新入生編⑮-カテリーナ派閥の奇襲ー
その後は、何事もなく法力流しという名の結界点検作業は終了し、野外で一泊してから学校へ戻った。
基本的には、国の魔法使いが、この法力流しをするために各領地を回るらしい。魔法使いは相変わらず色々と大変そうだね。
おやつのために作って持ってきたクッキーはおいしかったから、1人で全部食べてしまった。本当は、皆に配って、『こんなにおいしいお菓子初めて! さすがリョウ様!』って言われて『サスリョウ』の名を欲しい侭にする魂胆だったのに……。もうちょっと多めに作ればよかった。
と言うことで、今はものすっごく生徒の数が少ない講堂で、魔法史の授業を受けるため席についていた。今週の学校は基本的に朝の魔法史の授業以外はお休み。なぜなら、人によっては、法力流しの見学会が5日間かかるケースがあるからだ。
多分移動時間的なものだと思うけれど、あの作業をするために5日間かけてお出かけするって言うのは……なんか大変そう。
私は、少し早めに席についてしまったので、暇をつぶすために魔法史の教科書なんかをぺらぺらめくっていた。アランもシャルロットちゃんもリッツ君もいないからポツンと座る私、寂しい。
「こちら、座っても?」
教科書をペラペラ捲っていた私は、突然の声に顔をあげる。そこには意外な人物が……。
「サ、サロメ様? 御機嫌よう。座るのは別に構いませんが……」
ちょっとびっくりした。声をかけてきてくれたのは、泣きボクロがセクシーな女の子、サロメ嬢。だいたい、いつもカテリーナ嬢の隣にいる子だ。
カテリーナ派閥が、私が1人の時を狙って奇襲を!?
内心ビビッている私だったけれども、隣に座ることを思わず許してしまったので、優雅な動きで、サロメ嬢は席についた。
やばい、超ドキドキする。
「リョウ様、私ね、あなたとずっとお話してみたいと思っていたの」
そういって、サロメ嬢は机に肘をついて手の甲の上に顎を載せて私を見てきた。
ちょっと上目遣いになるその目のなんて色っぽいこと! 一年生だからまだ10歳ぐらいの子だよね? こ、こんなに色っぽくていいのだろうか。
もしやこれがハニートラップ!?
ま、まって! 私だって女の子! しかも私も、雰囲気美少女! ちょっとばかしセクシーだからって、そう簡単には引っかからないんだから!
「わ、私と? サロメ様にそのように思っていただけていたなんて、光栄です」
「ふふ、そのように硬くならないで」
見、見透かされている! だって、そ、そんな事言ったって、サロメ嬢は、カテリーナ派閥の人だよね? 私の顔を見て、睨んでフン!って言ってくるあのカテリーナ嬢の側近的な子だよね?
「まあ、カテリーナ様の側にいる私がいきなり来たら、怪しむのも当然よね」
そう言って、フフって艶っぽく笑うと、いきなり真剣な顔をして私を見た。
「今日は、カテリーナ様も、取り巻きの方々も含めてまだ戻ってきておりませんから。多分リョウ様と二人でお話できるのは、今日ぐらいだと思って、思わず声をかけてしまいました。それ以上の他意はないの」
ほ、ほんと?
「それで……何か私とお話したいことが?」
「特別、伝えたいことはありませんけれど、なんとなく話してみたいと思いましたの。……カテリーナ様が珍しく貴女にご執心みたいだから」
と言って、ニコッと口角を上げて微笑まれた。
ご、ご執心て……なんか嫌われてるような感じはしてるけれども……。
「なぜか、カテリーナ様は、私のことがお嫌いみたいですね……。何か私、失礼なことをしてしまったのでしょうか?」
とうとう、ここ数ヶ月の疑問をぶつけた。考えられる原因としては、何かアランがやらかしていたとしか考えられない。
「直接失礼なことをした訳ではないと思いますけど……リョウ様が他の魔法使い様方と対等に接してらっしゃるのが気に食わないんじゃないかしら」
対等……シャルロットちゃんとリッツ君のことか。アランは子分だからどっちかと言うと格下だし……。
カテリーナ様は、魔法が使えない人間の癖に、魔法使いとよろしくやってる私が気に食わないのか。
とか言ってもカテリーナ嬢だって、魔法を使えない子達を仲良く取り巻いているじゃないか! サロメ嬢だって、魔法使えない子だし。
「そんなことおっしゃっても、カテリーナ様だって、魔法の使えない子達と一緒にいらっしゃるのに」
「一緒にはいるけれど、対等ではないわ。だって、私達は魔法使い様にとって、取るに足らない存在で、可哀想な子で、導いていかなければ生きていけない存在だって思われているし……私達もそう思ってる」
そ、それは見下しすぎなのでは!?
「そ、そこまでの差は、私達と魔法使い様の間にはないと思いますけれど……」
私がそう言うと、サロメ嬢は驚いたように目を瞠った。
「そんな風に考えられる貴女が羨ましい。領地によって、多少の違いはあるかもしれないけれど……ここに入学した生徒の大半が、私と同じような考えをもっているはずよ」
そ、そうなの? レインフォレストとかルビーフォルンはそうでもなかったような気がするけど……まあ、ルビーフォルンは魔法使いほとんどいなかったからあれだけど。それでも、確かに、差は、あったけど……。
「カテリーナ様はね、貴女をみてイライラしているの。それってすごいことなのよ? それってつまり、貴女はカテリーナ様と同じ舞台に立っているってことなのよ。取るに足らない存在であるはずの人間の貴女なのに」
いや……同じ舞台に立ってるとか言われても、睨まれてフン! されるだけなんですけどね!
