277食目、しゃぶしゃぶ
「やっぱり、模擬戦当日に観戦しに行き、終わったと同時に立ち去るケンゴの後を着いて行くしかないか?」
本当にケンゴが出場するのは置いといて、見に行くのが1番手っ取り早いと全員で頷く。
「問題は、どうやって着いて行くかだが」
「そこは俺に任せてくれ。俺の分身を向かわせる」
タケヒコが提案し、自分の毛を1本引き千切り、フッと息を吹き掛けるとタケヒコと瓜二つな分身が出来上がった。
「大きさは自由自在だ。分身の場所も常に俺へ伝わって来る」
「よし、それで行こう」
「うむ、後は3日どう過ごそうのぉ。部屋は用意してある故、各々好きに使ってよいぞ」
「フォルちゃん、タマモも泊まって良い?」
「お主は、自分の領地があるではないか」
「そんな事言わないでさ。ねぇ、お願い」
まるで小学生の子供が友達の家へお泊まりする気楽さで頼み込んでいる。1回は断るもタマモには甘いフォルスである。
「はぁ、仕方ないのぉ」
「やったぁ。カズちゃん一緒に寝ようね」
「それはダメです」
「ダメに決まっておろう」
リンカとファルスが、俺よりも早くキッパリと拒否した。タマモと一緒に寝ると、カズトの貞操が危ないからだ。
「それならぁ………リンちゃん一緒に寝よ?」
「リンちゃん?リンちゃんってリンカの事ですか?」
「うん、可愛いでしょ?」
可愛いと言われ満更ではないリンカだが、表情をあんま表に出さないリンカの喜怒哀楽を見分ける事が出来るのは実兄であるカズトと、ずっと3人でいたココア・メグミくらいだろう。
「良いですが、布団は別です」
「そんなぁ、リンちゃんのいけずぅ」
本当に嫌そうな顔をしている。これ以上、タマモが執拗くすると怒りが爆発しそうだ。
「リンカが困っているので、それ位でしていただけますか?余りに執拗いと夕飯抜きにしますからね」
カズトの夕飯抜きという言葉が、余っ程効いたのか?タマモは片隅で正座をしながら大人しくなった。
「くっカカカカ、あのタマモを大人しくさせるとは流石じゃ。して、何を作ってくれるのかや?」
「まぁそれは出来てからのお楽しみという事で。厨房をお借りします」
「こちらです」
一二三の案内で厨房に辿り着く。王の住まう屋敷という事で、一般の台所というより高級レストラン並に広い。
料理道具も一色揃っているようで料理人なら目を輝かせてしまう。
「材料は、こちらをお使いください」
「おぉ、随分と色々あるなぁ」
定番な肉は牛・豚・鶏は勿論、鹿・猪・熊に珍しいものではダチョウやクジラまである。
野菜も一通り揃っており、魚介もアジ・鮭・タイ・フグにウナギなんかもある。
さて、何を作ろう?
色んな食材を味わえる兼楽しめるような料理。よし、あれにしよう。
「はーい、お待たせ」
コンロの上に陰陽風に区切ってある鍋をセットし、片方ずつ違うスープを注ぎ込む。
右側は鰹節や昆布で取った和風出汁、左側は甘めに味付けしたすき焼き風なスープ。
「沸騰するまで待っててね」
「兄さん、これはまさか!」
「そう、しゃぶしゃぶだ。食材を運ぶのを手伝ってくれ」
薄くスライスされた肉や魚が、ズラリと並んだ大皿を次から次へと運んでいく。
テーブルには入り切らないほどに用意した。このメンバーなら完食するに違いない。
「これは、どう食べれば良いんじゃ?」
「姫さん、このスープに数秒を『しゃぶしゃぶ』と潜らせてからタレに浸けて食べる」
「面白ぉぉぉぉい。こうかな?しゃぶしゃぶ、パク」
モグモグ
「うんまぁぁぁい」
フォルスより先にタマモがしゃぶしゃぶした。折角、教えて貰ってるんだから先に食べるんじゃないと、フォルスはタマモを殺気染みた視線を送る。
だが、とうのタマモはそんな視線を顧みず、黙々としゃぶしゃぶして口に放り込んでいる。
「タレもありますので、お試しになって下さい。こちらがゴマだれ、こっちがポン酢となります」
「姫さん、怒ってないで食べましょう。ほら、ゴマだれに浸けると美味しいですよ」
「タケヒコが食べさせてくりゃれ」
まるで親鳥が雛鳥にエサを与えるように、フォルスが口を開け、タケヒコがそこにしゃぶしゃぶした魚の切り身をゴマだれに浸けて、アーンと放り込んだ。
「兄さん兄さん、リンカもアレをやりたい」
「はぁっ?1人で食べれるだろ………痛っ!わ、分かった分かった」
「ぷっ、カズト殿も妹君には勝てないようだな」
覚えていろよ。さっき笑った奴らの声、覚えたかんな。
イチャイチャしてるフォルスとタケヒコ以外、笑った事を確認した。
この後、ポン酢にデスソースを加えた激辛タレを、コッソリ用意し、それを浸けた連中全員阿鼻叫喚な発狂をして、床を転がる顛末が待っている事はカズト以外知らなかった。




