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第百八話 パンツ一枚の運命分岐

「鍵は閉めて、ワシの魔法で防音も完璧。誰も入ってこない。さあ、まずはパンツを脱いでワシに提出しなさい」

「ひっぐ、う、うぅ、う……うっ」

「聞こえんのかね? そして、さっきワシが教えたセリフも言うのじゃ。ひもじい思いをしている、幼い弟や妹が居るのだろう?」

「わ、かり……ました……」


 白いシャツにネクタイを締め、赤いブレザーを纏い、膝上ほどの長さのスカート。ソックスは膝まで伸び、可愛らしい制服の着こなし方をする少女。

 しかし、その少女の表情は涙で腫らしながら恐怖で震えている。

 両手をスカートの中に入れ、自身の下着に手をかける。その動作をするだけで、目の前に居るゲスな笑みを浮かべるガマガエルのような男は涎を垂らす。


「むむむ!?」


 しかし、脱ぎ終えた下着を男に差し出した瞬間、男の目じりが険しくなった。


「これは、けしからん。猫の柄ではないか。こんな子供っぽいものを穿くのなら、せめてニャーと言ってから提出しなさい」

「うぐっ、う、うう……」

「では、ワシが教えたセリフを、ニャーを使いながら言いなさい」


 涙を流しすぎて過呼吸になるほど、少女は追い詰められていた。

 しかし、それでも逆らうことが出来なかった。

 学費のため。家族のため。将来のため。

 それらを餌としてぶら下げられたら、母子家庭という事情のある彼女に抗えない。


「にゃ、にゃ~……せ、せんえぇ、こ、こんにゃ私の……」


 そんな少女が泣きながら呟く言葉に、下着を受け取った男は険しい顔をしながらも深く頷いていく。

 そして、少女が言い終わる前に、男は受け渡された下着を頭から被ろうとした……


「ん? …………ふごおおおおおおおっ!?」

「えっ、きゃあああああああっ!!??」


 そのとき、二人の居た部屋の窓を突き破って、巨大な枝が飛んできたのだった。




 歴史的にも文化的にも価値があり、魔導学術都市の名物である世界樹。

 若者たちの間では、卒業式の日に告白して結ばれたカップルは幸せになるという可愛らしい伝説まで広まっている。

 その世界樹の樹頭が消し飛んでいる。


「せ、世界樹が……」

「数百年以上も存在し続けた伝説の樹が……」

「魔族との戦争でも一切傷つかずに存在し続けた、歴史の生き証人が……」


 恐らく、広場にて戦いを見ていなかった者たちからすれば、何が起こったのかまるで分らないことだろう。

 何故なら、広場で一部始終を見ていたものですら、固まってしまっているからだ。


「私……今年の卒業式で……告白しようと思っていたのに……」

「勇気のない私は……伝説の力を借りないと……」

「私の両親はあの樹の下で結ばれて……私もいつかはって……」


 特にまだ学生の少女たちからは、悲しみが溢れていた。

 樹の下で告白して結ばれたカップルは永遠に幸せになるという伝説に憧れて、自分もそうなりたいという想いを抱いていた少女たちも多かった。

 何よりも、この学術都市の代表的な象徴を破壊されたショックは、この学術都市で学ぶ者たちにとっては誰もが同じであり、皆もしばらく固まったままだった。


「りりりりり、リーダぁァぁァぁ!?」


 先ほどまでの勇ましさから、元の情けない姿に戻ったチューニが慌ててジオを見上げる。

 すると、ジオはまずは気を落ち着けるために煙草を一服……


「す~……は~……」

「リーダーッ!?」

「お、おう……」

 

 しかし、現実逃避しても起こってしまったことは変わらない。

 するとジオはビシッとした表情で、ショックを受けている者たちに向かって叫ぶ。


「お前ら、伝説なんてもんはな、解き明かしちまえばこんなもんだ! 戦争でも一切傷つかず残った樹? 今日までたまたまショボい戦争しか周りで起きてなかっただけだ! ここにあったのは、何の樹だ? ただの大きな樹だ!」


 ビシッとした表情……しかし頬には汗が流れ出て、口調も早い。


「伝説に憧れて告白ぅ? 惚れた奴と幸せになれるかどうかなんて自分てめえ次第だろうが! そんなもんを大きな樹に頼ってるような腰抜けなんざ、最初から見込みねーんだよ! 幸せっつーもんは、樹なんかに頼らずに、自分たちで掴み取るもんだろうが!」


