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「うっ!? ――ゲホゴホッ!?」
ずっと吸ってたリファー。それこそ吸引力の変わらない掃除機のようにアイの空気に貪りついてたわけだけど、当然だけど呼吸とは吸うだけでは呼吸とは言えない。呼吸は吸って吐いてを繰り返す動作の事を呼吸というのだ。
なのにリファーはアイから空気を吸い続けてた。でもずっと吸い続けて限界が来たんだろう。盛大にリファーはむせた。すった空気を盛大に吐き出した。それもめっちゃ勢いよくだ。そうなると……だ。その被害は一番近いアイに向かう。だってそもそもがアイが無理矢理リファーと向かい合わせにしてたわけで、逃げないようにもしてた。途中からはリファーがまるで虫みたいに張り付いてたけど、直前まで二人はそれこそゼロ距離で粘液を絡み合わせてたのだ。
それからいきなりせき込んだんだから、当然吐き出したものすべて、アイに向かう事になるのは当然だ。つまりはゲッホゲッホしてるリファーによって、アイは唾やら鼻水まみれになってる……という事である。
これは流石にアイもキレるのではないだろうか? だって流石にこれは……せっかくアイが親切心? なのかは正直わからないが、善行を施そうとしたのに、リファーはそれに対して、物理的に唾を吐いたのだ。
もちろん、リファーには悪気はないだろう。苦しかった中、救いともいえる空気……それがやってきたから藁にも縋る勢いで吸い出しただけだ。でも吸うにも限界があって、その限界を知らなかったリファーは盛大にむせた……と。
仕方ないよ……うん、仕方ない。けど、それであのアイが納得するか? である。下手したら次の瞬間、消されてても……
「あれ?」
アイはなんか冷静だった。別に避けもせずに、リファーがせき込むのが止まるまで、ただ静かに咳を受け止めてる。静かに、目を閉じて。そしてようやく収まると、顔を少しハンカチで拭ってこういった。
「どう? 吸ったら吐くの。これでわかった?」
「すーすーすー! はーはーはー! うん!」
なんとも荒々しい仕方で、アイはリファーに呼吸を仕込んでたらしい。だからきっとああやって自分が唾まみれになるのも、最初から予定通りだっだみたい。だからずっとアイも空気を『送る』――ことしかしてなかったんだろう。
やっぱりアイの奴、ツンデレなのかもしれない。




