SS14-3、銃の勇者=《塔》~女狂戦士族~
コイントスは、ダダの時間稼ぎ。勇者の決定的な隙は、聖武器を違う属性やシリーズ系に変える時だ。
数秒としない時間だが、強者はその隙を見逃さない。だから、コイントスで、その数秒を稼ぐ。
チャリーンとコインが地面に落ちた。
「風の聖銃エヌマ・エリシュ【風速撃ち】」
コインが落ちたと同時に撃った。全体的の速度なら雷や光の方が速い。が、どちらも溜めに時間が掛かる。
風なら初速に限って、最速の属性だ。これで勝負が決まっていたなら楽だった。
「チッ、そう上手くいかねぇか」
その場から動きもせず、人差し指と中指で挟むように止めた。速度に重視した分、威力は落ちているが、それでも銃だ。
普通なら指は吹き飛ぶし、その先にある頭を貫通してる威力はある。
「見た事もない武器ですが、私には通用しません」
「そうかい。なら、これならどうだ?【竜巻弾】」
速度はそのままで、回転をいつもの数百倍加えた。常人の目には回転は速すぎて止まって見えるだろう。だが、女狂戦士族には回転してる風に見えた。
「それは流石に避けるか。でも、ただ避けるだけじゃダメだ」
ザスッと女狂戦士族の頬と肩にかすり傷程度だが、切り裂いた。
【竜巻弾】は、周囲の大気を巻き込み見えない刃を形成しながら進んでいく。
「私の皮膚にキズを!」
「ふん、腕を落としたと思ったのだがな」
その切り裂いた皮膚も塞がり血は止まっている。流石は近接最強と謳われし種族なだけはある。
「私の皮膚にキズを付ける武器があるとは驚いた。だが、今度は避ける」
「これを見ても同じ事を言えるか?」
闘技場の周囲に十数人のケンゴがいる。
「これは!幻ですか?」
「いや、実態はあるし、どれも俺だ」
一斉に喋り、闘技場の壁に反響する。だが、誰から見ても最初から戦っていたケンゴが本物だと誰もが思う事。
「コイツが本物」
つまりは目の前にいるケンゴが本物だということ。女狂戦士族は、凄まじい脚力で瞬時に距離を詰め、その細腕から考えられない剛腕如き鋭い正拳突きでケンゴの身体を貫く。
「これは!偽物」
貫いたケンゴは霧のように霧散した。いつ、すり変わったのか理解出来て無い様子。いや、すり変わってなんかいない。
ただ単に拳が空を切っただけだ。そこにケンゴがいると錯覚して。
俺の聖銃バジリスクは、2丁拳銃であり、それ故に奥義などの例外を除けば、片方ずつ違う属性が扱える。
右手に風のエヌマ・エリシュ、左手に水のヴァルナが握られており、辺り一面のケンゴはヴァルナの技術によるもの。
「水の聖銃ヴァルナ【幻影弾】殺傷能力はないが、時間を稼ぐには十分だ。まぁ俺の声は聞こえてないと思うがな」
幻覚作用のある極小な弾を【竜巻弾】で切り裂いた傷口から侵入させた。
痛みは無く幻覚に侵されているとは気付かない。だが、相手は類稀ぬ身体能力を持つ種族の一員。克服されるのは時間の問題だ。
「俺の勝ちだ」
だけど、それは1時間や2時間先の話だ。戦いの中で、そんなに待ってくれる相手はいない。
俺は、今だに幻影相手に戦ってる女を拘束し、ロープで縛り上げ幻影を解いた。
「気分はどうだ?」
「…………ワタシは、どうなって!」
自分が縛られてる事に気付いたようだ。簡単には解けないようキツく縛った積もりだが、相手が相手だ。油断はならない。
「くっ…………殺せ」
「俺は会わせてくれるなら、それで良いんだが」
こういう戦闘狂は、何故負けると死にたがるのかケンゴにとっては理解に苦しむ。生きていれば、次こそ勝てるかもしれないのに。
「余を探してる男がいるからと来てみれば、ジュリよ、そなた男に負けたのか?」
闘技場の観客席から声が響いて来た。ケンゴが斜め上を見上げると、そこには目の前の雁字搦めになってる女よりも数倍スタイルが良く、街中を歩けば男なら振り向くであろう美貌の持ち主。
誰であろう、ケンゴが探していた『コロシアムの女王』にして魔神教会幹部No11《力》その人だった。




