学生活動編④ 牧場デート注意報
1人でヘンリー野郎の魔の手をかいくぐり、滝の裏から脱出して、早足で校舎に向かう途中でアランに会った。
私を見つけるなり、「リョウ」と声を出してこちらに駆けつけてくれた。
アラン、すっごい汗かいてる。……探してたのかな?
「アラン、どうしたんですか?」
「なんか、リョウがいつもと様子が違ったから、探しにきた……。べ、別につけてきたわけじゃないぞ! ただ、途中で心配になって、探してたんだ」
以前ストーカーしてきたことを怒ったから、ついてきたかどうかには敏感な彼だ。
必死に弁明してる辺りが怪しいけれど、本当についてきてたのなら、ベストオブストーカーのアランが見失うはずないから、きっと本当に途中で心配になって探しにきてくれたんだろう。
「……ありがとう、アラン」
私が、素直に感謝の言葉を述べると、アランは訝しげな顔をした。
「やっぱり、元気がない。顔色も悪いし……大丈夫か?」
ヘンリー野郎ショックからまだ立ち直れない私に、心配そうにしてくれるアランの言葉がすごく嬉しかった。でも、チラチラとヘンリーのゲス発言が脳裏をかすめる。
魔法使いにとっての私達は……。
「ねえ、アランは……私のことを、どう思ってますか?」
「えっ! と、突然なんだよ!」
と言って、アランがあたふたとしはじめた。
ああ、駄目だ私。ヘンリーがあんな考え方をしてるから、他の魔法使いがどう思っているのか……疑ってしまった。アラン、ごめん。
アランは友達だ。アランもきっと同じ気持ち。今まで一緒にいたんだから分かる。それを疑うのは、逆に失礼だ。
「いえ、ごめんなさい。アランは、私の大切な友達、ですもんね」
そうだ、家畜とかそんな風に思ってない。
ヘンリーは特別だ。多分、この世界には下衆界というのがあって、ヘンリーはそこの王子的な感じに違いない。
アレを魔法使いの基本と考えるのはやめよう。
アラン、キミの友情を少しでも疑ってしまってごめんよ! そう思って、アランをみると、なんか不満そうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「友達、だけど、でも……なんか……」
なんか言いにくそうにしている。
あ! そうか……私とアランって……。
「そうでしたね、アラン。私と貴方は親分と子分の関係でもありましたね」
「いや、そうだけど、そうじゃなくて! それなら友達のほうがまだしっくりする!」
アランは照れて、キャンキャン吼えてきたけれど、大丈夫親分は分かってるよ!
この生粋の子分体質め! 仁侠映画とかがお好きな口だね!
ああ、よかった。アランと話してたら少し気分がマシになってきた。
どうにか精神力を回復しないと。
だって今度、ヘンリーの野郎と牧場デートしなくちゃいけないんだから……。
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次の休みの日、私はヘンリー野郎に連れられて、王都の牧場に来ていた。ああ、これがもしヘンリー以外のイケメンだったら、牧場デートだ、わー嬉しい! って騒げたはずなのに……。
この前は変態を前にしてちょっと声を荒らげちゃったけれど、あんまり荒ぶるのはやめよう。
王族と敵対しても、あんまり良くなさそうだし。穏便にすまそう。
隣のヘンリー野郎を見てみると、牧場に飼われている牛や豚たちが大変可愛いみたいで、目をキラキラさせて幸せそうな顔をしている。
まあ、牛も豚も、可愛いところあるよね。私も結構動物好きだし、気持ちは分かるよ……。ただ、家畜に餌をやる牧場主のおっちゃんにも、動物を可愛がるような目で見るのはやめてくれる?
ヘンリー下衆王子は、この牧場が結構行きつけの牧場のようで、牧場主とも顔見知りだった。
顔パスで牧場内にお邪魔させてもらって、ケージの中で動物とも触り放題。触れ合いコーナーになってます。
あ、でも子豚とかマジ可愛い。
前世の時に、学校の遠足で、牧場に行ったことがあったなー。乳搾り体験とかね、結構面白かった。
私が、子豚ちゃんが可愛すぎてなでなでしていると、ちょっと離れたところから、温かい視線を感じた。
「いやー、やっぱりいいね。動物達が戯れている姿って言うのは」
と、私と子豚を見ておっしゃるゲス王子。
やめて! 同じ動物枠に私を入れるのはやめて! 確かに子豚は可愛いけれど! 可愛いけれど!
