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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期

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波乱の挨拶回り編② 王国騎士の矢

 私の怒りはカイン様の素敵笑顔で浄化されたけれども、他の人だったら許されないところだよ……!

 例えばゲスリーとかは特に許せん。

 と思っていると、視界の端に騎乗するゲスリーの姿が見えた。


 ああ、そうだった。ゲスリーが乗馬したいとかいうから、連れてこられたんだった。

 私は辛い現実を思いだすと、ゲスリーの後ろ姿を眺めた。

 ゲスリーの近くには人が乗っていない馬を牽引している騎士がいる。


「リョウ、両手で手綱をしっかり握って」

 カイン様にそう言われて、私は言われるまましっかり手綱を握る。


 そして他の騎士に兼引されていた馬が隣に来ると、なんとカイン様が飛び移った。

 馬から馬へと華麗にダイブしたカイン様は何食わぬ顔で飛び乗った馬の手綱を握る。

 神業か。流石にカイン様華麗すぎないだろうか。素敵の化身であり華麗の化身なのだろうか。


 たしかにゆったり速度の移動だからスピードはそんなにないけど、でも飛び移るとかすご過ぎない?

 ここにコウお母さんがいたら、きっといっしょになって「きゃーカイン様素敵ー!」とかやっていたに違いない。

 そしてカイン様はすこし前に馬を走らせてヘンリー殿下のもとに向かう。


「殿下、リョウ様をお連れしました」

 カイン様にそう言われたヘンリーは軽く後ろを振り向き、自分の隣に来るようにという感じで顎をくいっとやった。

 しょうがない、いくか。

 私は横向きのまま馬を操って、ヘンリーの隣に行く。


「本日は乗馬に御誘いいただきありがとうございます、殿下。けれど、もっと前もって伝えてほしかったです。今日はたまたま動きやすい靴でございましたけれど、そうでない日もございますので」

「今日はいい風が吹く。乗馬日和だ」

 私の苦情に全く反応せずゲスリーが笑顔でそう言った。

 さてはこの人、私と会話する気がないな。


 そのあとは特に会話もなくただただ馬を走らせていると、ゲスリーが唐突に声をかけてきた。


「ところでひよこちゃん、騎乗するカインを見たかい?」

「ええ、見てますよ。今もお近くにいますし」

 と、なんでいきなりカイン様の話が……と思いつつカイン様の方に視線を動かす。

 濃い紫の騎士服をきちんと着込んだカイン様が、華麗に馬に乗っている。

 すでに18歳となったカイン様。

 若い人が多いゲスリーの華麗なる近衛隊の中でも若い方だけれど、落ち着きがあるのでちょっと大人びて見える。


「いいだろう?」

 となんだか自慢気にゲスリーが話しかけてきた。

 いいだろうって、うちのカインはまじでかっこよくていいだろう? ってことだろうか。

 自分のおもちゃを自慢する子供みたいなことをするなぁ。

 カイン様はおもちゃじゃないけれど、でもカッコいいことはたしかだ。


「そうですね。カイン様は素敵だと思います」

 私がそう言うと、ゲスリーは顔を前に向けた。

 そして無言になった。突然の沈黙。

 やはりこの人は、私と会話をする気がないに違いない。

 再び黙って馬をただ駆っていると、ゲスリーの視線を感じたので顔を向ける。


「何か、ございましたか?」

「いや、君はいつまでいるのだろうと思って」

 いや、だって、ゲスリーが呼んだんじゃなかったっけ!?


「戻ってもよろしいのでしたら、そう言っていただかないと困ります。もうご用が済んだようでしたら、私は馬車に戻らせていただきますね。失礼します」

 私がそう苦情を申し上げつつ退席する旨を伝えると、ゲスリーは全く懲りてなさそうな笑顔を浮かべて、私の退席を許可した。

 次回乗馬に誘われたら絶対に断ってやる。


 そう思いつつ、元の馬車の場所まで戻ろうと速度を落としたその時、しゅんと、風を切るような音と、トスという何かが刺さる音がした。

 そして、乗っている馬の首に刺さる矢が目に入る。


 ヤバイ。


 私は、手綱をしっかりと握り直した。

 首に矢が刺さった馬は、痛みで泡を吹きながら嘶く。

 暴れる馬に私は振り落とされないように手綱を握るけれども、横坐りのままだったのでうまく馬にしがみつけない!

