SS2-7、アリスのレストラン暮らし~和風な朝食~
ちょっと箸休め
鬼国シェールの姫であるアリスの朝は早い。というより、レストラン"カズト"に来てから早くなったの方が正確だ。
鬼人族足るもの、1日でも訓練を休めば、取り戻すのに数日は掛かる事を知っている。
「はぁぁぁぁぁ、とぉぉぉぉっ」
レストラン"カズト"の地下で、アリスは自分の背丈以上ある薙刀を振るっている。その様子は、舞う蝶のようで美しい。
「精が出るわね。アリス」
「ライラ!いつ戻って来たのじゃ!」
ユニから赤薔薇隊隊長を引き継いでから、週に2日程のペースでレストラン"カズト"を訪れてる。
その理由は、もちろん憧れの元赤薔薇隊隊長であるユニに会うため、もう1つは親友であるアリスに会うため。
「少し前に着いたばかりですわ。アリスが素敵な【舞】を披露してるものですから、薙刀を…………こう構えてからずっと見てました」
それって、ほぼ最初からじゃないかな?一緒に演じたり、観戦すると分かってて見られるのは別に恥ずかしくないのだが、自分が知らずに見られるのは何か恥ずかしい。
「こ、声を掛けても良かったのじゃ」
「あらっ?恥ずかしがっていますの?顔が真っ赤ですわ」
「う、うるさいのじゃ。それで妾に何の用なのじゃ?」
「あらっ?アリスに用が無くちゃ見ては行けませんでしたか?」
ライラはウソをついている。【舞】を演じる鬼人族にとって、全部じゃないが多少相手の感情を見る事が出来る。
「ちょっ、ライラ!薙刀を、こちらに向けないでください」
「ウソをつくライラが悪いのじゃ」
「わ、分かりました。本当の事を言います。朝食の準備が出来たので呼びに来たのです」
「それを早く言わんか」
軽く汗を拭い、はだけた衣服を直して急ぎ向かう。腹が減っては戦は出来ぬとは良く言ったもので、【舞】を演じてたら腹が減ってきた。
「今日の朝飯は何じゃ?」
「姫様、遅いです」
「お主も人の事を言えぬであろう。妾が起きた頃には、まだ寝てたじゃろ」
「まぁまぁ朝飯が冷めてしまいます」
今日の朝食は、白いご飯・焼き鮭・豆腐の味噌汁・厚焼き玉子・焼き海苔が数枚。
レストラン"カズト"の朝食は大抵日本食と決まってる。他の宿泊客にも大変好評で、予約は半年待ちになっている。
「今日も美味しそうじゃ」
「ふぅ、疲れが一気に吹き飛びます」
ズゥズゥーっと味噌汁を1口含むと、何処か安心感が得られるような感覚に見舞われる。王城や赤薔薇隊では先ず得られない気持ちだ。
「そんなに忙しいのかや?」
「えぇ、ここに来るためにやってるみたいなものです。私も誰かに隊長の任を譲って、ここで働きたい。ですが、隊長に就ける者が居らず」
魔物や盗賊等と戦う事よりも書類整理にめげそうだ。隊長しかハンコを押せない書類が多く、ここへ来る事が出来なかったら発狂してる事、間違いない。
「そうか、大変なんだな。父上も上に立つ者として、毎日のように忙しくしていたのぉ」
オレンジジュースを片手に、ゴクンと一気に飲み干した。
「ほれ、この時は食べるのが一番じゃ。食べて運動して嫌な事は忘れるのじゃ」
「アリス……………そうですね。モグモグ…………ゴホッゴホッ」
「ほれほれ、急ぎ過ぎじゃ。飯は逃げやしやせんて」
アリスがライラの背中を優しく摩る。その様子を見ているシャルは、ハンカチを持ち目元を拭いている。
「姫様にも友達が出来たんですね。およよ」
「シャルよ、いい加減せい。このやり取りは何回目だ」
毎回、ライラが来て一緒に食事を取る度にしてる。いい加減、無視を決め込もうとしたが癇に障った。
「姫様、そんなに大声を挙げては周囲のお客様にご迷惑になります」
「誰のせいじゃと思っとる。まぁ良い、いい加減に食べるぞ」
この怒りを、この朝食で緩和させる。味噌汁は、良い出汁と長年熟成した味噌でのコントラストが素晴らしい。
焼き鮭は、良い塩加減と焼き加減で文句の付けようがない。1口をパクっと放り込み、ご飯を食べれば何杯でも進む。
「この黒いのは何でしょうか?」
「これは海苔と言ってな。こう、ご飯を巻いて食べるのじゃ」
「なるほど」
ライラは、まだ箸が苦手なので手で巻いてるが、アリスは慣れた手つきで、ご飯の上に乗せた海苔を箸ですくい取る様に、ご飯を包んだ。