でも、おさえるんだ。私、今日は心穏やかに過ごすんだ。
「ゲス……じゃなくてヘンリー様は、この前人身紹介所にきてましたけれど、結構行くんですか?」
「ああ、時間があれば、見に行くよ。牧場にもよくいくしね」
ねえ、さり気なく、人身紹介所と牧場を同じ立ち位置の施設みたいに会話してくるのやめてくれる?
「……そこで、人を買ったことがあるんですか?」
「あるよ。そのための店だろう?」
まあ、そうなんだけど。
「買って、どうするんですか?」
「人は労働力になるからね。使用人にしたりが多いかな。どうやら収集癖があるみたいで、いいものを見つけれると、目のつくところに置きたくなるんだ」
やめろ、変な性癖晒すな。
でも、使用人にするっていうと、結構、普通だね。……どんな仕事させられてるのか分からないけど。
「まあ、この前みたいに、自分の趣味じゃなくても、面白そうなら買うこともある。ああ、やっぱりあの時買えばよかったかな。アレを欲しがっていた彼がいったいどんな顔をするか、見たかった」
やっぱりゲス王子、趣味が悪い!
「意地が悪いですよ。人も家畜も同じぐらい愛してくださってるんではなかったんですか?」
「ハハ、愛してるよ! だからこそだ! ちょっとしたいたずら心だよ。楽しいだろう? 豚は美味しいお肉になる、人間は楽しいおもちゃにもなる。役割分担というやつかな」
ゲス王子は、そういって、私と子豚ちゃんを交互に見た。
何が役割分担だ! やめて! 私と豚を見比べて言うのはやめて!
「趣味が悪いと思います! あの女性を買い直しに行くのは、絶対にやめてくださいね!」
「いや、そんな、今さら行ったって……きっとあの雄に買われてしまっただろう」
雄……? ああ、ジョシュアさんか。お金を貯めて迎えにいくっていってたもんね。
でも、あの人本当にお金なさそうだし、まだお金の工面うまくいってなさそう。ギリギリまでかかりそうな雰囲気だった気がしたけどな……。
ちょっと考えてる私に気づいたのか、ヘンリーは話を続けた。
「だって、あの雌は、処女性をうりにしていた。もし私があの雄の立場なら、あの日の夜にあの雌の処女を奪って傷物にする。そして次の日何食わぬ顔で店に行って、店の管理体制を批判して安く買い叩く。一番堅実なやり方だろう?」
お願いだからそんな無邪気な笑顔で、そんなゲスイこと言うのやめて。堅実の意味知ってる? あと、雄雌呼ばわりするのやめて。ほんと、やめて。
「多分彼は、そんなこと思いついていないと思いますよ。なんといいますか……なかなかそんな下劣な発想は思いつきませんし、行動もできないでしょう。どうにかお金を工面して、彼女を迎えにいくと、思います」
私がそう言うと、彼は「そうかなー」と言って、首をかしげた。
うん、なんていうか、この人ネジが1本どころじゃなくて、何十本も外れてる人なんだね。
もうあんまり、この人のことを深く考えるのはやめておこう。考えを理解しようとして理解できるものじゃない。変態なんだよ。変態の考えを理解するのはきっと難しい。
そうなると、やっぱり一番気になるのは……。
「ヘンリー様はよく、カイン様と一緒にいますけど、カイン様のことはどう思ってるんですか? その、カイン様は、ヘンリー様の考えをご存知なんですか?」
私は、二人は友達だと思ってた。だって、仲良くしていたじゃないか、話しかけて一緒に食事をして……。
「ああ、カインのことかい? あれは最高だ! 人間は、美しく、健康で丈夫、そして従順なものが理想だ。そう考えると、カインは優秀な家畜だと思わないかい? カインにはそんな話をしたことはないけれど、きっと理解はしていると思うよ」
「思いません!」
思わず鼻息荒く答えてしまった。だって、カイン様を侮辱するのは許せない! それがたとえ、侮辱したと、思っていなかったとしても。
「ああ、リョウは、家畜だと思われるのが嫌なのか……。人間の中にはたまにいるよね。豚や牛やヤギ達は、ちゃんと理解しているというのに……」
そんな残念なものを見るような目で私を見るのはやめて! 私だけじゃなくてほとんどの人は同じ考え……多分!
