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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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呪文の謎編⑩ 傷つけあって大人になる

「リョウちゃん、今日もカエル……?」

「あ、はい、カエルにはまってて。ほら、ダイエットとかにもいいし、美容にもいいような気がして……はい」


 コウお母さんは、連日カエル肉をお土産として持ってくる私に怪しげな目を送る。



「ふーん? リョウちゃんなんか、隠しごとなんかしていないよね?」


 ドキ! さすがコウお母さん、鋭い。何でもお見通しなのか……。


「またカエルかよ。俺、久しぶりにもっと油っぽい肉が食べたい!」

 当然のように私より先にコウお母さんの家で、寛いでいるアラン子分が、文句を言ってきた。

 だまれ泥棒子分!


「じゃあ、アランは食べなくていいですー! だいたいアラン、ここに来すぎですよ! 最近、ほとんど毎日来てるじゃないですか!」

「べ、別にいいだろ? それに食事代がわりに魔法使って色々入用なもの作ったりしてるし、コーキさんだって、来てもいいっていってくれてるぞ!」


「コウさんが優しいからって、調子に乗って! 私の許可なしで家に入るのはどうかと思います! まずは私を通してください!」

「だって、リョウに言うと、駄目って言われるじゃないか!」

「そんなことないです。5日に1回ぐらいの頻度なら許します」

「そんなんじゃやだ」


 こ、こいつ……!

私とアランが口喧嘩を始めていると、その様子を楽しそうに眺めていたコウお母さんが、お土産のカエル肉を持って、キッチンのある部屋に行った。カエルを料理してくれるみたいだ。


「あー、今日もカエル肉料理かよ。だいたい、何でカエル肉ばっかり買ってくるんだ?」

「……好きだからです」

 言えない。本当は実験のためだとか、私言えない。

 ちょっと視線をそらして答えてしまった私に対し、アランがちょっと眉をひそませて怪しんでいる。いかん、コレは話題を変えないと。


「それに、カエル肉がお嫌でしたら、コウさんのところに食べにこなくていいんですからね!」

「な、なんだよ! いいだろ、別に! ……ていうか、なんでそんなに俺が一緒に食事するの嫌がるんだよ。……そんなに、嫌なのか?」


 い、いや、別に嫌がってるわけじゃないけど……。やばい、子分がちょっとシュンとしてる、あの子分が。ちょっとそんなかわいそうな子分みたいな目をして私のことを見ないで!

「べ、べつに嫌ってるって訳じゃないですよ。一緒にお食事するのは楽しいですけど、でも……」

 でも、アランがいると、コウお母さんはくつろげないんじゃないかと思う。

 だって、王都では私以外の人に対しては普通の男性を演じてるから。アランの前でもオネエの片鱗をたまに見せちゃうときはあるけれど、基本は隠してる。王都に入る時に、心無い奴らから嫌なことを言われて、オネエを封印してるから。

 だからアランがいると、コウお母さんは素の自分を出せないから疲れるんじゃないかって……。


「でも……ほら、人数分の料理を作るのは大変だと思うし、コウさんに迷惑かけちゃうから……」

「俺だって、お手伝いしてるし、コーキさんは、俺がいたほうが、楽だって言ってくれてる!」


「そ、それはコウさんが優しいからそう言ってるだけで……」

「それとも、リョウは、コーキさんが、俺といる時、本当の自分を隠してるところがあるから……それが嫌なのか?」


 一瞬息が詰まった。アランの癖に、なんという察しのよさ。アランの癖に。


「な、何を言ってるんですか? べ、別にコウお母さんは、何も隠してなんか……」


「一緒にいればなんとなく分かるし、あと時々結構素が出てる。別に隠さなくていいよ。俺は全然気にしない。リョウが、俺の前でコーキさんがなんかのフリをするのが嫌なら、そんなフリなんかしなくていいぞってコーキさんに言うよ」


