9いえ、そんなつもりでは
私はそのまま眠ってしまったらしい。
「いや、リヒ‥行かないで」
「どこにも行かない」
「ほんと?私を捨てたりしない?」
「捨てるわけない!」
私は彼に縋り付く。捨てられたくない。
「私をひとりにしないでお願い」
そう言った私を彼は抱きしめて唇を奪われた。
激しいキスに思わず嬉しくなって彼に縋り付く。
「リ‥トお願い‥」
何をお願いしているのかもわからないまま私は彼に身を委ねた。
「いいのか?」
彼にそう聞かれて私は躊躇いもなく頷く。
その瞬間、何かが弾けたように彼が私の上に覆い被さった。
大きな手が私の頬を撫ぜると滑り落ちる様にその手が背中や腰に降りて行く。
私はそれを受け入れる様に彼の首に手を巻き付ける。
ビクッと彼の身体が震えた気がした。
それでも私は躊躇いを隠してその先を強請った。
手はその下に伸びてお尻から際どい部分に‥
私たちはすでに関係があった。でも、ここ最近は彼が忙しいと言って会う機会がなくて久しぶりに身体を重ねることが嬉しいと思った。
「リ‥ト欲しい‥」
自分から求めるのは恥ずかしかった。でも、彼が私を求めていると思うともう抑えは効かなかった。
「俺も君と繋がりたい。もう、離さない」
真っ暗い部屋の狭いベッドの上でそんな言葉を囁かれ私の心も身体もマックスにヒートアップした。
彼が欲しい‥
彼はゆっくり私に唇を奪うと逞しい腕に抱き込まれた。互いの身体を擦り合わせ熱を交じり合わせる。
熱情が一気に肌を駆け抜けて欲望が煽られる。
彼がぐっと身体を押し付けて来て腰を掴まれると私たちは一つになった。
最初はたどたどしかった彼も次第に激しく交わり燃え上がるような一夜を過ごした。
明け染めの薄明かりの中私はまだらな意識で薄目を開けた。
ぼんやりと夢と現実との狭間にいる脳がゆっくり覚醒して行く。
隣に誰かいることに気づいてさっきの事は現実だったと。
うん?
そんなばかな私どうかしてる‥リヒトは私を捨てて…
ぐるりと視線を回して天井を見る。
あれ?私の部屋じゃない。ここはどこ?
次第に自分が死んでしまった事やミルフィに転移した事を思い出す。
そうだった。私リヒトに捨てられて死んだじゃない!
って?
ここにいる男は誰?
ひゅっと全身に鳥肌が立つ。
ゆっくりもう一度横でぐっすり眠っている男に視線を落とす。
「あなた誰?」
「うん?‥」
男が眠そうな瞳を開く。
銀色の髪がするりと頬を撫ぜ緋色の瞳が現れた。
「俺の番」
男は嬉しそうにそう呟くと私をぐっと引き寄せ抱きしめた。
「ちょ、ちょっと待って、離してよ。あなた誰なの?どうしてここにいるのよ?まさか私、襲われたの?」
現実だと思っていたのは夢だった。
私はきっと真夜中に小向りんだった時の夢を見たのだろう。リヒトにまだ未練があったのだろうか。
それにしても夢に便乗してこの男は私を奪った?
私は回された男の腕から逃れる様にベッドから出る。
男は驚いて起き上がると言った。
「どうして俺を避ける?君は俺の番。昨晩お互いを求め合いあんなに愛を確かめ合ったはずだろう?」
男は私を番と言い。二人の関係を正そうとしている。
「いえいえ、それは‥あれは夢かと思ったから」
「夢であんなこと出来るはずがある訳がない」
まあ、確かにやけに現実ぽかったわけか。もう、私ったらこの人とそんな事を!!
でも、今更取り消す事も出来るわけもなく。こうなったら一夜の過ちとして処理するしかない。
脳内でこの後の展開を想像して物凄くまずい状況と判断する。とにかくこの人を追い出さなければ‥。
男が立ち上がる。やっと男の頭に折れた角があると気づく。
裾まであったシャツは今や前がはだけてパツパツで、逞しい胸筋や見事に割れた腹筋が露わになっていて‥下半身が○だしで‥
「きゃー、あなた変態?もう!下くらい隠しなさいよ!」
そう言って私は手直にあったストールを投げつける。
彼もそれを急いで下半身に巻き付けたが、その間も私はこの人がどうしてここにいるのか考えている。
「あっ!まさかあなた。昨日の男の子なの?」
更に脳内が混乱する。わ、私、子供を襲った?
「ああ、名乗るのが遅くなってすまない。昨日は力が無くなっていたせいであんな姿になってしまっったんだ。改めて礼を言う。俺の名はリント・ヴァルデマルだ。決して怪しいものではない。安心してくれ」
さらに狼狽る気持ちが倍増するがとにかく子供を襲っていなくて良かった。それにこの状況をなんとかしなくては!
「いえ、そんなのどうでもいいから‥あの‥そう!だから、間違いだったの。あなたを別の人と勘違いして‥いいから出て行って!」
「いや、確かに君が怒るのは無理もない。出会ってすぐに身体を繋げるなどと‥いくら君に誘われたとはいえすまなかった。でも、君は俺の名前を呼んでくれて。だから止まらなかったんだ」
リントと名乗った男は私の前に跪く。
ちょ、やめて。リヒトとリント?あっぁもう!そんな責任感じなくてもいいから。あっ、でもこの世界の貞操観念凄いから無理もないか。
「わかったわ。でも、責任は私にもあるってわかってるから心配しないで。あなたを責めたりしないって約束する」
「そんなつもりはない。君が番とわかった以上手放す訳にはいかない!頼むから俺を受け入れてくれないか?」
番?それは何?ああ、小説とかで聞いたことがあった。唯一無二の生涯の伴侶ってあの番?
そんなもの信じる訳ないじゃない!
「そんなの無理に決まってるじゃない!いいから出て行って!」
私は無理やり彼を部屋から押し出す。
そのまま廊下に居座りそうなので建物の出口まで彼を押し出して「昨晩の事は忘れてちょうだい!私も昨夜の事は水に流すって約束するから!」って扉をピシャと閉めた。
「頼む。俺を信じてくれ。愛してるんだ。君を愛してる。君は俺の番で俺の唯一で俺の‥愛してるんだぁぁぁぁぁ~」
もう一度扉を開けて注意する。
「朝から近所迷惑だから静かにして!」
「だから話を聞いて‥「うるさい!これ以上何か言ったら許さないから!」‥‥‥」
彼はごくりと唾を飲み込んでやっと黙った。
ったく。なんてことを‥