 ジオの叫びは、正直ただの誤魔化しでしかないことは、この場で聞いていた者たちにはよく分かった。

 唯一……


「うふふふふ~、あらあら、ジオ殿~、いいんですね~?」

「幸せは、掴み取るもの……どんな手段を使っても……ですね……♡」


 両目が「キュピーン」と光る、二人の白いエルフだけは真に受けた。

 だが、それでも大多数からすればジオの言葉は苦しく……


「リーダ~……もう、無理っぽいと思うんで……」

「ッ……う、いや、その……」


 ジオも自分でもこの言い訳や誤魔化しは苦しいとは理解しつつも、地上の代表的な象徴でもあり、値段など付けられるはずのない樹。

 もし、責任を取らされるとしたら、どれほどの罪になってしまうのか?

 溢れ出てくる汗が抑えられなかったジオだが、そのとき、あることを思い出した。


「そうだ、チューニ!」

「えっ?」

「お前、カイゾーの魔法を使えるようになってたな!?」

「えっ? あの、リーダー? ぼく、ボロボロで、え? あの? 何を? あっ……まさか、えええええ?」

「頼む! お前の力で元に戻してくれ!」


 植物を自在に操った、カイゾーの魔法。

 森林を操作して攻撃したり、巨大な樹木を出現させたり、地形を操作させたりした。

 その力を応用して、チューニはカイゾーも驚愕するほどの見事な水田を作ったりもした。

 ならば、チューニの力を使えば、樹頭のふっとんだ樹も再生できるかもしれないとジオは考え、倒れているチューニを脇に抱えてその場を離脱。


「行っちゃった……あいつ……マジで何なん? アホで……あちーやつで……」


 そんなジオの背中を、ギヤルは呆れながらも苦笑して見つめ、そして……


「チューニ……伝説の樹……どうして? どうしてこんなことに……許せない……あの人……」


 ジオに異様なまでの黒い感情を放つオリィーシ。

 そんな視線に気づかず、ジオは世界樹へ向かって走った。


「いかんいかん、早くしねえと賞金首になるんじゃねーか?」

「確かに、それは僕も非常に困るんで!」


 建物の屋根から屋根へと高速で飛んで移動しながら、世界樹へと目指すジオ。

 すると、そのとき、チューニが目を大きく見開いてあることに気づいた。


「ちょ、リーダーッ! あ、あそこ! あの建物!」

「ん? あれは……学校か? ……んん!?」


 世界樹の麓にある大きな建物。建物の前には大きな演習場などがあり、それが魔法学校であることは二人にもすぐに分かった。

 ただ、問題なのは、その建物の一部に、世界樹の一部だったと思われる巨大な枝が落下して窓を突き破っていたことだ。


「ぎゃああああああああああ! や、やべえええええ!」

「もし誰かが巻き込まれてたらアアアアアアア!」


 これはシャレにならない。

 慌ててジオがチューニを抱えながら、その建物へと飛び……


「おーーーーーい、誰も巻き込まれてねえかあああ!? 無事かーーーーー!?」


 急いでその部屋の中に入って、誰かが怪我をしていないかと叫ぶと……



「ふい~、びっくりしたわい……一体……ん?」


「「………………」」



 そこには、猫の柄の『マスク』を頭に被った珍妙な姿をした謎の人物がいた。

 そして、その後ろには、驚いて腰を抜かして泣いている少女が一人。

 その光景を見て、ジオは……


「あ、あんたが……その女を……助けたのか?」

「……ふぇっ?」


 部屋に居た謎の人物。

 ジオの問いかけに一瞬呆気にとられるも、すぐにハッとしたように……


「そ、そそそ、そうニャア! わ、ワシがこの学術都市の正義の味方、変猫仮面だにゃー!!」


 両手で猫のポーズをする太ったマスクの男。

 一瞬言葉を失うジオとチューニ。

 だが、二人は目を細めて……


「「その被ってるの……マスクじゃなくて……ひょっとして―――」」

「さ、さあ! か弱き少女よ、もう大丈夫にゃ! ワシが来たからには君には傷一つ負わせんにゃぁ!」

「「いや、そのマスク……パンツ……」」

「うむうむ、無事で何よりじゃ! まったく、急に樹がふっとんできて死ぬかと思ったわい! にしても、一体何が原因で―――」

「「いっ、いやいやいや、原因はどうでもいいんじゃないかな!?」」


 変猫仮面の被っているものは、マスクではなく女物の下着ではないか?