 え? アランは気づいてるの? コウお母さんのこと。まあ、確かにコウお母さん結構素になるところあるけれど、でも、そんなこと言ったって……でも。


 でも、だって、王都に来たとき、知らない人がオネエなコウお母さんに奇異な目を向けてきた。ナニアレってキモチワルイってそんなことを言ってくる人もいて……。


「そんなこと言って、結局、気持ちが悪いっていうんでしょ!?」

 私がそんなことを結構大きめな声で言うと、カチャリと食器があたる音がした。

 音のしたほうを見ると、そこには、スープのお皿を持ったコウお母さんが立っていた。キッチンから食卓の準備をするためにいつの間にか部屋に入ってきていたらしい。


 そして、さっきの私の言葉がコウお母さんに聞こえてしまったことに気づく。

 私、なんてこと言ってしまったんだ……。


 “結局、気持ちが悪いって言うんでしょ!?”って……まるで、私が心の中で、コウお母さんのことそういう風に思ってるみたいじゃ、ないか……。そういう風に聞こえなくもない……そんなの、そんなことないのに……!


 コウお母さんは気持ち悪くなんかない! 最高のお母さんだ!

 でも、王都に入る時、周りの人がなんか気持ち悪いような目で見たり、嫌なこと言ったりして……。


「やだ、アラン君きづいちゃったの? 王都に入る時に嫌な事色々言われちゃってねー。でも、アラン君がこれで良いって言うならーアタシさらけ出しちゃうけど」

 コウお母さんは明るい声が聞こえてきた。そして食器のカチャカチャなってる音も。多分コウお母さんはいつもの笑顔で、テーブルで手際よく食事の準備をしてる。


 そう、いつもどおりのコウお母さんだ、気にすることじゃない。でも、やっぱりコウお母さんの顔がまともに見れない……。だって、もし、傷ついたような顔をしてたらって、思うと……。




 その後の記憶はあんまりない。とりあえずアランの前ではコウお母さんは素で通すらしいことは分かったけれど、いつの間にか食事は終わってたみたいで、気づいたら私はアランと一緒に学園の校門前にまで来ていた。


 記憶が、あんまりない。私コウお母さんの前でどんな顔してた? コウお母さんは私のことをどんな顔で見てた?


 トボトボ寮に戻るために進む私の前に、アランがいる。

 そうだ、アランに、アランに聞いてみよう。

「ねえ、アラン!」

 アランがビックと肩を震わせて、振り返って私をみた。『あ、正気に戻ったのか』とかいうアランの声が聞こえるけどそれを無視してコウお母さんのことを聞く。


「コウさん、元気だった? 私が変なこと言っちゃった後のコウ……お母さん」

「別に普通だったぞ? 変だったのはリョウだけだよ」

「だって、私ひどいこと言っちゃった。気持ち悪いなんて思ってなかったのに! あんなこと口走って……コウお母さんを絶対傷つけた」

「そうか? 別に気にしてなかったように思うけど。まあ、なんか元気のないお前見て心配そうにしてたけど」

「気にしてないわけないよ! 私コウお母さんのこと、私大好きなのに! 気持ち悪いなんて思ったことなんかないのに! なんであんなこと言っちゃったんだろう!」

「リョウは、帰り送ってもらう時、上の空って感じで聞いてなかったと思うけど、コーキさん言ってたぞ。王都に入った時に、いろいろ言われて、自分は慣れてるから気にしてなかったけど、リョウが傷ついてたみたいだったって。多分、コーキさんは、分かってるんじゃないか。リョウがそんなこと思ってないって」

