11帰ってきたら
それから事故の聴取やらいろいろあって私はマクフォール管理官から根掘り葉掘り聞かれた。
「いや、実に残念だったな。俺もその現場を見たかった。ミルフィさん今度その力を俺にも見せて欲しい。どうだいいか?」
やけに管理官が魔力がある事を喜んでいる。
「いえ、私、多分偶然だと思います。自分でも驚いているのでそんな見せるほどの力ではないかと‥」
「いや、ない力を出せるはずがない。まあ、今日はさすがにもう無理かもしれんから、数日後きちんと魔力検査をした方がいいな。君は元は侯爵家の令嬢だ。魔力が多いのは納得できる事だろう」
うんうん、とマクフォール管理官は有頂天になっている。
何だかおかしな事にならなければとそわそわして来る。
私はだめもとで管理官に。
「あの管理官?私はもう帰ってもいいでしょうか。少し疲れてしまって」
今日はそのまま帰っていいと言う事になった。
「あの‥チャムナ先輩。お怪我は大丈夫ですか?」
「ええ、あなたの治癒魔法で全く問題ないわ。ありがとう。おかげで助かった」
「とんでもありません。きっとまぐれだと思います。あの、私今日はもう帰らせて頂くので‥」
「ええ、こっちは大丈夫だから、ミルフィさんも疲れたでしょう。今日はゆっくり休んで、じゃあ、また明日」
「はい、お疲れ様です。失礼します」と私は先に帰って来た。
ひねったと思っていた脚の痛みはなくなっていた。私自分の脚も治癒したの?凄い。そんな事を思った。
*~*~*
モリーユ食堂の前まで馬車で帰って来た。
馬車を下りようとすると手が差し伸べられた。
「ありがとうございます。えっ?あなたまだいたの?」
てっきり御車が手を差し伸べてくれたのかと思ったらリントだった。
「ああ、いちゃ悪いか?」
「悪いかって‥どうして帰らないのよ」
「国を追い出された。行くところがないんだ。なっ、可愛そうな俺。だからここに置いてほしいんだが」
「そんな簡単に!犬や猫じゃあるまいし‥最初は子供かと思ったから親切にしたのよ。それなのに中身は立派な大人じゃない。詐欺だわ!」
「そんな事言わないで頼むよ~。ミルフィはすげぇ優しいから行くところのない俺を見捨てるなんて出来ないはずだろう?」
リントは私の前に跪き上目遣いで私を見つめる。緋色の瞳がキラキラ煌めいて同じ緋色の私でさえこんなふうに出来ないだろうと。
うわっ、こいつ。演技凄すぎ。
こんなイケメンさんから懇願されて嫌という女性はいないんだろうな。今までもこうやって何人もの女性を騙して来たんだろうな‥
ムカつく!
いや、その感情おかしくない?この人は私にとって何の関係もない人なんだから。
ただ、鬱陶しいだけの男。
それにしても何なのこの格好は?思わず吹き出しそうな‥
リントはどこで手に入れたのか男物の着古したシャツとズボン。それにエプロンを付けて三角巾までしている。そのせいで折れた角は隠れてほとんど人間と思えるような姿になっている。
そこにマベルが現れた。
「ミルフィおかえりなさい。どうです?行くところもないっていうし男手があれば色々助かることもあるかと思うんです。今日もあちこち痛んでいた家の修理をしてくれて助かったんです」
「マベル!こんな男を雇うつもり?」
きっと私の目は三角に吊り上がっているだろう。
「いえ、一宿一飯の恩義を返したいって‥てこでも動かなかったんですよこの人。それに夜は向かいのパン屋のヒュートの所に行ってもらえば‥リントさん朝はヒュートの所の手伝いもしてもらえるんでしょう?」
「はい、もちろん」
今度は犬に見えた。尻尾はなさそうだけど。
何だか疲れた。もうめんどくさくなった。
「まあ、私に関わって来ないなら‥まっ、相手にしないし‥それでいいなら」
「ほんとか?」
何でそんな嬉しそうなの?
私、あなたの事無視するつもりなんだけど‥でも、マベルの事を考えたらなぁ~‥
「まあ、マベルがいいなら私は‥仕事でそんなに手伝いも出来ないんだし‥」
「ミルフィありがとう。俺、頑張るから。ミルフィの夫として認めてもらえるように」
いきなり抱きつかれた。
「放して!もう、油断も隙もないんだから!!それに夫って?番じゃなかったの?」
ってなんであなたにしゅんとされるわけ?
私は抱きつかれた腕を振っていると。
「マベルさんから聞いた。結婚したら男は夫の呼ばれるって‥いや、もう事実婚してるはずなんだからすでに夫かなって?」
「誰が!!結婚なんかしてないじゃない!そんな事言うなら出て行ってよ!」
「わ、わかった。じゃ、俺は君を世界中の誰より愛してるって事だけはわかってもらえる?」
美しい瞳が潤として私を見つめる。
「そんなの‥あなたの勝手じゃない。それに出会ったばかりで愛してるなんて。どの口が言ってるのよ。そんなの信じるわけないじゃない!リント!ここで働きたいなら二度と私にそんな口を利かないで。約束して今すぐここで!!」
リントの身体は風船がしぼむように小さくなって行く。
いきり立つ私を尻目にマベルは楽しそうに笑っている。
「まあまあ、ミルフィ落ち着いて。リントさんもそんな軽々しく愛してるなんて言ったら信じてもらえないわよ。もっと態度で示さないと」
「どうしたらいいんです?」
「今は真面目に働く事かしら」
「ありがとうマベルさん。俺、頑張るから!」
リントはがぜんやる気が出たみたいにぐっと拳を上げた。
ああ‥張り切らなくていいから‥もう、すごく疲れた。




