第百三十三話 総選挙
「おい、入り口で固まるなよ。入れねーだろ」
酒場の入り口に群がる若い魔族たちに道を空けるように告げるジオ。
その迫力に若者たちは思わず道を譲りそうになるが、ジオの顔を見て皆がハッとしたように声を上げる。
「お、おい、人間が居る……いや、その前に!」
「こ、こいつ!? こいつは……」
「灼熱の髪に……一角に……魔族と人間の左右異なる手……間違いない!」
「暴威の破壊神!」
「あ、現れやがった……おい、クリ、早くみんなを呼んでこい!」
「うん!」
若者たちが一斉にその場から飛び退いて、武器や各々の爪や牙等をむき出しにして臨戦態勢に入る。
そんな若者たちの殺気に当てられてジオは……
「……またか……一体、何なんだ?」
と、もうウンザリだと溜息を吐いた。
「リーダー……もう、そろそろ別行動したほうがいいと思うんで」
「ここまで騒がれるとはな……」
「ぬわははは、モッテモテじゃの~」
それは、仲間である三人にとっても同じ。
そう、ジオパーク冒険団が魔界に入って数日で、似たようなことが度々あったのである。
「もういい加減にしろゴラァ! 俺が七天のパスカル倒したのがそんなに憎いか? だがな、もう戦争は終わってんだろうが。あんまりウザイと、いい加減全員ブチ殺すぞ!!」
流石にウザったいと、ジオも威圧するように声を荒げる。
戦争での怨恨ほど、一度持ち出したらキリがないものはない。
そっちがそう言うなら、こっちだって、ならこっちも、となる。
ジオもそういった恨みつらみの気持ちは理解するも、だからといって黙って復讐される気はない。
襲われれば抵抗するし、あまり不愉快だとブチ殺すことも厭わないと告げる。
だが……
「ふっ、ふふ……これが、暴威の破壊神か……。レンピンの調べも一応は当っていたみたいだね……」
若者たちのリーダー格でもある、魔人族のカチグーミが頬に僅かに汗を流しながらも、ゾクゾクとした瞳で前へ出た。
「おい、口の聞き方に気をつけろよ、ガキが。こちとら、この直前にも五十人ぐらいのリザードマンをぶちのめして、まだ気が立ってるんだからよ。どいつもこいつも、いきなり俺の首を狙いやがって……なんだってんだ?」
カチグーミの態度に余計に眉を顰めるジオ。だが、ジオのその発言に対してカチグーミは苦笑しながら首を横に振った。
「ふふふふ、でも、あなたは勘違いしているよ。色々な連中に襲撃されていたようだが、別に皆、負け犬七天の復讐なんてつもりは全くなかったと思うよ?」
「……なに? ……えっ? 違うのか?」
「まろうって知ってますか?」
「まろ、う……ん?」
「なんだ、知らないのか。まあ、魔界独自の文化ですし、地上では知られてないみたいですね」
カチグーミの口から出たまろうの名称。ジオはまるで知らずに首を傾げるが、その時、ガイゼンだけが反応した。
「なに、まろうじゃと!? ……それって……魔界最強になろう……のことか?」
「ふふふ、そうさ。決まってるじゃないか」
「なんと……あの番付……まだ、あったのか……」
「勿論ですよ。そんなことも知らないなんて……あなた、暴威の破壊神の仲間のようですが、相当の田舎ものですね? あっ……ひょっとして、あなたがアレかな?」
「ん?」
「暴威の破壊神の仲間で、ガイゼンなんてふざけた名を名乗っているのは」
ガイゼンが口を開けて、どこか呆れたような表情を見せる。どうやらガイゼンは知っているようで、ジオもチューニもマシンもガイゼンの言葉を待った。
だが、ガイゼンが説明する前に、カチグーミが機嫌良さそうに笑いながら説明する。
「そう、魔界最強になろう……それは、善も悪も問わず、誰がこの魔界で最強かを決める……全魔族の投票で行われる、魔族の格付けさ!」
「……と、投票……格付け?」
「登録には自薦、もしくは他薦が必要だが、まろうに登録された魔族が己の功績や武勇伝等をまろうの協会に届け出て、魔界市民はその武勇伝を見ながら投票をしていく。そして現在、上を目指す者たちにとって狙い目となっているのが……あなただ、暴威の破壊神・ジオよ」
「……え? 俺? えっ、ちょ、待て。お、俺、登録されてんのか? そんなもんに?」
過去に魔王軍と戦ってきたジオだが、魔界のそんなシステムは全く聞いたことが無かった。だからこそ、そんなものに自分が知らないうちに登録される等、何かの間違いだと思った。
「暴威の破壊神。かつて、七天パスカルを倒すも、三年間その名が上がることはなかったが……最近になって、亡くなられた大魔王様の記憶操作魔法で帝国軍に地獄へ陥れられて、その後に解放されたことが発覚。憎しみや恨みを抱えた男だったが、復讐ではなく自由を求めて世界へ飛び出し、そして魔界へ。そういったエピソードに同情票も集ったりして、更にここ数日の活躍でランキング入りとのことさ」
