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07


 小屋に隣り合うように作られた、管理に必要な道具が置かれる小さな納屋。

 そこへ老人が使った道具を片付けようとしている時、背後に現れたのは交代のためにやってきた男だった。



「お疲れ様ですおやっさん。交代しましょう」


「ああ、もうそんな時間だったな」



 普段と変わらぬ時間に現れた男は、ここ数日と同じように周囲をキョロキョロと見回す。

 おそらくはフィオネの姿を探しているのであろうが、残念ながら既に帰宅した後だ。



「あの子供ならとっくに帰ったぞ。今日も見逃したな」


「いえいえ、そっちもなんですけどね。こないだ来たかわいいメイドさん、またお目にかかれないかと思ったもんで」



 鼻の下を伸ばしながら、臆面もなく言い放つ。

 確かに老人から見ても、トリシアと名乗ったメイドは男ウケのしそうな容姿をしていた。

 既婚者であるこの男とて、美人に弱いという点で、他の男達と大差はないのだろう。



「まったく、嫁さんに聞かれたらただじゃ済まんだろうに」


「ええ、本当に。ですからうちの嫁さんには黙っててくださいよ」



 とは言うものの、実際告げ口をするような時は来ないであろう。

 老人はこの男の妻とされる女とは、一度たりとて面識がない。

 これといって会うだけの用事がないだけではあるのだが。




「ところでおやっさん……それどうしたんスか? 随分と気合の入った作業したみたいですけど」



 男は老人が納屋へ仕舞おうとしていた、道具の数々を指さす。

 その先に有るのは大振りな鋸や金槌に釘、分厚い木の板。そしてブロック状の石材などだ。

 小屋の雨漏りをなおしたり、ちょっとした道具の修繕などはすることはある。

 だが特に石材などの、重い品を扱って何かをする機会というのは、そう多くはない。

 使うとしても、歳を重ねた老人には厳しく、男に手伝ってもらうなどすることがほとんど。

 老人一人で何かをするという場合は、非情に稀であると言えた。



「ああ……。あの子供が入って来てた大穴を直したからな。もう入って来るこたねぇだろう」



 若干の名残惜しさを感じながら、老人はその顔に刻まれた皺を深くして答える。

 あくまでも応急処置として、石を組み木材を打ち付けただけではあるのだが。



「ええ!? そりゃまたどうして。おやっさん、そのダークエルフの子供を気に入ってたみたいだったじゃないですか」



 確かにそうなのだろう。

 確かに家族を思い出させるフィオネとの交流ではあったが、いつまでもそれを続ける訳にもいくまい。

 老人はフィオネに仕えるメイドと約束をしたのだ。

 例の娘が帰ってきた時が、自由にここへと出入りするのを終える機会であると。


 それに会おうと思えば会えるというのに、現実の家族と顔を合わせず、手近な子供でその欲求を昇華させるというのもおかしな話。

 老人にとっても、区切りをつける良い機会なのであろう。



「こっちにも色々事情がある。いいからサッサと交代してくれ、わしは疲れとるんじゃ」



 邪険にするように、男へと背を向けて一方的に告げる。

 いまいち納得のいかない様子を示しながらも、男は夜間の見回りに使う道具の準備を始めた。


 その直後、老人は男に対して告げておかねばならぬことを思い出す。

 フィオネとの交流によって芽生えた、老人の細やかな願い。それを成すために。



「なあ……」


「んー? なんスか、おやっさん」


「明日にでも内務府に出向いて、わしの後任を見つけるよう進言しておく。任せられる奴が見つかったら、すぐにでも引退するぞ」


「……急にどうしたんスかおやっさん。この仕事は自分の誇りだから、死ぬまで続けるって言ってたじゃないっスか?」



 老人の告げた内容に対して、男は僅かな驚きを露わとしながらも、淡々と問う。

