第百四十話 嘘
王都に並ぶ建物を次々と薙ぎ倒すように現れた巨大な怪物。ヴァンパイアドラゴン。
悲鳴を上げる民や、動揺する新政府の兵たちが尻ごみするなかで、真っ先に声を上げた女が居た。
「くっ……怯むな、新時代の戦士たちよ! ここで、私たちがやらねば誰がやる! むしろ的がでかくなったと思えば、こんなもの!」
勇ましく兵たちに声を向けるのは、兵たちを率いた指揮官風の鬼族の女。
そして、女は声を上げるだけではない。
「アハハハハハハハハハッ! 勇敢だな~、ムカつくな~、全員……臓腑をぶちまけさせちゃうよお!」
「くっ、なめるなあああああ!」
むしろ、自らが率先してジャレンゴクへと立ち向かっていく。
「アハ! すごいな~、勇敢だな~来るんだ! 向かって来るんだ! 滅茶苦茶にしちゃお」
「くっ……我が戦斧よ! 再び戦場で共に踊ろうではないか! 伝家の宝斧・コマンドーエックス!」
その巨大な斧は、女どころか大柄な大男たちの身の丈よりも遥かにデカイ。
それを女の細腕で豪快に振り回し、女はドラゴンと化したジャレンゴクの両腕を叩ききった。
「アハ! 痛いなー! ムカつくだけじゃなく痛いよー!」
だが、両腕を斬りおとしたぐらいでは、ジャレンゴクはすぐに再生する。
それが分かっているからこそ、ジャレンゴクもあえて回避するようなこともしない。
痛みをただの怒りに変え、その両目の魔眼を……
「炎熱―――」
「くっ、させるかぁ!」
そのとき、女は巨大な斧を片手持ちに変え、もう片方には部下の手から取った槍を数本抱えている。
そして、ジャレンゴクが両目を見開いた瞬間、その槍を全てジャレンゴクの両目に突き刺した。
「あっ、アアアアアアアア、め、目がああ! 僕の目ええええええ!?」
「くっ、これでしばらくは魔眼が使えないな!」
巨大化したことで、でかくなった眼球。そこに槍を突き刺し、潰れ、血や汁が辺りに飛び散る。
眼球へのダメージはジャレンゴクも慣れない痛みなのか、その巨大な図体で激しくのた打ち回った。
「ぐ、うう、取ってよー! 僕の目から槍を取ってよー!」
さらに、女はジャレンゴクの眼球に突き刺した槍を抜かずに、そのままにする。
槍を目に突き刺したままにすることで、再生させないようにする気だ。
「くっ……今だ、同志たちよ! 一斉攻撃し、ジャレンゴクの動きを封じるのだ!」
「「「「うお、お、おおおおおおおおおおおお! 将軍に続けええええ!!」」」」
女の勇敢な猛攻に、怯えていた兵たちも戦意を取り戻して立ち向かっていく。
「「「メガファイヤー!」」」
「「「メガサンダー!」」」
「「「メガウィンド!」」」
数百人の魔導士兵が一斉に呪文を叩き込み……
「うおおお、俺らも負けてられるか!」
「魔界に真の平和を!」
「いけーっ!」
数百人の武装した兵たちが次々と剣を、槍を、矢を、棍棒を、各々の武器を叩き込む。
無防備になったジャレンゴクに反撃もさせず、ここで仕留めるのだと誰もが必死だった。
「お、おい……やられちまうんじゃねーか?」
「ほう……数で仕留めるか……」
「す、すごい……」
その場から飛びのいて、少し離れた建物の上から戦況を眺めるジオたちも、このまま終わるのではないかと感じていた。
だが、それは……
「あは……みんな、どんどん集ってきた……カハッ……ほんとやだよね……相手が弱ってると思ったら、数で囲んでズタボロにイジめる……これで、正義だなんて……アハ! ほんと、9.99割殺したいや♪」
苦痛を与えられながらも、どこか不気味な言葉を発するジャレンゴクにより……
「くっ、誰も聞く耳を持つな! 奴は魔眼が使えない! 今この場で容赦なく―――」
「あは♡ ほんと、これだけは……バラしたくなかったけど……仕方ないね♡ 針山地獄♡」
「えっ……」