しかも登録されているだけでなく、自身のエピソードまで公開されている。もはや開いた口が塞がらないと、ジオも深い溜息を吐いた。
「おいおい……マジかよ……アホらしい。魔界はそんなことやってたのかよ。つか、誰だよ……そんなアホみたいなシステム作ったのは」
「ふふふ、アホらしい? 何を言う。この伝統あるシステムは魔界の伝説にして、もはや大魔王様と同じでまろうの永久殿堂入りとなっている……闘神ガイゼンが作ったものさ! 君の仲間の偽物ではなく、本物のね」
そして、明かされた衝撃の事実。
ガイゼンがそのシステムを「知っている」どころの話ではなかった。
「「「…………ジト~……」」」
「……ぬわはははは」
ジオたちが、「全部お前の所為か」とジト目でガイゼンを睨み、ガイゼンも苦笑しながら目を逸らした。
しかし、それはそれとして、ジオにはもう一つ疑問があった。
「しかしだ、俺はそんなもんに登録した覚えはねーぞ! なんで俺が勝手にそんなことされてるんだよ!」
そう、そんなランキングなどジオは初耳だった。ましてや、自分がそんなものに登録されているなど知らなかったのだ。
なら、誰かがジオを登録したことになる。それは……
「なんだ、あなたは知らないのかい? あなたは他薦されてたよ」
「な、なに?」
「なんでも、『愉快な黒幕くん』という人物が推薦登録したそうだ。正体不明だが、協会にかなりの資金を提供するスポンサーという噂だ」
そして、ジオを勝手にそんなものに登録したのは、案の定聞いたことも無い人物だった。
だが……
「……まさかな……」
一人そういうことをしそうな人物が不意に頭を過ぎったジオだったが「まさかな」とその可能性を捨てた。
とりあえず、今は自分の身に起こっている現状の処理の方が優先。
「だが、そんなもんが何の意味があるんだ? つか、別にそんなもんで上位になったって嬉しくねーし、1位になったら何か意味でもあんのかよ」
「まぁ、意味としてはランカーになれば、名前を出すだけで色々と人が集ったり、優遇されたりするが……今、最も過熱している理由は、大魔王様が討たれたからさ。魔界で名を上げるには、まろうのランカーになるのが一番有効だからね」
名前を上げる。それは、ガイゼンが提案したジオパーク冒険団にてやろうとしていること。
天地魔界の全てに轟くようなチームにするというもの。
そして、それにはまろうが有効であり、大魔王が討たれたことにより過熱しているとのこと。
その理由は……
「数百年続くこのシステムも、最近まではトップ10は七天大魔将軍に五大魔殺界だけだった。僕ら学生や、戦争や抗争などに参加していない者では、名を上げにくい状況だった。でも……戦争が終わり、七天大魔将軍を始め、他の名のある英雄たちが何人も死に、ランキングが大きく変動した。更に、ここからもし五大魔殺界同士で潰しあったりすれば、トップ10入りどころか……ふふふふ」
戦争があった時代では、やはり魔王軍と七天という存在があったことからも、そのランキングの上位は七天などで固められていた。
だが、戦争は終わり、七天も崩壊し、魔界は……
「誰もが認めるだろう。この争いの果てにランキング1位だった者が……次期魔界の大魔王だということをね!」
正に今、次期の大魔王を決めるための総選挙を行っているようなものなのである。
「そして、その活動の一環として暴威の破壊神は狙い目なのさ! 倒せば話題性十分だし、何よりも話では四人組とのこと。普通、上位の者は、五大魔殺界のように数千人以上が所属するグループだったりで中々手が出せないが、ブランクありの、ましてや少数グループなんて、狙ってくださいと言っているようなものだよ!」
だからこそ、野心溢れる者たちが名を上げるために躍起になり、更には現在の上位である五大魔殺界に取り入って美味しい汁を啜ろうとするものや、うまく上位者で潰し合わせて漁夫の利を得ようとするなど、魔界内での覇権争いが勃発しているのである。
そして、目の前の若き魔族たちもまた、その流れに便乗して名を上げようとする者たち。
「カチグーミ! おい、来たぜ!」
「そいつが、暴威の破壊神か!」
「よっしゃ! やってやる!」
「うん、私たちが次の魔界を引っ張っていくんだから!」
酒場の外から聞こえてくる大勢の気配。数十人は居るだろう。
「さあ、話は終わりだ、暴威の破壊神! 僕たち魔王都市学生連合……『ネクストジェネレーションズ』が相手だ!」
名を上げようと野心に溢れた魔界のエネルギーが、魔界に来て早々のジオたちに襲い掛かろうとする。




