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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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帰還した領主の養女編⑮ カクカク村からの使者

 コウお母さんと私、それにアズールさんも一緒に来てくれるって言ってくれて、3人でセキさんと一緒に東へ向かう。

 おそらくもうスルスル村周辺には魔物がいないと思われたけれど、念のため、まだしばらく村の人たちには、聖窟で暮らしてもらうように伝えた。


 東へ向かってしばらく進むと、魔物の痕跡や、荒れた畑をよく見かけるようになった。

 ここは既にセキさんが巡回済みと聞いていたので、セキさんに村の人たちの安否を聞いてみると、村人はスルスル村と同じように近くの隠れ家だったり、洞窟のようなところに避難を済ませているらしい。

セキさんは『ちょうどいいところに身を隠す場所があって助かった』みたいなのんきなことを言って、あんまり気にしてないようだったけれど、どうやらそれらの避難所は尊い方のお話をするための隠れ家だそうで……。ウヨーリ様のお力の凄さを思い知った。


 さらに東へ進むと、魔物の姿を見かけるようになった。

 主に戦闘は、セキさんが魔法を使って対応してくれたので、他の人は援護に回ることが多い。


 今もセキさんが、風の魔法を使って、一匹の魔物を動けなくしたのを見計らって、火矢を放った。

 先程、アズールさんに魔物に向かってアルコールをかけてもらったので、火がよく燃える。


「それにしても、簡単に火を扱えるその道具は凄いな。魔物の処分がそれだけでかなり楽になる」

セキさんが、燃える魔物を見ながら感心したようにそういった。

「ルビーフォルン印のマッチです。次の我が領地の主力商品です」

「そうか。……安全に売り出せるように、早くこの状況をどうにかしないとな」

 とセキさんは言って、小さく息を吐いた。目に隈もできており、かなりお疲れのご様子だ。

 そうりゃそうだろう。ここまでの道のり、特に、魔物を見かけるようになってからは魔法使いであるセキさんの負担はかなりのものだ。


「……お疲れ、ですよね? 魔法を使う機会ここ最近増えてきてますから」

「ああ、でも、まだ大丈夫だ。それにしても、こうも魔物の出現の頻度が増すと……さすがに心配だな」

そう言って、眉をひそめる。

 東には、セキさんの息子であるリュウキさんを魔物の対応で置いてきたと言っていた。息子さんの現状が気になっているのかもしれない。

「セキ、大丈夫よ。あなたの自慢の息子なんでしょ? 」

 そうコウお母さんが声をかけると、セキさんは、疲れた顔ながらも楽しそうに微笑んだ。

「ああ、そうだ。私よりもずいぶんと優秀だ。妻に似たのだろう」

 妻……。 

 たしか、セキさんの奥さん、今は亡くなってしまったみたいだけど、前の王様の娘で魔法使い。生粋の王女だったのに、駆け落ちまがいのことをしてセキさんと一緒になったとかいうロマンスを山賊時代にクワマルの兄貴から聞いたことがある。

 すごく真面目そうで厳格そうな見た目なのに、人は見掛けによらない。


「アニエスの子なら、強い子よ。じゃあ、セキは馬車の中で休んでて。顔、疲れているわよ」

「しかし、魔物が来た時を考えると、私が先頭で……」

「大丈夫よー。もちろん、魔物が来たら叩きおこすから!」

そう言って、コウお母さんがウィンクをすると、セキさんは笑って、お言葉に甘えると言って、馬車の中に入っていった。

 よく考えれば、コウお母さんの弟ということで、セキさんは私の叔父様と言っても過言ではない。トーマス教頭には悪いけど、どっちかというと、セキさんの方が、私の叔父様って感じ。そうか、セキ叔父様か……。