「私はただ、嫌われているだけですよ。いつも一緒にいるサロメ様のほうが、きっとカテリーナ様にとっては親しく思っているんじゃないかしら」
私がそう言うと、サロメ嬢は、10歳の子には似つかわしくない自嘲の笑みを浮かべた。
「私は、もう、カテリーナ様と同じ舞台には立てない。だって私は、一度期待を裏切ってしまったの。だからもう、元には戻れない」
そういったサロメ嬢の顔は微笑んではいるんだけど、陰りがあって、なんだか、重苦しい空気。私が何も言えないでいたら、魔法史の先生が講堂に入ってきた。
再びサロメ嬢を見ると、いつもどおりの様子で、教科書を開いて先生のほうを向いているので、私も何も気にしていないそぶりで授業を受けた。
ただ、授業中、もやもやとずっと考え続けてしまった。
結局、全然授業に集中できなくて、なんだか沈んだ気分になったところで、授業が終わった。とりあえず寮に帰ろうと思ったら、サロメ嬢が私の方を向いていた。
「もう少し先の話しだけど、学年終わりの長期休みがあるでしょ? カテリーナ様も私も領地に帰るの。休みが終わったら、多分カテリーナ様は機嫌が悪くなっているだろうから、覚悟しておいたほうが良いかもしれないわ」
そう魅惑的な笑顔で、忠告とも脅しともとれる言葉を残して、サロメ嬢は去って行った。
なんか、まだ先の話しなのに、休み明けが怖い……。
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サロメ嬢から色々言われて、ちょっと考えさせられた私だったけど、結局カテリーナ嬢からの『睨まれてフン!』攻撃を以前と変わらず食らうだけで、日常は過ぎていった。
あの日以降サロメ嬢も特に話しかけてくることはなかった。
私はその間、魔石というものを地味に研究し始めて、なんとなーくこの石の正体が分かってきた。
とりあえず、火の魔石は若干危険な気がするから瓶に入れて保管して、氷の魔石の正体を暴こうかと準備中。
だって、どうせ実験するなら、おいしいものを作って確認したいしね!
「なあ、リョウ、何、ニヤニヤしてるんだよ」
私がランチに出てきたパンを握り締めつつ、明日食べれるおいしいデザートに妄想を膨らませていると、いぶかしげな顔でアランが話しかけてきた。
あら、いけない私ったら、まだ昼食中だって言うのに、他の食べ物の妄想をしてしまうなんて。パンに失礼だったわね。
私は、そう思って、パンをちぎって口に入れた。
「明日の休みに、ちょっとおいしいものを作ろうと思いまして」
このパン固いなー。もっと柔らかいのが食べたい。このままちぎり続けたら、筋肉で指がムキムキになるんじゃないかな。
「え? どこで?」
「一応火を使う予定だから、コウさんのところ」
「じゃあ、俺も行く」
え?
私はパンをちぎる指を止めて、アランをみた。
『俺も行くけど。俺行くって決めたら絶対行くタイプだけど。何があっても俺行くけど』と言う感じで、もう既に俺が行くことは決定事項って顔をしていた。
何てことだ! 人が増えたら私の取り分が減っちゃうじゃないか! コウお母さんと二人で楽しもうと思っていたのに……。!
「お、おいしいものって甘いものですか?」
今度はキラキラした顔で、シャルロットちゃんが聞いてきた。
『私も行きたい!』という顔をしている。
斜め前に座るリッツ君を見れば同じように、目をキラキラと輝かせていた。
アランはともかく、シャルロットちゃんとリッツ君の輝いた顔を陰らせたくないなー。
でも、材料を買うためにコウお母さんのお手伝いをして貯めたお小遣いじゃあ、プラス3人分までは用意できない……。
いっそのこと、延期にしちゃおうか。もう少しお金を貯めてから……いや待てよ。
閃いた! 確かシャルロットちゃんは氷の精霊魔法が使えるって言ってた!
「シャルロット様って氷の精霊魔法が使えるんですよね? 氷を作ることは出来ますか?」
「氷ですか? 水があれば、多分、作れると思います」
よし、それなら氷を買うお金が浮く!
浮いたお金で材料をたくさん買い込めば、むしろ、もっとたくさん作れて、一人分の分量も増える!
「なら、是非協力して欲しいです! そしたらたくさんおいしくて、甘いお菓子が用意できます!」
「私でよければお手伝いします! 甘いお菓子も大好きです! 嬉しい!」
「ぼ、僕も一緒に行っていい?」
満面の笑みの可愛いシャルロット嬢と、興味津々のリッツ君。
いいよいいよ、むしろ大歓迎だよ!
私は笑顔でうんうんと頷いた。
この機会に私のパティシエ力で、遠足の時に果たせなかった『さすがリョウ様!』の名を欲しいままにしようじゃないか!
明日が楽しみですわねーと言う会話が始まりかけたその時、アランは言った。
「うーん、リョウの保護者だって、そんなたくさん人が来たら、迷惑になるんじゃないか? この二人も連れて行って、大丈夫か? リョウ」
ドヤ顔のアランが『周りのことも考えられる紳士な自分すごい』みたいな雰囲気を出してきた。
さりげなく、自分のメンバー入りを確定しているところが、アランのすごいところだよね!
「コウさんは、そんなことでは迷惑に思わないと思いますけれど……そこまで言うなら、人数を絞りましょう。明日行くのは、私とシャルロット様とリッツ様で」
ファイナルアンサーで!
「お、俺が抜けてる!」
その後、しばらくアランの相手をしてあげて、結局寛大な私は、アランも仲間に入れてあげた。あと、もしかしたらカイン様も一緒に来てくれるかも。
明日、楽しみだなー!