 ある程度、そういった言葉が口を衝く日が来ると、予想していたようではある。


 都に住む多くの住民が使う水を管理するという仕事。

 確かに男に言われた通り、老人はその役割に対してずっと誇りを抱いてきた。

 願わくば最後の時まで携わり続け、この小さな小屋で一生を終えても構わないと思うくらいには。

 ほんの数日前までは、疑いもせずそう考えていたのだが。



「そろそろ身体にもガタがきとるんだ。長年都の水源を守り、支え続けた自負はある。だが動けなくなる前に後進へと道を譲るのも、老骨の役割かと思えてきてな」



 口に出た通りの考えが、実際にない訳でもない。

 だが本心の部分では、自らそれを辞そうとするのは家族への想いがあってのものであった。



「それに家にも長く帰っておらん。勝手に家を空けておいて言うのも今さらだが、余生は家族と過ごすのも悪くはなかろうて」



 ついでといった体で発した言葉ではあるが、本心はこちらなのであろう。

 それは男もある程度察したのか、引き止める言葉を継げずにいる。

 老人が長年ここで真面目に励んでいたのを知っているし、そろそろそういった我を通しても、許されると考えたがためか。



「わかりました。後は任せて下さい、おやっさんに怒られないよう管理しますんで」


「ああ、頼んだ。まぁ……後任が見つかったらの話ではあるがな」



 男の言葉を聞き、老人は満足気に頷く。

 その様子は穏やかであり、長年背負い続けた肩の荷を下ろし安堵したかのようでもあった。



「だがこいつは渡さんぞ。わしの相棒だからな!」


「わかってますって、さすがにそいつまで置いてけとは言いやしないっスよ」



 屈んで老犬の首に腕を回し、はっきりとした口調で言う老人。

 その様子に、男は苦笑を向ける。

 一人と一匹。老いた相棒同士、長年の健闘を称え合うかのように頬を寄せ合う。

 しかしその表情は穏やかながらも、やはりどこか一抹の寂しさを湛えているようでもあった。





 その日の午後、食事を終えたフィオネは屋敷の外庭で、シルヴィアの腕を引っ張り歩く。

 昨日老人と約束した、シルヴィアを連れて行くという約束を果たそうとして。

 シルヴィアの怪我は与えられた痛み止めが効いているのか、歩く姿に痛そうな様子は見られない。

 とはいえ怪我の痕跡は脚に巻かれた包帯として、今もなお残っている。

 歩くにせよ、急がせてはならないというのはフィオネも理解していた。

 しかしどうしても逸る気持ちからか、自然と歩みが早くなるのを抑えられない。



「こっち、こっちだよシルヴィー!」


「わかったから、もう少しゆっくり歩いてくれよ」



 シルヴィアの宥める声も然程効果を現さない。

 フィオネの歩みは徐々に早くなっていき、グイグイと幼い身体に似合わぬ力強さで引っ張る。

 引っ張られるシルヴィアではあるが、時折足元が覚束なくなりながらも手を引くフィオネに抵抗する気配はなく、むしろ笑みを浮かべてさえいる。

 長く屋敷を留守にし、フィオネに寂しい想いをさせていた贖罪の意図で付き合おうと考えているようではあった。


 庭から木の陰に隠れた塀の穴へ。

 そしてここにきて若干渋るシルヴィアを押し込め、フィオネは屋敷の外へと出る。

 外に出たシルヴィアの目が若干鋭くなり、周囲を見回すのを目にしたフィオネが、どうしたのかと問う。



「ん? なんでもないよ。でも外は危ないかもしれないから、気を付けて行こうね」



 そこから「何かあったらすぐ逃げるんだよ」と言うシルヴィアの言葉に、フィオネはその意図への理解が及ばず首を傾た。


 シルヴィアの手を引き、上街区の外れへと向かう。

 道に現れた、大きな金属の格子扉の前を通り過ぎ、白壁で囲まれた広い敷地をぐるっと外周に沿って周る。

 その先に在る、道の突き当りの壁にぽっかりと空いた抜け穴へ。

 フィオネはそこへと、シルヴィアを案内するはずであった。




