16新作メニューで食堂は大流行り
その日の夜は、前日作った焼き肉風の肉のソテーと卵サラダとスープが肉定食として食堂のメニューに並んだ。
みんな物珍しさもあってほとんどの客がそれを頼んだ。
私が帰るころには調味料が底をつき私は帰る早々調味料を呼び出す。
それにしてもリントがピュタール国の王子だったなんて!
まぁ、そんなの私には関係ないから。彼とどうにかなる気なんてサラサラないんだから。
もやもやする気持ちを振り払うように手を振りかざして調味料を片っ端から出して行く。
ニンニク、醤油、みりんに辛子。鼻をくすぐるスパイスはみんなの心を鷲づかみにしたらしい。
「こんなうまい肉は初めて食った」
「卵に何を混ぜたらこんなうまい味になるんだ?もう、止まらないぞ」
「いやぁ、参ったなぁ。こんなうまい料理は初めてだ」
などなど。客は料理を大絶賛してくれた。
こんなに喜んでもらえるなら明日も作ろうじゃないの。
料理人でもないけど魂が燃え上がる。
明日はチキンをから揚げ。唐辛子、ニンニク、醤油、みりんをベースに垂れに付け込んだチキンを卵と粉を混ぜ合わせた衣をまとわせて油でからりと上げる。
今夜はその試作品を作ろう。
私は早速着替えを済ませるとキッチンに向かった。
マベルさんもリントも客さんの対応に大忙しで、チキンをたれに漬け込むと食堂の手伝いをした。
「リント。3番テーブルに肉定2つお願い」
「了解!」
「マベル、私そっち代わるからこれお願い」
「は~い。じゃあ、お願い」
テンポのいい掛け合いに手際のいい間合いで大勢の客をさばいていく。
そろそろ閉店の時間が近付いて、私は漬けておいたチキンをから揚げにしていく。
香ばしい香りが店内に立ち込めて行き、帰り際の客が驚いたように声を上げる。
「おいおい、こりゃなんだ?すげぇいい香りだ」
「ああ、腹いっぱいなのに涎が出そうだ」
「ごめんなさい。これ、明日の定食に出そうかとお試しに作ってるの。良かったら明日も来て」
私は急いで客に伝える。
「これって新手の客引きか?こんなうまそうな匂いを嗅いだら絶対来るに決まってんだろ。俺、そろそろ金欠なんだけどな。明日も絶対来なきゃな」
「ああ、俺も明日は早く帰って来いって嫁に言われてるけどこりゃ無理だな。明日も来るからよろしくな」
「は~い。まいどあり~。お気をつけて」
客が帰って食堂にはマベルとリントと私だけになった。
リントがキッチンに息巻いて入って来る。
「ミルフィ!どういうつもりなんだ?あんな匂いさせてさ!」
「でも、お客さん喜んで‥」
「これ以上ミルフィに男近づけたくない。今でも職場の奴らとか客だってミルフィ狙いがいっぱいだって言うのに!!」
「別に私はあなたの者でもないんだし、リントが怒るのっておかしいわよ」
「じゃあ、どうして俺とあんな事したんだ?それにミルフィは何とも思わないのかよ。俺と睦みあった事!」
いつになくリントが興奮している。
あまり刺激するのはよろしくないかも‥
それに私だってリントの事嫌いじゃない。寧ろ好きかもしれない。
でも、ずっと父からも疎まれドルトからも婚約破棄されて前世では婚約者に裏切られてて、なんだかそう言うのもういいかなって思えて。
でも、こんなに必死で愛を伝えられるのも慣れてないって言うか照れ臭いって言うか‥
素直になんかなれなくて、でも、いつまでもこんな態度は良くないって思ったけど。
いい加減きちんとしなきゃね。彼は王子様なんだから。いつかは私の元から去って行くはずよ。
はっきり言えばいいのになぜか今は決められなかった。
目の前でプンプンにふてくされて口を尖らすリント。エプロンと三角巾が妙に見慣れて来て何とも妙なミスマッチがおかしくて。
「はいはい。わかったから。これ揚げるから機嫌直して‥はい、あ~んして」
私は何の気もなく出来たてのから揚げを一つ。リントの口に頬りこむ。
口の中でじゅわ~と肉汁が染み出て絶妙な味とピリッと辛いスパイスが脳に幸せオーラを運んで行き極上の至福が全身を包み込む。
「‥‥ふっ、う、ぅぅぅぅま~い!」
リントの鼻の穴がヒクヒクと膨らみ瞳が潤む。
ぐっと握った拳は微かに震え美味しさを堪能しているように見える。
「リント?おいしい?」
「ああ、まさに天国。至福の時だ。ミルフィの手料理をあ~んして食べさせてもらい愛する女性からこんな可愛い顔で美味しいかと尋ねられて‥生きててよかった」
そこまで感動するんかい!こりゃ余計な事だったと後悔するが既に時遅し。
「ミルフィ愛してる」
いきなり抱きつかれ思いっきりキスされた。
口の中がチキンやニンニクやスパイスの味でぐちゃぐちゃのまま押し付けられた唇からは舌の猛攻で。
「うん、ん。んっ、うぐ。うげ、‥‥」
ううう、死ぬ。唐揚げの後のキスは止めてと言いたかった。
唇が離れた後は口周りが油でべたべただった。
唐揚げの後のキスは二度とお断りだ。
って思ったのにリントの顔を見た途端何だか胸が幸せでいっぱいになった。




