう。専門家を連れて、また調べに来るわ」


「うん……」


 確かに、それが合理的かも知れない。変に触って何かを壊したりしても良くないだろうしね。だけど、僕はどうしてもこの施設の正体が気になっていて……先に進むレティシアの背を見ながら、全知全能に尋ねた。



「――――工場」



 返って来た言葉を、思わずそのまま口にすると、レティシアは足を止めて僕に振り返った。


「工場……?」


「森中の魔物を引き寄せ、改造し、街へと向かう命令を与える、工場」


 そんな恐ろしい施設が、ここだった。


「何、それ……」


 反論の余地などない、完全な侵攻施設。悪意の塊のようなこの工場に、僕はこれ以上何も言葉にすることが出来なかった。


「……周辺を、捜索する必要があるかも知れないわね」


 息を吐き、レティシアはそう言った。


「ある程度距離が近くないとちゃんと機能しないってことなら、周辺を調べれば同じような施設が見つかるかも知れないから。急がないと、自爆気味に他の施設を起動される可能性も有り得るわ」


「……確かに、そうだね」


 やっぱり、人間と魔族というのは……相容れないの、だろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