 ……落ちる!


 と思った時に、サッと誰かに抱えられた。


「カイン様!」

 カイン様が抱えるようにして私を同じお馬さんに座らせてくれた。

 そしてカイン様は剣を抜いて、森の向こうに警戒するような目線を向ける。


「できる限り顔を伏せて」

 カイン様が焦ったような声でそう言いつつ私の頭に手を置いて伏せさせる。

 少し乱暴な扱いだけれど、それほどの事態ということだ。

 だって、私が乗っていた馬に矢が刺さった。

 しかも、結構すれすれだったのだ。私と。


 私が、戻るために馬の速度を落としていなければ、おそらくあの矢は私に刺さっていた……。

 そのことを想像し、やっと状況を飲み込んだ私は、震えた。


 私、だって、つまり、誰かに命を狙われたということ、だよね?

 しかも、さっき刺さった矢は……。

 先程ちらりと見た馬に刺さった矢の羽の部分を思い出す。


 綺麗な白い矢羽に、朱色で王家の紋章が刻まれていた。

 あの矢は、王国騎士が使う矢だ。

 王国騎士の中で、私の死を望む人がいるってこと……?


「矢を放ったものを捕らえよ!」

 という近衛隊の隊長らしき声が聞こえた。

 顔を少しばかり伏せっていた私は横を向いて、先程矢が飛んできた方向を見る。

 私をかばうように、数名が警戒しながら私の周りにいる。


 しかし、そのタイミングで、また風を切るような音がした。

 丁度、私周りの護衛達の隙間をぬって私の方に放たれた矢が三本見えた。

 二本は、壁になっている騎士の盾などに払われたけれど、しかし一本は私の顔にまっすぐ向かってくる。

 迫り来る死の危機に、フル回転中の脳みそのおかげでその光景が妙にゆっくりに見えた。


 あの矢を防ぐためのものを私は持っていない。

 ずっと愛用しているアランの短剣も、クワマルの兄貴特製の神殺しの剣も、アズールさんに預けている。

 流石に剣を身に着けてる婚約者ってなんかバレた時に危ないと思って。

 でも、こんなことになるのならやっぱり持っていれば……。


 そう後悔して死を覚悟した瞬間、目の前に向かってきていた矢が、突如崩れ落ちた。

 矢が、砂つぶようなものに変わる。

 その砂つぶが、勢い余って私の顔にかかるという瞬間、私は目を瞑った。

 肩のあたりに砂つぶが当たるような感覚があったが、顔には当たらなかった。

 こっそり目を開けると、剣が見えた。


 カイン様が矢から私を守るために、剣を盾がわりにしてくれたのだ。

 カイン様、さすが。なんだかいつものくせで自分でなんとかしなくてはと思っていたけれど、カイン様がいてくれたのだ。


 あのまま矢が飛んできても、カイン様はキチンと私を守ってくれていただろう。

 とはいっても、途中であの矢は砂つぶのようなものに変わったので、私の顔に砂がかからないようにしてくれた感じにはなったけれど。


「カイン様……」

 私がそう言うと、私の頭を伏せさせていたカイン様の手が退かれたので、顔をあげた。


「もう大丈夫。殿下が守ってくださった」

 そうカイン様が言うので私は地面に散らばった砂つぶを見下ろした。


 そうか、ゲスリーが解除の魔法で矢を粉々にしたのか。

 ヘンリーの方をみれば、無表情で矢が放たれた森の奥を見ている。

 少し離れたところで私が先程乗っていた馬が倒れていた。


 その馬の首元に刺さっていた矢は、消えていた。



「快楽の国の女王」という新作を始めました!

旅芸人一座の女座長のお話しです!

ほぼほぼ書き終わっておりますので、しばらく更新が続くかなと。

下記のリンクをクリックしますと飛びますので、こちらも楽しんでいただけると嬉しみの極み!

よろしくおねがいします。

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