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「お前!!」


 俺は腕を伸ばしてペニーニャイアンをつかむ。勢いよく引き寄せると、驚くほどに軽い体が軽々と枝のようにしなってこっちに来た。


「あいつは神託の巫女じゃなかったのか!?」

「確かにそうですね。でも、私よりも重要な者などこの世にありませんから。信託の巫女なら、また用意すればいいだけの事」


 俺が振るったせいでペニーニャイアンの長い髪が前に来てなんか気持ち悪い感じになってる。そんなペニーニャイアンはクツクツと不気味に笑ってる。本当にこいつにとっては神託の巫女はいなくなったら補充すればよくて、都合が悪くなったら自分のために躊躇なく使いつぶす存在ということか。胸糞悪い奴だ。

 いや待てよ……どうして今この場でピローネを殺す必要があるんだ? それをしたら何かが起きるのか? 


「来なさい」


 そう思ってると、再び黒い鏡が現れる。けど俺のところではない。血を流してるピローネの所へと現れて、二体の砂獣が現れた。それはついさっきピローネがペットの様に従えてた二匹の小さな砂獣だ。


「おい、何をする気だ?」


 俺のその言葉にペニーニャイアンはふっと笑ってこう言った。


「食らいなさい」


 蟻の様な姿だけど、その体長は大型犬くらいはある蟻だ。そんな形をしてる砂獣が大きくその口を開けた。


「くっ!」


 俺は片手で聖剣を振るった。一瞬で二回剣を振るって剣線を飛ばす。それを受けて二匹の砂獣が飛んでいく。


(斬れない!?)


 俺は内心驚いた。だって今のは十分、砂獣をぶった切ることが出来る程のエネルギーを込めたはずだ。なのに、砂獣は吹っ飛ぶだけにとどまった。あの砂獣普通じゃない!? いや、そもそもが人に従ってる時点で普通じゃないのは確かなんだが……でもとりあえずこれでピローネの危機は救えたはずだ。


「全く、お行儀が悪いですよ。餌の邪魔しないでください」


 そういうペニーニャイアンは既に動いてた。さっきまで床に倒れてたはずのピローネの姿がない。その時、部屋の一番端の方で鏡が開いてピローネが落ちてくる。


「そうそう、これで動くことに意味はないってわかってください」


 そういうとペニーニャイアンは再び黒い鏡を出した。それをくぐるピローネは今までと違って吸い込まれてない。まるで黒い鏡が輪っかにでもなって、素通りさせてるような……でもそんな甘い奴ではペニーニャイアンはなかった。


 黒い鏡をくぐるピローネの体が腰の上あたりまで来た時だった。その瞬間、一瞬気を失ってたらしいピローネが最後の断末魔を上げた。その声はあまりにも痛々しくて、そしてその光景は奇妙だった。


 ピローネの上半身は叫びながら落ちていくのに、黒い鏡を通りかけてた下半身はその場に……空中に残ったままだったんだ。そして叫び声をあげてるピローネの上半身に二体の砂獣が飛びついた。そしてバリバリぼりぼりと食べだしたんだ。

 それは思わず目をそむけたくなる光景……そのものだった。

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