SS13-2、魔術師と杖〜世界の復讐心〜
「地球の日本での生活は全てウソだったの?」
「ウソじゃないさ。楽しくて失いたくない生活だったさ」
「それじゃぁ…………!」
瑠璃の言葉は続かなかった。《魔術師》から息をするのも辛い位に殺気が向けられた。
「あぅっ」
「あっ、ごめんごめん。これで大丈夫かな?」
殺気を漏らしてる事に気付き抑えた。瑠璃は息を吹き替えしたように息を深く吸いこんでる。
「僕にとっては復讐の方が勝っていたという事さ。この世界に復讐してやるってね」
「それでも…………それでも復讐は止めるべきだわ」
「復讐は虚しいって?」
「そ、そうよ」
アッハハハと僕は笑った。どれくらい笑ったのだろう?少しノドが乾いた感覚に陥る。
「そう思うのは…………1度も不幸を感じてないか、不幸があっても鈍感なだけか…………まぁどちらにしても瑠璃には僕の気持ちは分からないだろうね」
個人で裏切られただけなら、まだ踏ん切りが付く。だが、国や世界から裏切られたら絶望しか残らず、自殺か復讐のどちらかを取るしかない。
僕は後者を取った。折角、復讐を成し遂げる力があるんだからやらないとね。
「今ならまだ間に合うわ。ここから抜け出しましょう」
「もう遅いよ。まだ見せてなかったよね」
「それは!」
右手の甲を見せた。そこにはNo1というローマ数字と《魔術師》の絵が浮かび上がっている。
「これは教祖様の配下に加わり、魔神教会の幹部になった証。これを得たからには、もう後戻りは出来ない。僕は、もう凛じゃない。《魔術師》なんだ」
会議で話題に挙がった以前から瑠璃の耳に魔神教会の事は噂程度だが入ってきていた。
まさか仲間だと思っていた凛が魔神教会の幹部になってしまうとは思いもしなかった。
「さぁこれで本当の自己紹介は終わった事だし、始めようか」
「何をするの?」
「決まってるじゃないか。瑠璃も僕達の仲間になってもらうんだ」
「はぁっ!なにを言ってるの?!」
本の勇者:凛もとい《魔術師》の言ってる意味が分からない瑠璃は混乱している。
魔神教会の敵である勇者に仲間になれって言っても無理なはずなのに、《魔術師》は何を言ってるんだと理解に苦しむ。
「何も自分の意志で魔神教会に入って貰おうと言ってる訳ではない」
「それじゃぁ…………」
まだ助かる見込みはあるのではと頭を過ぎった。だが、その考えが甘い事を思い知らされた。
「瑠璃、君の記憶や人格を弄らせて貰う」
「なっ!!」
「なーに、痛くはないさ」
「そんな事は不可能よ」
「それは、地球での話だろ?ここには魔法や技術が溢れてる。それに僕が何の勇者なのか忘れた訳ではあるまい」
「本の勇者」
本の勇者の聖武器である聖書ブリーズ・アメンは、聖優イクリプスと同じ万能と呼ばれ、属性系を持たない代わりに様々な奇跡をもたらす。
「本とは、物語や学術を後世に残すためのもの。しかし、中には間違ってる文書や記述があるだろう。それを直すように相手の記憶や人格を改変出来る」
「なっ!そんな事、一言も」
「誰にも言う訳ないだろ。端から見たら危険な技術なんだ。もし言ったら投獄されかねない」
悪用すれば自分だけの死を恐れない軍隊の出来上がりなのだから。国から見れば脅威と見られ即刻死刑になるだろう。
「この技術を使って、瑠璃…………君の記憶や人格を改変する。大丈夫、直ぐに終わるさ」
「や、止めて。来ないで」
「そんなに怖がらなくても大丈夫。今の記憶も無くなるのだから」
ビリッと聖書ブリーズ・アメンのページ1枚を破き、瑠璃の頭上に貼り付ける。
「【頁目改変】発動」
「イヤァァァァァ」
貼り付けたページからバチバチと電気が迸るように見えるが、特に物理的なダメージはないから安心して欲しい。
ただし、精神的苦痛は多少なりともある。記憶や人格を改変してるのだから。
「終わったか。どうだ平気か?気分は悪くないか?」
拘束具を外してやると膝まづいた。
「はい、《魔術師》様」
よし、成功のようだ。命令に従順な人形と化した
「後はこれだな」
僕の手元に教祖様から頂いた《女帝》のカードが握られている。
「これを取り込め」
「畏まりました」
僕から受け取り、なんの迷いもなく受け入れた。激痛が走ってるはずだが、顔色を少しも変えずに立ったままでいる。




