268食目、合成魔法
「まぁ別に知らなくても良い情報だったな」
勇者である俺が、そんな精密な魔力制御を出来る訳がないし、【泡爆弾】だけなのも限定過ぎて、将来使うか分からない技術だ。
「負け惜しみ?降参してもよろしくてよ」
「いや、まだ手がある内は負けは認めない」
まだまだ数え切れない程の魔法が【貯蔵】されている。知識としては知ってるが再現出来るか分からないがやってみる価値はある。
それは合成魔法だ。2つの属性を文字通り合わせ放つ魔導師にとっては極地の一つだとされる高等技術。
「出来るかは分からないが、試して見る価値はある。炎と土を取り出して…………溶岩魔法【溶岩龍】」
炎魔法と土魔法の紙を【貯蔵】から取り出し重ね合わせるように左手のキャンサーで突き刺すと、溶岩で出来た龍が姿を現した。
「なっ!合成魔法だと!それも、これは溶岩魔法」
「大正解だ。防げるなら防いでみな」
合成魔法は努力で習得出来るものではない。天性の才能が必須で、いくら魔力の扱いに長けている森精族の元女王でも合成魔法は扱えないはず。
溶岩の龍が《世界》に迫って行く最中、世界に異変が起きた。
「世界よ、我の身を守りたまえ【世界障壁】」
グニャリと透明な何かが《世界》の前へ立ち塞がり溶岩の龍の行先を防いだ。
「大気の壁か?それも物凄く圧縮して鉄筋コンクリート並に硬くなっている」
龍を模してるだけはあって、多少意思があるように動かせるが、あの障壁を突破出来ない。
それに加え、龍の身体に巻き付き締め上げ破壊されてしまう。
「合成魔法も驚きでしたが、こんなものですか?正直ガッカリです」
「チッ…………成功はしたが、やはり初めてだとこんなものか」
「初めてだと!初めてで使用したと言うのですか?!」
初めてで何が悪い。
「何事にも初めては存在するさ。だから、俺も何が起こるのか正直分からない」
「ちょっ止めなさい。怖くないのですか!」
別に怖くない。と、言ったらウソになる。だけど、何故だろうか?恐怖より好奇心の方が勝っている。
他にどんな事が出来るのだろうか?とか、他にどんな組み合わせがあるのだろうか?とか、ワクワクが止まらない。
「何事も失敗を恐れていては前に進めない」
何の躊躇もなく、【貯蔵】から2枚の魔法を取り出した。先程の溶岩魔法で大体の要領は掴めた。また溶岩魔法を、ぶっぱなす。
「そんな無造作に合成魔法を放ったら暴発したらどうするのだ」
俺が何かをするのか察知したようだ。天性の才能を持っていようとも、ぶっつけ本番で試してみる輩は今現在カズトをおいて他にいないだろう。
だが、それは一般常識的な考え方だ。勇者だと話は変わって来る。
勇者の能力の一つに魔法をほぼ使えない代わりに聖武器を通してなら、属性が付与された技であれば技術として扱える。
その聖武器が魔法を内包されてるなら、魔法だって例外ではない。
それはすなわち、先ほど放った溶岩魔法も魔法であって魔法ではない。技術として数えられる。
「失敗はしないさ。何故なら、俺は勇者だから」
さて、同じ魔法ばかりでもつまらない。他の合成魔法も試してみたい。
「これなんか、良いかも。風と雷で嵐魔法【雷鳴豹風】」
風と雷の紙を重ね合わせ、キャンサーに突き刺した。頭に浮かんだ魔法名を叫んだが、どんな魔法なのかカズト自身も分からない。
「辺りが真っ暗な雲に覆われ」
バチバチ
「竜巻がネズミ一匹入る余地がないくらいに立ち昇っている。まるで、この世の終わりみたいな風景だ」
自分でも驚いてる。溶岩は溶岩で驚いたけど、こちらは別の意味で驚きを隠せないでいる。
合成魔法って下手すると、各奥義に匹敵する程に協力だ。それに、この嵐魔法に関しては、この世界を壊しえるかもしれない。
「世界よ、我の身を守りたまえ」
おそらく無駄だ。この世界が、お前を守ろうとも俺の魔法が壊してしまうから。
「なっ!無敵な強度を誇る世界の壁にヒビが!」
「いや、それだけじゃないみたいだ」
ドス黒い雷雲から《世界》に目掛けて稲光が走ったと思った一瞬、腹を貫かれたようで口や目元から黒い煙が上がっている。