「えっと……ここ?」



 シルヴィアの問う声が、柔らかな午後の日差しを受けた、静かな住宅地の中で響く。

 その声に反応すらせず、言葉無くただ立ち尽くすフィオネ。


 呆然としたフィオネの目線の先、そこに建つのは何の変哲もない、ただの白い塀。

 塀の一か所へと視線を移すと、そこだけは少々不自然に、大雑把な補修の跡。

 穴があった場所には、石のブロック。

 外部から人が入って来ぬよう、対策として講じられたものであるのは明らかであった。




「…………」


「……フィオネ?」



 何度かシルヴィアに名を呼ばれるも、それに対して返事もできず、ただただ混乱する。

 どうして、確かにここにあったのに、明日も来るって言ったのに。

 そんな言葉が頭を駆け巡り、どうしてよいのかわからず、ぐちゃぐちゃに混ざり合った想いが爆発した時。

 フィオネは言葉も無く駆け出していた。


 自身の背に向けられる、シルヴィアの声すら耳に入ることもなく、来た道を塀に沿って走る。

 他に入口はないか、場所を間違えてはいないか。

 延々と続く白い塀を見つめ、ただがむしゃらに。


 大きな格子扉の前を通り過ぎ、シルヴィアを置いて来たのとは反対側へ。

 そちらの端まで走るも、やはり昨日まで潜り込んでいた穴は見つからない。

 踵を返して再び道を戻れば、水源への正門である格子扉の前には、怪我した脚でフィオネを追いかけてきたであろう、シルヴィアの姿があった。



「どうしたんだ急に。さっきの場所じゃなかったのか?」



 心配して追いかけ、かけられたその声もフィオネには届かない。

 格子扉に飛びつきその向こうへと広がる林や草むらを見るも、そこに人の姿は見えなかった。

 水源地の敷地はそれなりに広く、その向こうへと在るであろう作業小屋や泉も、フィオネの視界には映らない。



「おじいちゃん! おじーちゃん!!」



 叫び、格子をガシャリガシャリと揺らすも、その声はただ白昼の住宅地に響くのみ。

 狭い格子の隙間へと身体を押し込もうとするも、流石に幼子の身とはいえそれは難しく、乗り越えるにはあまりにも高い。

 いきなり暴れ始めたフィオネに、着き沿うシルヴィアは訳が分からない様子で困惑する。

 とりあえず宥め止めさせようとするも、効果は得られぬようであった。



「おじいちゃん、フィオネだよ! あけてよ!」



 全身の酸素を絞り出すかのように、ただひたすら叫ぶ。

 叫び、格子を揺らし、また叫ぶを繰り返す。


 接点となっていた穴が老人自身によって塞がれたのであると、幼心にもフィオネは気が付いている。

 ここ数日ずっとついて歩き、何度となく老人のする仕事を間近で見続けてきた。

 ああいった重い作業を見た事はなかったが、それが親しんだ老人の手によるものであると、直感的に察していた。



 幼いが故にであろうか、フィオネには元いた世界での記憶がほとんど残っていはいない。

 おぼろげな記憶に時折よぎるのは、どこかしらの建物の中を、誰かに手を引かれ歩いていた光景のみ。

 その相手も顔には靄がかかったようであり、ハッキリとは思い出せない。


 そんなうっすらとした記憶ではあるが、フィオネは金切り声で叫びながら、確かに思った。

 また(・・)だ。また捨てられたのだ、自分はいらない子なのだと。


 そんな言葉がよぎった直後。

 バチンと、音を鳴らすかのように、内から何かが弾ける感覚。

 その感覚と共に、フィオネの視界は急速に霞んでいく。

 格子を掴む手には力が入らず、声も出せない。

 ゆっくりと視線は宙を向き、倒れ行く身体にはふわりとした誰かに抱き抱えられる感触。

 周囲に建つ壁の色と同じく、白み始める視界の中で、ただ自身の名を呼ぶ声だけが聞こえていた。






 住宅地の通りで、急に暴れ始めたフィオネが意識を失ってから五日。

 翌日の朝には目を覚ましはしたフィオネではあったが、それまでの屋敷は大あらわであった。