「それに、カイン様は、確かに美しくって、強いです。でも従順とはすこし違う。ヘンリー様が間違っていると思ったら、間違っているっていってくれる人です」
「そうかなぁ……。まあ、いいよ。ここ数年はカインが一番のお気に入りだったが、他に面白いものを見つけた。ひよこちゃん、また私とこうやって話をしてくれるかい? キミがやりたいと思っている活動……たしか図書館の本を読めるようにとかだったかな? 家畜に必要なことだとは思えないが……協力するよ!」
そういって、ウィンクをかましてくるゲスが本当にイラっとする。
ああ、もうほんとヤダ。この人といると、調子が崩れるって言うか、腹立つ。
「いいえ、協力は結構です! ゲスリー様が、私の活動の邪魔をするって言うから仕方なく、今回は牧場に一緒に来ただけです。約束なんですから、邪魔だけはしないでくださいね!」
私がどんなに強く言っても、ゲスリーは堪える様子もなく「ゲスリーって私のことかい? おかしな名がつけられたものだ、ハハ」と、笑っている。
ああ、もう早くどっか行きたい。あ、この勢いで帰ろうかな! と、思っていたら、ゲスリーがゆっくりと近づいてきた。彼の両手が私の頭の方に伸びてきている。
私が山暮らしの敏捷性でもってさっと避けると、彼は面食らったような顔をした。
「避けないで。すごく毛艶がいいから、触りたくなっただけだよ。優しく撫でるから」
だ、だから品評会みたいに私を査定しないでってば! ゲスリーに撫でられるために髪の毛を綺麗にしてるわけじゃない!
「なんですか、突然! 嫌です。触らないでください! 私、もう帰ります!」
私はこの勢いに便乗して、1人で帰ることに決定した。
デート中に女性に失礼を働いたんだから仕方ない。私はスタコラときびすを返して、進む。
どうにか途中で、乗り合い馬車とか拾って帰ろう。ここから学園まで結構遠いんだよなーとか思っていたら、ヘンリーの声が聞こえた。
短歌を詠っている。
やばい、呪文だ。
私は、振り返る。ヘンリーとの間は結構距離が離れているので、適当にスカートの中のものを投げつけようとしたけれど遅かった。足がスムーズに動かず投擲に失敗する。
足元を見ると氷に覆われていた。足が動かない。魔法だ。間に合わなかった。
「そう暴れないで。学園まで送っていくよ。さあ、私の手をとって、そしたら魔法を解いてあげる」
そう言って、レディーをエスコートする紳士のように、手を差し伸べてきた。
いつ見ても、爽やかな笑顔だ。
手を振りまわして、彼の綺麗な顔にキズをつけようかとも思った。でも、それをして、何になる? たとえばスカートの下の秘密兵器で、彼を傷つけたとして、それが何になる?
こんなところで、無茶をして、学校を辞めさせられたら? コウお母さんにも迷惑がかかるかも……?
でも、無意識に逆らえなくなってるようなそんな考えが、まるで家畜なんじゃないのかと思って怖くて……。
そうだ、もともとこの国は、爪も牙も全部捨てて、飼いならされた人間達が魔法使いの周りに群がって出来てる国だ。それも事実……でも。
私は大人しく彼の手に自分の手を重ねると、呪文を解いてくれた。
足が自由になる。
「キミは確か、リョウと言ったね。キミもきっといつかは理解する。魔法使いに従順であることが、人間達の幸福に繋がると言うことにね。だから、リョウの毛を撫でるのは、キミが私に撫でて欲しいと擦り寄って来た時にとっておくことにするよ」
そういう彼に、私は黙ってエスコートされた。
飼いならされて、群がる人間達を見て、魔法使いが家畜だと思うのは、当然なのかもしれない……でも、やっぱり、気に食わない!
足元にあった豚の糞を足先だけでリフティングして、こっそりゲスリーの服のポケットの中にループシュートを決めながら、大人しく手を引かれて馬車まで進む。
ゲスリーめ……家に帰ってから、『やだこの人ポケットに糞入れてるくさーい』とか言われて、家族や使用人に嫌われてしまえっ!!