 いつかどさくさに紛れてそうお呼びしよう、そうしよう。


 セキさんが馬車に乗り込んで横になってもらってしばらく進むと、もう少しで、日が沈む時間。

 今日は野宿かも。簡易的な地図をみるとここから一番近くの村でも少し距離があった。


 セキさん、今は休んでもらっているけれど、まだまだ疲れは残っているはず。今日は早めの野営の準備をして……。


「ねえ、何か聞こえない?」

 これからの予定を考えていたら、コウお母さんの警戒するような声が聞こえた。

 私も馬をとめて、耳を澄ませてみる。コウお母さんは、アレク親分との山賊生活が長いのもあって、耳がいい。

 いままでも、少し離れたところにいる魔物を見つけたりしていて、大変助かっていた。


「うーん、私は聞こえないでありますが、コーキ殿がいうのですから、心配ですね。どのような音でありますか?」

 アズールさんがそう言った次の瞬間だった。


『ウワーーーー』

 と、私でもはっきりと、聞こえる耳をつんざくような男性の悲鳴が聞こえてきた。

 声を聞いた感じだと、そこまで遠くない。道から外れた林の中から聞こえた。

「セキ! 私の馬に乗って! 魔物がいるかもしれない!」

 コウお母さんはそういうと馬車に馬をつけてセキさんを跨らせる。

 私とアズールさんが先頭になって声がした方向に向かって馬を進めた。


 しばらく走らせると、獣の唸り声のようなものも聞こえてきた。近い。

 茂みを抜けると足を怪我した男性が、地面に倒れているのが目に入った。

 そして、そのすぐそばに、灰色の毛皮の狼のような魔物がいる。

 人面犬……人面狼というのだろうか、顔の部分が人の顔のようだった。四つん這いの状態で、人の体の腰あたりまで高さがある。でかい。


 今にも魔物が男性に食らいつかんとしていたので、馬上から弓を引き絞って放った。

 矢は、魔物の肩のあたりに突き刺さると、魔物は叫び声をあげて、その場からジャンプして少し離れる。

 唸る魔物とにらみ合っていると、魔物が、慌てたように足をバタつかせた。

 魔物の足が、地面にめり込んでいる?

 コウお母さんの馬から降りたセキさんが地面に手をついていた。

 土関係の魔法を唱えてくれたに違いない。


 魔物はもがくように暴れて、足の3割程が沈んでもはや動けなくなったところで、アズールさんが剣で胴を切り裂き、私が火矢を放って止めを刺した。

 辛そうな魔物の鳴き声が聞こえる。

 人の顔をした魔物は嫌い。断末魔が人の悲鳴と似てるんだもん……。


 魔物の断末魔を聞きながら、コウお母さんが倒れていた男性に手を貸して起き上がらせていた。

 男の人は痛みに顔をしかめていたが、すぐ近くにいたセキさんの顔をみるなり、安心したように顔をほころばせた

 

「ああ! セキ様! 良かった! セキ様を探していたのです!」

 その人はそう声をあげて、セキさんにすがりついた。

「君は、カクカク村の者か? カクカク村には、リュウキがいたはず。なぜ一人でこのようなところに……? 私を探していたというのは……」

「はい! じつは、リュウキ様やその騎士様方が、大きな怪我をしてしまい……今はほとんど動けない状態で」

「リュウキが……!? 何故だ、油断でもしたのか?」

「いいえ、油断、ではありません。予想外の魔物が……魔法が効かない魔物と……遭遇しました」

 言葉に詰まった。

 だって、魔法が効かない、魔物ってなると……。

 私達の間に沈黙が訪れて、そしてしばらくしてセキさんが声を上げた。

「ああ、下りてくる魔物の多さを見て、そんなことが起こるかもしれないとは思っていたが……」

 そう苦々しくつぶやいたセキさんの顔色が、みるみる悪くなる。


 魔法が効かない魔物が出れば、100の村が滅んでもおかしくないという話を聞いたことがある。

 この国にとって、魔法が効かないというのは、致命的な存在だ。


「アズール殿、恐れいるが、国から、神殺しの剣を持ってきているものはいるか?」


 王国騎士のアズールさんに、セキさんは尋ねた。

 突然話題を振られたアズールさんは、同じように沈痛な顔をして、首を二回、横にふる。

「申し訳ありません。この領地にきた王国騎士は、私だけでありまして、私のような若輩者は、神殺しの剣を所持することは許されておりません。……それに、おそらく……」

  と言って言いづらそうにしてアズールさんが言葉を止める。

 他の人が続きを待つかのように視線を向けると、小さい声で話を続けた。


「国は、神殺しの剣をおそらく他の領地にはあまり出していないと思います。神殺しを託されるような名のある騎士は、城の警護や王都の防衛に当てられていましたから」


 つまりは、国は自分の身可愛さで、魔法の効かない魔物に対抗できる武器を他領地にまで渡さないつもりか……。

 ……馬鹿みたい。おそらく今までの歴史上で、こんな事件がなかっただろうから、前例がないことで混乱してるのはわかる。

 でもあまりにも対応がお粗末すぎるんじゃないだろうか。

 そんなことをしていたら……と考えて、ふと、アレク親分の顔が浮かんだ。私はそれを、首を振って想像を打ち払う。

 今は目の前のことに集中しよう。


 魔法が効かない魔物、確かに脅威だけど、絶対にどうにもならないというものでもない。

 マッチもあるし、武器だってある。

 私は、スカートの中からクワマルさんの神殺しの短剣を取り出した。


「セキさん、覚えてますか? 私が、親分たちと一緒にいた時に、リュウキさんと戦ったことがありますよね? その時に使った短剣です」


「これは……」

「クワマルさんから譲り受けたものです。そしてこの短剣は……神殺しの剣。魔法が効かない魔物を倒せます」


セキさんはその短剣を驚きの表情で見つめた。


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