 というよりは、シルヴィアが一人で混乱に陥っていたと言ってもよい。

 気を失ったフィオネを抱きかかえて走り、怪我した脚から再び血を流しながら屋敷へと帰り着いた。

 姿にトリシアは驚愕し、執事のブランドンは珍しくその表情を青褪めさせていたのが印象的ではある。


 心臓発作でも起こしたのかと思い、人工呼吸を試みようとしたり、何故かトリシアに喪服を用意するよう頼んだり。

 その時のシルヴィアは、これ以上ない程のパニックを起こしていたのは間違いないであろう。

 結局フィオネは何がしかの精神的なショックから気絶してしまっただけで、身体そのものに異常は見当たらない。

 生命になんら別状はないと聞き、安堵したシルヴィアではあった。

 だがそれをネタに、数年先まで延々といじられ続けるのだろうと考えると、ウンザリとする想いから嘆息するのを抑えられない。




「シルヴィーも遊ぼうよ、楽しいよ!」


「脚がちゃんと治ってからな! それまではその子と一緒に遊んでな」



 フィオネの誘いを、まだ治りきっていない脚の怪我を理由に辞退する。

 庭を駆け回るフィオネの足元へと纏わりつく者に、今のところはその役目を任せてしまってもよいであろう。



「すみません、シルヴィア様。わざわざ子犬を見つけてきていただいて」


「別に構わないよ。俺がしたのはベルナデッタに相談してみただけで、実際に探してくれたのは彼女だ」



 フィオネが外で遊ぶのを許可されるまでの間に、トリシアはこれまでの経緯を説明していた。

 シルヴィアの不在により寂しがっていたため、あえて抜け穴を塞がずにいたこと。

 老人と打ち合わせ、戻ってきたタイミングで区切りをつけると決めたことなどを。


 それを聞いたシルヴィアが、ベルナデッタの伝手で譲り受けたのが、今まさにフィオネとじゃれ合い遊んでいる白い子犬であった。

 もしまた何がしかの事情で、自身が屋敷を留守にする時があったとしても、フィオネが寂しくならないようにと。

 ただ子犬を与えるという行為が本当に正しかったのかは、シルヴィア自身にも今もって判断はつかない。




「結局、綺麗さっぱり覚えてない訳だ……」



 子犬と共に走り回る姿を、シルヴィアは中庭の隅に置かれたベンチへと座りながら眺める。

 念の為に二日ほど安静にさせていたフィオネではあるが、今は見ての通り、元気に庭を駆け回り、これといった異常は見られない。

 しかし目を覚ましてから事情を問うも、フィオネはそれまでの経過のほとんどを覚えてはいなかった。

 シルヴィアを連れて水源地へ向かったことだけではない。

 これまでどうやって入っていたのか、何がきっかけだったのか。そして誰と会っていたのか。



「残念ながら。申し訳ありません、私もまさかフィオネ様があそこまでショックを受けられるとは……」


「いや、普通はそう思うんじゃないか? トリシアは悪くないはずだよ」



 老人によって、繋がりとなっていた抜け穴が塞がれているのを見た時、フィオネが何を想っていたのか。

 シルヴィアにはそれを知ることは叶わない。

 ただ意識を失う程に錯乱し、すっぽりと記憶が抜け落ちてしまうなどという事態を想定するのは難しかったであろう。

 トリシアに対してその点を責めるつもりは毛頭なかった。



「向こうさんもそんなのは予想出来なかっただろうし、たぶん誰も悪くはないさ」


「そう言って頂けると助かります」


「でも、俺もちょっと会ってみたかったな。その人に」



 少々惜しいという気持ちが、シルヴィアの内に存在しなくはない。

 一見怖そうな人物であるとは聞いているが、フィオネが懐いていたあたり、決して怖いばかりの人でもないのだろうと。

 それに今では妹も同然の少女が世話になっていたのだ。

 礼の一つも言っておきたかったというのもある。




「それにしてもさ、一人で外に出すのを承知したってことは、護衛が居るのを知ってたんだよな、トリシアは」