 そう思ったジオとチューニだが、話が事態の原因に飛びそうになった瞬間、慌てて誤魔化した。

 すると、変猫仮面に助けられた少女は……


「ひ、い、いや、た、助けてください!」


 もう既に助けられたというのに、何故かまだ助けを求めようとしている。

 その意味が分からずにジオとチューニが首を傾げると、変猫仮面は慌てたように少女の前で膝をつき、


「ふっ、ワシの姿形が人には理解できぬ醜いもの故に怯えておるか、すまんのう。しかし、君が無事でよかった」

「ひっ!? い、いや……」

「……ボソッ……お、おい、だ、黙っておれ。合格させてやるわい。授業料全て無償の特待生じゃ、頼むから……ボソボソ」

「へっ……?」

「そそ、そうじゃ、特待生の中でも更に優遇、三年間学食全部無料! これでどうじゃ!」

「ほ、ほんと、うですか? で、でも!」

「ええい、欲張りさんめ! ならば、十賢者のみに与えられる特別許可証! 都市の施設利用料全て無料、都市内の買い物全て50%OFF、休みの日に実家へ帰省の際は旅費全額都市が負担! これも付けてやるわい!」

「……は、えっと……は、はい」


 ものすごい勢いで変猫仮面は少女に耳元でボソボソと何かをまくし立てている。すると、涙を流して怯えていた少女も次第に落ち着きだしてきていた。

 その様子に、ジオとチューニは……


「「なんか怪しいような……」」


 何か、変な事情がありそうな気がする。

 そう思った二人だが……


「えっと、それで……結局、この状況は……あ、……ちょっと足に擦り傷……」

「「ギクッ!?」」


 涙が止まった少女が立ち上がろうとしたとき、ほんの僅かな擦り傷があったことに少女は気付いた。

 ほんの少しだけ切った後で、うっすらと血が少し出るか出ないか程度のもの。

 だが、傷の大きい小さいは関係なく、その原因となったのは、明らかに……


「「傷は無事かァアアアアアアア!!??」」


 とてつもない勢いで少女に土下座する、ジオとチューニ。

 突然現れた二人に、いきなり土下座されて少女も困惑してどうしていいか分からない状況。


「あ~、くそ、俺は治癒系の魔法はできねーんだ……チューニ!」

「ぼ、僕もそれはやったことも、されたこともないんで!」

「くそ、やべえ、傷口から菌でも入ったら……」

「化膿したりなんてしたら……」


 頭を抱えて少女の足の擦り傷に苦悩する二人。

 だが、少女からすれば全く大した傷でもないのに、そこまで悩まれても、むしろ戸惑うしかなかった。

 そして二人は……


「こ、こうなったら……ッ、これで今すぐ医者に診てもらってくれ!」

「余ったお金は慰謝料に使ってくれていいんで、ほんとすんませんなんで!」


 ジオとチューニはポケットから金貨の入った袋を鷲掴みにして少女に押し付ける。

 二人合わせて数百万マドカはあり、家庭が裕福ではない少女からすれば、生れて初めて見るほどの大金であった。


「え、ええええ!? も、もらえないですよ! なな、なんなんですか!」

「「いいから貰ってください! ほんとすんません!!」


 貰ってもらわないとむしろ困ると土下座する二人。

 大金を押し付けられ、困惑し、もう何が何だか分からないと、少女はしばらく目を回していた。

 そして……


「「「……ふぅ…………」」」


 そして立ち上がり、息を吐くジオ、チューニ、変猫仮面。

 三人は互いの顔を見合いながら……


「「「あ、あははははははは」」」


 三人はそれぞれ人には言えない事情を察しながら、深くは互いを追求せずに誤魔化すように笑った。

 そして……


「さ、さてさて、次の問題はあの世界樹だ」

「おー、ほんとそうなんで」

「これはこれは驚いたにゃー。世界樹の頭がふっとんでるにゃー」

「そういや、この部屋も修繕とかに金が……」

「そうなんで。この部屋の主は……」

「そ、そうにゃ! この部屋を破壊した罪は、必ず償っ―――」

「ん? なんか箱が落ちてるぞ? 少女たちのパンツコレクショ――」

「こっちにはノートが。……なになに? キラメイキ魔法高等学校オッパイ偏差値ランキン―――」

「この部屋の主が誰かなんて気にしなくていいにゃーーー! この部屋の主は太っ腹だから、修繕費も慰謝料も請求しないはずにゃーーーーっ!! メガファイヤー!」

「えっ? いや、なにこれ? いや、何で急に燃やすんだよ!」

