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「疲れた……」


 この体になってから、これだけ疲れたと感じるのは初めてじゃないだろうか? この体はとても丈夫で並大抵のことでは疲れなんて感じるはずはない。だからこれは体の疲れなんて物じゃない。炎天下の砂漠を歩いて来たってへっちゃらな体だ。だからこの疲労感はきっと精神的な影響だろう。どれだけバカを相手にするのかがきついのか思い出した。元の世界でもただ権力を振りかざすだけのバカには苦労した物だ。


 魔王という脅威がそこにあっても、自分たちの既得権益にしがみつく奴ら。それだけならまだしも、そういうことを利用する奴らもいるしまつ。まああのどら息子にはそこまでの知恵は無い。ただ本当にバカなだけだ。本当に教育をしてない? もしかしたらそういう概念がないのか……でも流石にそれは……なにせバジュール・ラパンさんは取っても賢そうというか、きっと賢い。賢いと言うことは教育を受けて、さらに自分でも勉強とかだってしてるはず。ならそれを伝えるとか……為ないのか? 


「ご苦労なことだ。相変わらずだな貴様は。そうやって弱い奴らにかまけて自身をすり減らす」


 そうイッで来るのは魔王の奴だ。奴の手には酒樽がある。さっきも散々飲んでただろうに……


「ほれ」


 そういって石で出来たジョッキをこっちに投げてくる。危ない奴だ。まあ取り損なうなんて事はあり得ないが。なにせ魔王がどういう風に投げるのか……そしてその先の軌道も俺にはあらかじめ見える。今はわざわざその予測を欺くことも魔王はしないから簡単だ。模擬戦の時はこの予測を超えて攻撃をどう当てるのか……かなり二人で苦心した。双方に攻撃を当てるために、双方で考えるとかなんかおかしいが、そういう状況だったんだ。


「少しなら分けてやるぞ」

「悪かったと思うんならお前があのバカを止めろよ」

「何故に我がそんな匙な事をせねばならん? 知らんな」


 そう言って魔王は樽の中の酒を俺のジョッキに注ぎ、残りを煽り始める。まあ俺にちょっとは分ける所を見るに、少しは魔王も俺に心を開いてるんだろう。まさか魔王とこんなことになるなんて思ってもなかった。何せ俺達は宿敵だ。仲間になど慣れるはずがない間柄。魔王と勇者……それは戦う事が宿命づけられてると言っても過言じゃないんだ。でもそれも……もしかしたらあの世界の中だけでの宿命だったのかも知れない。


 世界は他にも色々とあって……そして俺達はその色々な世界へと意図せずに飛び出てしまった。いつまで……俺達は『勇者』で『魔王』なのだろうか? そんなことを思いながら俺はジョッキになみなみと注がれた酒をあおる。


「ぬるい……」


 当たり前だった。


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