「それは勿論、ある程度職務上必要な情報ですので」


「ある程度ってのは?」


「そうですね……。ブランドン様がその任に就かれているのを、知っているくらいでしょうか?」


「ほとんど知ってるってことじゃないか」



 言って小さく苦笑するシルヴィアへ、「そうとも言えますね」と返すトリシア。

 確かに仕える立場として、知っていてもおかしくはない。

 この広すぎる屋敷に、何故かは知らぬがメイドがただ一人だけ。

 事情を知る人間を極力減らしたいという思惑があるのだとすれば、逆にトリシアがそれなりの情報に触れている可能性もまたあるのだろう。

 現に、屋敷で暮らす者たちの正体などについては知らされていることでもある。



「そういえばブランドン様の話では、シルヴィア様の先日の件もあって、護衛役の人数が多少増やされるそうですよ」


「本当に? それは頼もしい……のか?」



 笑いながら周囲を見回すが、視界にはそれらしき人物は映らない。

 ただそれに気付かないだけで、確かに居るのだろう。

 その中にシルヴィアの護身技の師とも言える、ジーナが含まれているかは定かでないものの。

 だが実際には見えていない方が助かるというのも事実。

 四六時中見張られていると認識できるようでは、おちおち気の休まる暇もない。


 ただそこまで信用して良いのか、そういった考えがなくはない。

 現実として彼らは、過去二回もシルヴィアの護衛に不手際があったのだから。

 ある程度仕方のない事情や、自身が招いた種も有りはするので、シルヴィア自身あまり責めるつもりはなかったが。



「面倒事に突っ込んでいき易い性質(たち)の方が、一人いらっしゃるようですから」


「別にワザとじゃないんだけどな……」



 トリシアに半ば窘められているような気になり、どこか居心地の悪さを感じた時。

 シルヴィアの足元へと何かが触る感触。

 見れば、今までフィオネとじゃれ合って遊んでいたはずの子犬が。

 白く短い毛並みの子犬は、ハァハァと舌を出し、遊んでくれとばかりにシルヴィアの怪我した脚へと身体を擦りつける。



「すまないな、これから先フィオネが寂しくないよう相手してやってくれよ」



 若干の痛みを感じながら子犬を抱き上げて、フィオネに聞こえぬよう呟く。

 まだ子犬であるというのもあろうが、人に慣れるのが早い犬だ。フィオネとも仲良くしてくれるに違いないと思い安堵した。

 とはいうものの、やはり人と比べてもずっと短い犬の寿命。

 長命なダークエルフであるフィオネと比べれば、共に過ごせるのは一瞬とも言える期間であろう。

 長くとも、十数年といったところか。



「フィオネ、この子の名前は決めたのか?」



 子犬を追い駆け寄ってきたフィオネへと問うと、思い出したかのように首を捻って呻り始める。

 どうやらまだ決めかねていたようだ。



「早く決めてあげないと可哀想だろう」


「かんがえてるよ! かんがえてるけど……」


「……そうだな、悪かった。折角家族になったんだ、しっかりと良い名前を考えてやりなよ」



 急かすのを止め、じっくりと考えるよう促す。

 シルヴィアが抱き上げる白い子犬を見つめ、長考に入ろうとしていたフィオネであったが、少しすると良い名が浮かんだのであろう。

 明るく表情を開かせると、子犬を渡してくれとせがむ。



「きめたよ! きみの名前はね……」



 渡された子犬を両の手で空へと掲げ、フィオネはその名を叫ぶ。

 その様子をベンチに座り微笑ましく見ていたシルヴィアへ、隣へと座るトリシアはどこか寂しげに呟いた。



「同じですね。あの方が飼われている犬の名前と」


一応これで今章は終わりです。

同じくらいのペースで次以降も投稿したいところ。

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