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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と蝕獣

 気が付けば、空にそれが浮かんでいた。夕暮れ時が近付く空に、真っ黒い影が。空の遠くに浮かんでいた。


「アレ、は……」


「蝕獣」


 小さく返したスイは、席から立ち上がると直ぐに号令をかけて木人達を動かしにかかる。


「蝕獣ッ! 枝食みッ! 五号塔方面より襲来ッ! 総員、防衛体制ッ!!」


「アシノ、ミナヤ、リョウシンは零号塔より結界を展開ッ! タイン、ゼイロ、ピルエラムはジャベリンを用意して六号塔で待機ッ! 一番隊は私に随伴ッ、他は各隊長の指示に従えッ!!」


「戦えぬ者は集まれッ、儂に付いてこいッ! 地下に下りるぞッ!!」


 スイの言葉で木人達は状況を完全に理解し、続く野太い声の男と、少ししゃがれた声の男の言葉でやるべきことを把握した。多分、野太いのが戦士長でしわがれてるのが里長だろう。


「治、ちょっと待っててね。直ぐに……片付けて来るから」


 今までで一番真剣な表情で、スイは僕にそう言った。手を伸ばすと、その手には琥珀色の宝玉のようなものが嵌まった黒みがかった木の杖が現れていた。


「スイ……」


 僕は不安を声に漏らして、それから気付いた。僕は何で座ったままなんだ。立ち上がって、守るんだ。友達を。



「――――キィィイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!!」



 そして、硬直した。その鳴き声は最早、咆哮だった。離れた場所からでも鼓膜を劈くような爆音は、僕の足を竦ませて、その場に縛り付けた。


「……ッ!」


 金縛りにあったように体が動かない。相手の術、なんかじゃない。ただ、生物としての格の違いを分からされただけなんだ。これが恐怖なのかすら分からない。ただ、どうしてもアイツに向かって行く気は起きなくて……


「『डिग्गना』」


 それは、あの時と同じ打ち落としの魔術だった。宙に浮かぶスイの指先に描かれた灰色の魔法陣が発動すると、怪鳥は空中で一瞬動きを鈍らせて……しかし、何事も無かったかのようにこちらの方に飛んでいた。


「……やらないと」


 どうして僕は、ビビってるんだ。あんなのよりも、神樹の方がずっと凄くて、イシの方がずっと強い……ん?


「あ」


 勇気を振り絞って金縛りのような状態から自らを解き放った僕だったが、その視界に映ったのは颯爽と駆け出して木の上に飛び乗り、そこから更に飛んで宙を舞うイシの姿だった。


「キィィィイイイ……?」


 黒い巨大な怪鳥は、目の前に跳躍してきたイシを見て怪訝そうな声を上げながらも、丸呑みにしてやろうとその大口を広げ……


「キィィイイイイイイイイイイイイッッ!!?」


 空中で振り下ろされた黄金色の斧が、同じ黄金色の稲妻を撒き散らしながら黒い怪鳥の頭に叩き付けられた。その瞬間、世界ごと割れるかと錯覚するような超特大の雷鳴のような音が響き渡り、黒い怪鳥の身を稲妻が走り回ると共にその体は真っ二つに断ち切られた。


「……そっかぁ」


 いや、うん。そうだよね。お願い、したもんね。


「イシ……やっぱり、強過ぎ」


 イシは自身の数十倍の大きさがある怪鳥の首を掴み、二つに分かれないように纏めて持つと、こちらにぴょんぴょんと軽く木の上を跳んでこちらに戻って来た。そして、食事場の近くにこれで満足かとでも言わんばかりに僕の方を見ながら落としていくと、元の位置に戻って、堂々とした姿勢に戻った。


「……うん」


 僕は頷いてから小さき息を吐き、イシと僕を交互に見てくる木人達から視線を逸らした。




 それから、詰め寄られるようにして色々と質問責めにされた僕は大体を素直に答えながら、うんざりとするような気分がありつつも、コミュニケーションを楽しんでも居た。


「強いのは知ってたけど……実際に見ると、格別にヤバいわね~、アレ」


「うん。まぁ、ヤバいよ。別に僕より強いしね」


 単なる戦闘能力という意味であればそうである。勿論、全知全能パンチしたら勝てるんだけどさ。


「なぁなぁ、守護神様はアンタが作ったって本当なのか!?」


「こら、ラクリオ。造物主様にそんな喋り方するもんじゃ……」


「良いよ良いよ。何回か言ったけど、僕は本当に敬語で喋られるのが得意じゃないんだ。普通に話してくれた方が嬉しいし、造物主様なんて呼び名よりも治って名前で呼ばれた方が嬉しいよ」


「む、そうか? なら、そう話させて貰うがな」


 興奮したように話しかけて来た芋っぽい男に注意した里長(多分)に僕がそう語ると、簡単に里長は話し方をラフに直した。


「そういえば、あの……貴方が里長さんなんですか?」


「なんじゃ、自分で敬語を止めろと言っておいて、自分は敬語を使うのか?」


「あー、えっと、貴方が里長さんなの?」


「うむ、如何にも。と言っても、里の最高責任者のように思うなよ。儂はそんな重責は背負いとう無いからな。儂はただ、里の彼是を管理したり監督したりするだけの役割じゃ。全然偉くない。そこな賢者のスイの方が全然偉いし、神樹様は比べ物にならんくらい偉いからのぉ」


 凄い、物凄い責任逃れしようとしてる……まぁでも、僕の考える村長みたいな感じでは無いんだろう、実際。


「おい、先に話してたのはオラだぞ!?」


「うるさいのぉ。儂は偉いんじゃから黙っとれ」


 前言を簡単に翻した里長に僕は苦笑しながらも、そろそろ帰らないとなぁと若干焦り始めていた。

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