276食目、棍の勇者タケヒコ
フォルスやタマモの格好から和風な様式だと予想していたが、床は畳、廊下と部屋を隔ててる扉は襖、椅子は座椅子と座布団、テーブルは炬燵と完璧に和室だ。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました」
出迎えてくれたのは、魔法大国マーリンで会った老執事である輪入道一二三だ。
「お久しぶりです」
「カズト様お久しぶりでございます。そちらの連れも勇者様でございますか?」
「リンカはリンカなの」
「儂は獅子之助だ」
お互いに自己紹介は済、老執事である一二三以外は腰を降ろした。
「して、一二三よ。タケヒコは何処におる?」
「タケヒコ様は、ケンゴ様の事を知ると一目散にコロシアムへ行ったと思われます」
「なぬ?!タケヒコめ。先走ると思って、言わんかったのに」
「まぁまぁタケちゃん、仲間思いで良い子なんだからきっと大丈夫よ」
そう言うタマモも掌を握って視点が合ってない。タケヒコの事が心配なのだ。
俺もタケの事は心配だが、そうそう捕まるヘマはしない奴だと知っている。
「皆様、粗茶でございます。こちらを飲んで落ち着いたらと思います」
一二三が気をきかせてお茶を入れてくれた。湯気が昇るお茶を1口注ぐと、ホッと気が落ち着いてくる。
「美味しいな。日本人に生まれて良かったと思える」
「ゴクゴク………プハァお代り」
「はい、ただいま」
リンカが、お茶を一気飲みし、お代りを所望する。俺とリンカが、お茶を飲むのに釣られ、他の者もグビっとお茶を飲む。その時だった。
バタン
「あれ?姫さん、帰って来たのですかい?」
「タケ?!」
「タケヒコ!お主、何処へ行っていたのだ!妾を心配させて…………コノ………コノ」
「うぉ!姫さん、どうしたのですかい?!ちょっ!い、痛いですって」
襖を勢い良く入って来たのは、噂をしていたタケヒコ本人であった。
タケヒコの主人であるフォルスは、王の貫禄を台無しにする程に泣きじゃくりタケヒコの胸元を可愛らしく殴って………思いっ切り殴っている。
ドカンドカン
「ちょっ!姫さん、それは本当にシャレにならないですって」
「五月蝿い、タケヒコが全て悪いんじゃ」
「か、カズト助け」
「何処を向いておるのじゃ」
「ひぃぃぃ」
ズズズズ
「ふぅ、お茶美味しいな」
「モグモグ、このお茶菓子も美味しい」
「アレは放っといて良いのか?」
「いいのいいの。いつもの事なんだから」
あの中に入っていけると思うのか?一見、ケンカしてる風に見えてイチャイチャしてるだけだ。
本来、勇者は国の所有物であり戦力でもある。それが王族であっても自由に扱う事は出来ない。
例外があるとすれば、王族と恋仲になる事だ。剣の勇者カズトならレイラ、棍の勇者タケヒコならフォルスという感じだ。
「ハァハァ、か………カズト酷いじゃねぇか」
「2人の間に入れると思うか?俺が死ぬわ」
タケヒコとフォルスは落ち着いたようで、タケヒコの衣服はボロボロだが身体は無傷だ。
その一方、フォルスはケンカという名のイチャイチャを始める前と比べると顔とかの肌にツヤが増したように見える。
「それで、タケ何か掴めたのか?」
問題はそこだ。コロシアムで、ケンゴを見つけられなかったとしても何か手掛かりを掴めたのか?
「もう少し俺をいたわれよ。まぁいいや、結論から言うと…………ケンゴの奴は見つけられなかった」
まぁそう簡単に済むとは全員思ってない。なにせ、この国の王がそう思ってないのだから。
「警備も一見緩そうだが、厳重でな。女狂戦士族で全て固められている」
「ちょっと待て!コロシアムの女王とやらだけが女狂戦士族じゃないのか?」
「いや、コロシアムは何時しか女狂戦士族の一族経営となっておるよ」
女のみの種族故に、他種族からの男と交わるしかないのだが、種族の特性上、強者に惹かれるらしく弱者には興味がないらしい。
そこでコロシアムという訳だ。挑戦者は後が立たず、強者の男を探すには打って付けという訳だ。
それに記憶を1部変換する結界が施されている故に、挑戦者が失踪しても誰も気づかない。
「コロシアムは、獣人国家アルカイナ内にはあるが、我々王達も迂闊には手が出せない無法地帯なのじゃ」
ただし、噂程度だがコロシアムの甘い汁を吸おうと協力してる王もいると、フォルスは付け加えた。