 そう、確かにあの時すごく嫌な気分になって……だって、コウお母さんは悪くいわれるような人じゃないのに……だって、一番大切な人なのに……。

「……コウお母さん、許してくれるかな」

「許すも何も気にしてるのはリョウだけだよ。いつまでも落ち込んでるほうが、多分コーキさんは悲しむと思うね」


 そうか、そうだよね。どっちにしろもう言っちゃたことをグチグチ考えてもしょうがないし。

 ごめんなさいして、気持ち悪いなんて思ってないって大好きだって言おう。アランの言うことを信じてみる。きっとアランの言うとおりコウお母さんなら私を許してくれる。

 ごめん、コウお母さん。私、ホントに、何やってるんだ。コウお母さん、傷つけて……。



 その時、ふとカイン様が言ってた言葉を思い出した。

 確か、この学校に入学したての時、アランと決闘して、大喧嘩して、仲直りして泣きながらカイン様が慰めてくれてる時に、聞いた言葉だ。

『人は、傷つけあいながら大人になるんだ』

 カイン様はそう言っていた。

 カイン様は、誰かを傷つけたことがあるのだろうか。私は、コウさんを傷つけてしまったかもしれない。これは、私が大人になるために、必要なの? 本当に、必要なんだろうか……。


 私は、前世の時から、そういうのは不器用で……私が大人になるには、誰かを傷つけて、そんなことを繰り返して学んでいかないと大人になれないのかもしれないけど。でも、大切な人をキズつけて、そこまでして、私は……。


「ねえ、アラン。私達が決闘した時、カイン様が言ってた言葉覚えてる? 人は傷つけあいながら大人になるっていうやつ……」

「もちろん、カイン兄様の言葉は基本的に覚えている!」

 あ、うん、そうか。そこまで力強く覚えてることをアピールしなくてもいいんだけどね。あいかわらずブラコン……。まあ、私もファザ……マザコンだけど。


「もし本当に、誰かを傷つけないと大人になれないんだとしたら……私、別に大人になんてならなくても、いい気がして……だって誰も傷つけたくなんかない」

 誰かを傷つけないのが一番に決まってる。こうやって自分が人と触れ合うことで、誰かを傷つけて、後悔して……そんなこと繰り返さなくちゃ大人になれないんだとしたら、大人になんかならなくていいんじゃないかって……。


 隣を歩いていたアランの足が止まった気がした。


 驚いたのかな……私だって、我ながら変なことを言った気がする。そんなこといったって、どっちみち体は成長するし、まったく人を傷つけずに生きていくのは難しいのかもしれない。だからと言って、人と関わらないように生きるのは、今の私には出来そうにない。だって、やっと、私のことを見てくれる大切な人達に出会えたのに。


「リョウ、そんなこと言うなよ」


 私は立ち止まったアランより数歩だけ前に進んでいたので、後ろを振り返ると、アランがなんだか悲しそうな顔をしていた。


「俺だって、結構無神経なところあるし、多分知らないうちに誰かを傷つけてることとかだってありそうだし、本当はもっと大切に、したいのに……押しつけるだけで、結局わがままみたいになったり、とか……それに……」

 そう言って、一度アランは、下を向いてから、私のほうをまっすぐ見た。

 アランは、たまにこんな顔をする。見られたほうが、恥ずかしくなるぐらい、まっすぐに人のことを見る。


「それに、俺は、別に……。俺は、リョウになら傷つけられてもいいよ。リョウのためなら、俺、傷ついても構わないんだ」


 アランが真面目な顔でそんなことを言うから、驚いて思わず、まじまじと見てしまった。するとみるみるうちにアランの顔が赤くなって、いきなり男子寮のほうへと走りだした。


 突然走り出したので、ええ!?っと思って、声もかけられず走り去っていくアランの背中を見送ってたのだけど、アランが途中で止まって振り返った。


「そ、それに! 多分コーキさんだって、同じこと思ってるはずだぞ!」

 アランはそれだけ言うと、再度ダッシュで男子寮のほうに走っていった。

 

 アラン……。

 傷つけられてもいいって……慰めてくれた、だけなのかな。

 それとも、もしかして、アランは……。


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