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「兄上の妄想はひとまず置いておきましょう」

「妄想とはなんだ!」

「いや、そうでしょう?」


 兄弟は楽しく言い合いをしてる。まあ楽しいのかは正直微妙だが。アヴァーチェは普通にムキになってる気がするが、プライムはそれなりに楽しそうだ。

 論破するのが好きなのかもしれない。まあ三歳児に論破されたら誰だってムキになる気もする。


「なにせ兄上のそれは妄想でしかありません」

「お前のだって一緒のようなものだ」

「私のは情報を照らし合わせて想像した一種の想像であって妄想とは違います。妄想とは願望ではないですか。願望は真実を覆い隠すものではないですか? 人は見たいものを見る生き物です」

「私がそんな狭量な奴だといいたいのか!」

「兄上、そうではありません。きっと私たちには情報が足りてないのです。このままでは平行線のままですよ。兄上は協会のすばらしさを知ってるようですが、私には無理矢理連れてこられた場所でしかない。もっと父上や母上と一緒に過ごしたかったのに……です」

「それは……私達だって同じた。だが、私たちは王家の人間だ。上に立つ者には責任がある。そのためにも早くから教育をだな」

「ここは王宮も近いではないですか。わざわざ引きはがす意味は分かりませんね。思惑があるとしか思えないです。それに子供はやはり親の元で育てるのがいいと協会は謳ってますよ? それは私たちには適用されないのですか?」

「私たちは市勢の民達とは違う! 王家の者だ!」


 アヴァーチェの言葉は王家とは言うが、その実、中心にはやっぱり協会が居座ってる。その言葉のどれもが、協会を中心にしてる……みたいな印象だ。

 プライムは純粋に子供としての感情をだしてる。親元に居たいのは子供なら当然だろう。それこそ育児を放棄されてた訳じゃない。そうであるなら、子供は親元で育てたほうがいいというのは自明の理。

 王家だから――それはやっぱり誰かの都合のせいだ。それに子供が振り回されることがおかしいと、アヴァーチェは気付いてない。王家だからという責任を植え込ませて、更に協会という組織がいかに素晴らしいかを教育して、自分の境遇がしかたなくて、延々と続いていかないといけないのか――という事を植え込まれてる。


 こうやって王家は傀儡になったのかも……でもそれなら、今の王様はどうやってその洗脳を解いたのか? 自身で気づけたのだろうか? これはおかしいと……協会ばかりが得してると。王の椅子に座れば、そういう事も起こりえるかもしれないが――


(いや、たぶん今の王が稀な筈だ)


 ――そう思う。普通は最後まで協会の傀儡で終わりそうだと思う。でもきっと今の王は賢かったのだろう。だからおかしいと……協会はおかしいと気づけた。その次に王になるとしたらアヴァーチェなんだろうが……こいつはそれに気付けるのか……今の洗脳具合を見てるとなかなかに厳しそうだが……けどプライムに押し負けだしてはいる。

 アヴァーチェは次第に感情的になってるが、プライムはあくまで冷静だ。その差が出てる。でもそれでも……言葉だけではやっぱり説得は難しい気はする。

 ちょっと荒療治が必要なのでは? せめてその信仰を揺らす効果的な毒が必要だ。ここは一芝居打つか? と俺は考えた。

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