「え、えええ? ちょ、変猫仮面、何で慌てて、うわ、何で燃やしちゃうんで!」

「気にするでないぞ……ないにゃー! そそ、それよりも……なんで世界樹の頭がふっとんでおるんじゃー!」

「えっ!? あ、いや、そ、それは……」

「ほんと、すんませんなんで……」


 互いに誤魔化し合いながら会話をする三人。

 そして、そんな会話をしながら……


「よし、チューニ。とにかくお前の魔力で、あの樹を再生させろ」

「いや、でも、うまくコントロールできるか……」

「いいからやるんだ、頼むッ!」


 ジオに言われて、仕方なくチューニもボロボロの体ながら両手を伸ばして、世界樹に向けて魔力を放つ。

 カイゾーに言われたアドバイスなどを思い出しながら、元の世界樹を想像する。


「って、すご!? な、ななな、何者じゃ!? なんちゅーとんでもない魔力じゃ!?」


 そのチューニが放った魔力量の大きさに、猫の語尾も忘れた変猫仮面が驚愕する。

 だがしかし、怪我の影響も大きく、すぐにチューニは膝を付く。


「うぐっ、ぐ……」

「チューニッ!」

「や、やばいんで、リーダー……ちょ、体が……」

「うわ~、マジいな……どうすっかな……」


 頼みのチューニもこの状況。何か手は無いかとジオが頭を抱えたとき……


「お前たちが何者かは知らぬが……しかし、この状況を越えようとする意志は理解した。ならば……ワシが手を貸す……にゃあ!」


 二人の窮地に変猫仮面が前へ出た。

 

「へ、変猫仮面?」

「少年、素晴らしい魔力と才能だにゃ。しかし、まだコントロールが甘い。ワシが補助をしてうまく導こう!」


 変猫仮面がチューニの伸ばした手に己の手を重ねて、魔力を流し込む。


「こ、これは! ま、魔力が……すごいスムーズに」

「ついでに、ワシの治癒魔法でケガも治しておこう」

「えっ!? あっ、怪我が……そんなことまで!?」


 チューニの魔法コントロールを手伝いながら、同時に治癒魔法まで使う。

 複数の魔法を同時に操りコントロールするという高難度の技術には、ジオも目を見開いて驚いた。


「変猫仮面、テメエ……只者じゃねえな」

「戦闘は苦手じゃが、ワシはこういうサポートは得意じゃ……にゃ~」


 見かけは異形だが、一流の魔導士。

 その力を借り、再びよみがえる世界樹は……若干、元のサイズよりも遥かに大きくなっていた。


 そしてこの事件をキッカケに、世界樹は大戦の頃から無傷で残っていたのではなく、傷ついても誰かが再生させていたのではないかという説が浮上して、後年まで続く議論が生まれたのだった。


 また、その一部始終を見ていた一人の少女、『テゴメ・サレーナイ』は、その後の授業料や生活費を一切気にすることなく勉学に勤しむことが出来、この時強引に手渡された慰謝料によって、傾きかけていた実家も立ち直りor立て直し、自分より幼かった弟妹たちもちゃんと学校に通って立派な大人になり、苦労を掛けた母に楽をさせる孝行ぶりを見せ、家族はいつまでも幸せに暮らすのだが……それはまた別のお話。


皆さま、いつもお世話になっております。

既に知っている方もいらっしゃると思いますが、一つ報告します。


東京の秋葉原にある、「スープカレーカムイ」様と本作の「被追放者たちのだけの新興勢力ハンパねぇ」がコラボすることになりました。


期間は明日の1月21日(月)~1月31日(木)まで。

コラボ特別メニューは、「4種の肉が入った俺たちのハンパねぇカレー」です。


4種の肉っつーことで、何話前かの話でジオとチューニが鶏肉やら子羊やらで議論してたのは、このコラボ企画があったから、その嬉しさのノリでやったものです。


ぶっちゃけ、コラボ云々を抜きにして肉好きとして私も食いたいです! しかし、大阪住まいでコラボ期間中は東京に帰れなさそうな私は行きたくても行くのがムズイ(泣)


小冊子も付いてくるそうです。


一応、作者のツイッターや下記の『特設ページ』でも宣伝し、カムイ様のホームページやツイッターでも上げて戴いておりますので、ご興味を持っていただいた方らはそちらを見て戴けたらと存じます。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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