一瞬で全てを変える地獄と化した。
「「「「ッッ!!??」」」」
それは、ジオたちですら予想もしていないことだった。
両目を潰されて、魔眼の力を今は使えないはずのジャレンゴクが、そんなことお構いなしに地獄を召喚した。
「へっ、ぶへ……」
「あ、かは……」
「なん……で」
広場に集っていた数百人の兵たちほぼ全員が地中から伸びた鋭い針に肉体を貫かれ、呆然とし、そしてわずかな間を置いて誰もが血反吐を吐いてその場で倒れた。
「くっ!? な、なぜ……みんなぁ!!」
「あは♡ あははははははは♡ 穴あきだー! 男も女も関係なく穴あきだー!」
全身を夥しい火傷や刻まれた傷を負い、更には両目を槍で突き刺された状態でありながら、ジャレンゴクは狂喜乱舞した。
「くっ、ば、ばかな、なぜだ! なぜ……貴様の両目……冥獄眼は潰したはず!」
女もこの予想外の事態、更には味方のほとんどが全滅したことに動揺を隠し切れずに声を荒げた。
すると、ジャレンゴクは……
「ごめんね~……嘘なんだ」
「くっ……なに?」
「僕の両目は……本当は魔眼なんかじゃないんだ」
「くっ……えっ……?」
「ただ、そういう設定の方がカッコいいかなと思っただけなんだ。実際は、魔力をコントロールして目を光らせたりしただけで……僕の地獄技は単純に……魔法をちょこっと変化させただけなんだ~!」
「……くッ!?」
ジャレンゴクの予想外のカミングアウト。
そもそも、「冥獄眼」という魔眼自体が嘘。そのほうがカッコいいと思ったからそうしただけだという、あまりにもくだらない理由。
しかし、ジャレンゴクの強さやその異形種ぶりが、それを誰もが真実だと思って勘違いした。
「な、なんつう……ことだ……」
「そういうことじゃったか……どうりで……ワシも、冥獄眼なんて聞いたことなかったはずじゃ……」
「ま、魔眼設定……嘘なんだ……どうしよう……なぜか僕……そういう設定にしちゃう気持ち分かっちゃう……」
当然、ジオたちも騙されていた。
だからこそ、この結果になった。
そもそも、ジャレンゴクの両目を潰しても何の意味も無かったということを。
「アハ、君もさー、穴あきになっちゃえー!」
「ぐっ!? 何が嘘だ……お前といい、裏切り恥知らずの『兄上』といい……男は嘘ばかり……お前も私の兄上と一緒に『投獄』してやる!」
「うるさいな。色んなところを穴だらけにしちゃうよ?」
ジャレンゴクが再び針山を地中から出現させる。
だが、女は反応して体を捩じらせて直撃を回避。
その際、女のビキニアーマーの、胸当ての部分が飛ばされるが、女は無事だ。
「くっ……おのれ……ジャレンゴク」
「あは、抵抗しちゃってさ~……『人間の男』に股開く、ガバガバのクソビッチ女のくせにさ~」
ジャレンゴクの攻撃を回避して距離を取ろうとする女。
はだけた胸を、唇をかみ締めながら手で隠しながら、ジャレンゴクに殺意を込めた目で睨み返す。
「くっ、誰が! この私を侮辱する気か……ッ、未だ握手以外で男の手すら握ったことも無いこの私に……」
「あら……そうなの?」
「くっ……そ、そうだ。た、確かに、私も近い将来……人間の男に股を開くだろう。だが、それは誰でもいいからではない! 私は、あの人間……オーライに惹かれたからこそ股を開くのだ!」
そして、女もまたジャレンゴク同様にカミングアウト。
しかしそれを、女は誇らしげに言う。
「そうだ、あいつとの……オーライとの初夜を迎える日まで……私をキズモノにできると思うなよな? この七天大魔将軍最後の一人、運命反逆者・クッコローセが掴み取る運命の邪魔はさせん!」
その魂の叫びに、ジオパーク冒険団は……
「「「もう、不憫すぎて泣ける……」」」
先ほどから『何故か』呆然としているマシンを除く、ジオ、ガイゼン、チュー二の三人はいたたまれなかった。




