SS2-9、アリスのレストラン暮らし~父と酒を交わす~
仕方なく、ショウは地球での話をした。向こうでの自分の生活や他の知り合いである勇者での日常を。
「ほぉほぉ、空を飛ぶ鉄の塊とな」
「馬が無くても走る馬車とは興味深い」
「人が映る箱とは何とも怪しい」
まるで中世当たりの時代から現在にタイムスリップしてきた人みたいな反応をしてる。
そんな反応が新鮮で、ショウはニコニコと話し続けた。まぁ逆に自分が現在から中世辺りまでタイムスリップしたら同じ反応をするかもしれない。
「うむ、実に面白い話であった 」
「喜んで貰え光栄です。お嬢」
満足してくれたようだ。
「吾輩は、酒を堪能しようか。ショウも付き合え」
「この真昼間からお酒ですか。全く勘弁下さい。怒られるのは俺なんですから」
文句は言うが、渋々座るショウ。本当に国王へ意見を言える立場は、片手で事足りる。
「父上、妾もご相伴に預かっても宜しいか?」
デザートと酒は、別腹じゃ。
「グスッ、我が娘と酒を交わせる日が来るとは」
「泣いて大の大人がみっともないとは思わんか」
「泣いて何が悪い。成長した我が息子と娘とで一緒に酒を交わすのが吾輩の夢だったのだから」
小さい夢じゃのぉ。まぁ分からない訳でもない。
「それで兄上とは、まだ酒を交わしていないと」
「グハッ」
「お嬢、それは禁句です」
お互い鬼国シェール現国王と次期国王の立場的な立ち位置である上、公式な食事では酒は先ず出てこない。
非公式な外食でも護衛が付き添うため、2人きりでは先ず無理な話。酒は、ひっそりと私室で楽しむしかない。
「父上が、そんなに涙目になる所は初めて見るかや」
「はぁー国王を辞めようかな」
「「それは絶対にダメ」」
父上が、こんなに打たれ弱いとは知らなかった。妾とショウがハモリ、どうにか父上の国王退任を留めらせた。
父上が国王を辞めたら、誰が鬼国シェールを纏めるというのだ。
「むぅ、我が娘に言われたら、まだ続けるしかないではないか」
「陛下、早く頼みませんか?お嬢と酒を飲みたいのでしょう」
「おぉそうであるな」
アリスは、レストラン"カズト"にどれだけの酒があるのか知らないが、おそらくこの国中…………いや、世界中探してもこの店程に酒があるところは無いと思っている。
それに加え、どの酒も美味ときて、酒の肴も美味いときては文句のつけようがない。
「アリスよ、ここで寝泊まりして随分と経つが何かオススメな酒はあるか」
「そうですなぁ」
カズトにある酒は、どれも美味で迷う。少し考えると………ふと、頭に過ぎった酒の名前がある。
「鬼ころしはどうでしょう?」
「鬼ころし?」
「勇者の世界の逸話で、鬼を酔っ払わせ退治した話が残ってるようじゃ。そこから名前を取った酒だという」
「確か、度数はそこそこあったかと」
地球では、そこまで酒を好んで飲まなかったショウでさえ、名前は知ってる有名な酒だ。様々な酒蔵で製造してたはずだ。
「クッカカカカ、正に我々が飲むにピッタリな酒じゃないか。それにしよう」
「レイラ注文を頼もう」
「はーい、姫様ただいまぁ」
近くにちょうど元赤薔薇隊隊長であるレイラがいたので、アリスが呼び止めた。
「この酒を頼もうかの」
「オツマミ…………酒の肴はどうしますか?」
「オススメを頼む」
「はーい、かしこまりました」
注文に困った時の呪文的な言葉、オススメはこういう時に役に立つ。
「お待たせ致しました」
人数分のグラスと鬼ころしと銘打ってる透明な瓶が運ばれて来た。
「これが酒か?まるで水のようだ」
透明な酒が信じられないようにマジマジと見詰めるコウリュウ。異世界で一般的な酒と言えば、ブドウ酒かエールだ。どちらも色が着いており、ここまで透明な事は有り得ない。
「妾が注ぎますゆえ」
トポトポ
「すまぬな」
「親子じゃないですか」
「陛下、もしかして泣いてます?」
「お前はうるさい」
「~~~~~」
ショウの頭をボカンと叩くコウリュウ。鬼人族の王であるゲンコツは、勇者でも悶絶する程に強烈だ。
「陛下、何するんですか!」
「今のは、お前が悪い」
ゴクン
「う、美味い」
アリスが注いだ鬼ころしを1口含むと、コウリュウの怒りは何処かに飛んで行ったようで、グラスに残ってる鬼ころしを見詰め、頬がトロンと蕩けていた。




