SS14-4、銃の勇者=《塔》~コロシアムの女王~
観客席から俺を見上げてる《力》が、高さ十数mはあるであろう高さからプールの飛び込みみたいにクルクルと回転しながら飛び降りた。
見事に足で着地し、こちらへ何事も無かったように歩いて来る。
「そちが余を探してる男かや」
「そうだ。これを見せれば分かるだろう」
ケンゴは自分の右手の甲を見せた。
「それは《塔》のマークと番号…………ふむ、なるほどのぉ。噂通りに勇者が幹部になったのかや」
「なっ!勇者!」
俺に負けた女………ジュリと言ったか?驚愕な表情で俺と《力》を交互に見返してくる。
「そうだえ。こやつは、銃の勇者にして魔神教会に鞍替えした男だえ。だが、余はまだ認めていないがな」
「どうすれば認めてくれる?俺は、教祖様に言われて来ただけなんだが?お前とコンビを組めって」
「お前だと!」
ミシミシとジュリを縛ってるロープが悲鳴をいってる。キツく縛ったはずだが、ロープの方が負けてるようだ。
ブチン
「姫様に何という口の聞き方をしてるのよ」
ロープが切れた勢いで俺にストレートを喰らわそうとする。だが、俺は見切り、その勢いのまま一本背負いで投げ飛ばした。
「ぐへぇ」
「ふぅ、いきなり殴ってくんなよ」
「くすっ、今のは柔道というやつかのぉ?」
「そうだ」
学校の授業で習った事が、ここでいかされるとは思いもしなかった。
「どうすれば認めてくれる?と問うたのぉ。余と戦い、余が気に入れば、お主のパートナーになろうぞ」
「いいぜぇ。今やるのか?」
こういう単純明快なルールの方がケンゴは好きだ。トランプやボードゲームなど頭を使うルールよりも殴り合いや死闘の方が性に合ってる。
「そう慌てなさんな。ここよりもピッタリな舞台を用意してやる。お主も今日1回は訪れたであろう」
《力》が上を指差した。
「まさか!コロシアムでやる気か?俺は正体を知られる訳には行かないんだぞ?」
「安心せい。コロシアムには、致命傷を避けるため【天命結界】の他にコロシアムの外に出たら出場者の名前や容姿などを忘れてしまう【認識阻害結界】が張られておるからのぉ。コロシアムにいる間は覚えておるじゃろうが、外に出た瞬間忘れてしまう。それに中と外との連絡も出来んからのぉ」
それなら安心か。
「例外があるとすれば、戦いの前にこうやって話してる事かのぉ。【認識阻害結界】は、コロシアム内で見聞きした出場者の情報を忘れる仕様じゃからな。それと、余のような有名だと効かんじゃろうな」
「それで何時やるんだ?」
「1週間後でどうだ?」
「うーむ」
1週間後かぁ。その間の宿とか泊まるところはどうしよう。今まで勇者兼冒険者として貯めた貯金はあるが、1週間だと支出がバカに出来ない。
「その間の宿は、こちらが手配しよう。それに、この国での買い物を半額に出来るカードも持っていけ」
「えっ?良いのか」
「コロシアムで、どれくらいの金が動くと思っておる。こんなの端金じゃ。それと、案内としてジュリをつけよう」
えっ?先程まで戦っていた相手に案内を任せるって、それは気まづいような感じがする。
恐る恐るジュリの方を見ると、怒るどころか満面な笑顔で《力》に感謝を述べている。
「姫様、ありがとうございます。このジュリ、ケンゴ様に無礼をなさいませんよう頑張ります」
ヒソヒソ
「うむ、既成事実を作っても構わぬぞ」
「が、頑張ります」
顔を真っ赤にしつつ、何処か嬉しそうな表情をするジュリ。3人で地下闘技場から出た後、もう日が暮れる寸前であった。
「もう夕暮なのか」
「余は、まだ仕事が残っておるのでな。1週間後で会おう。何かあれば、ジュリに通せば良い」
地下にいたから分からなかった。これでは、宿屋を取れるのか怪しくなってくる。
「私が案内するから大丈夫。姫様の客人って言えば、大抵泊まれる」
「それはすごいな」
コロシアムの女王と呼ばれるくらいだ。もう、コロシアム自体が1つの国みたいなものだろう。
そのトップに君臨する《力》の顔はもちろん広い。
「それにもう手配されてて、後は行くだけ。それと注意が1つだけある」
「うん?何だ?」
「この国は、獣人の国であって獣人の国ではない」
ケンゴは首を捻った。その謎掛けみたいな事を言われても意味が分からない。




